15 / 143
嘘の罪
1
しおりを挟む
『わ、こんなところにねこ……!』
あれは私がまだ6つか、7つほどのことだっただろうか。お母様の病気平癒の祈願か何かで、お父様に連れられて森の奥にある神様にお参りに行ったときのこと。私は、途中でお父様とはぐれてしまい、一人森の中を彷徨い歩いていたら、木の幹の下に、ぐたりとして丸まっている白猫を見つけた。
よく見ると、体には黒の縞模様も。かわいらしいその姿に、私はお父様とはぐれてしまって不安だったことも忘れて、その白猫にゆっくりと近づいた。
『ねこさん、元気ないのかな……』
人間が近づいても逃げもしないところを見るに、その猫はケガをしたのか、病気なのか、随分と弱っているようだった。幼い私は、そんな猫を放っておくこともできず、「よいしょ」と抱き上げて一緒に連れて行くことにした。
抱き上げたときの、ほんのり温かいその存在は、一人だった私にはとても心強かった。
『ねこさんも、お祈りしたら神様が治してくれるかも』
そんな声かけをしながら、しばらく歩いていると森の中にひっそり佇む朱色の鳥居を見つけた。すると、鳥居に近づくにつれて腕の中の猫がぴくぴくと動き出して、しまいには体を起こす。
『元気になったの?』
私の声に反応した猫がくるりとこちらを向き、澄んだ金色の瞳と目が合う。吸い込まれそうな、宝石のような綺麗な目。それから猫はきょろきょろと辺りを見渡していた。
『元気になってよかったね』
先ほどのぐったりとしていた様子とは違って、私も一安心。すると、後ろの方から『あやめ~!』とお父様の声が聞こえてきた。
『とうさま~!』
私が笑顔になって手を振り返せば、手にざらりとした感触。手元を見れば、猫が私の手をぺろりと舐めているところだった。それから、猫はもう一度私の顔をじっと見つめたあと、ひょいと腕から飛び降り、鳥居の向こうへと消えていった。
元気になったから、もう家に帰るのだろうか。
それともお父様が来たから逃げたのだろうか。
理由はわからなかったけれど、背を向けていってしまう姿を私は少し寂しく思っていた。
あの猫は、今どうしているだろう。元気でいるのだろうかと、ふとそんなことが頭をよぎった。
あれは私がまだ6つか、7つほどのことだっただろうか。お母様の病気平癒の祈願か何かで、お父様に連れられて森の奥にある神様にお参りに行ったときのこと。私は、途中でお父様とはぐれてしまい、一人森の中を彷徨い歩いていたら、木の幹の下に、ぐたりとして丸まっている白猫を見つけた。
よく見ると、体には黒の縞模様も。かわいらしいその姿に、私はお父様とはぐれてしまって不安だったことも忘れて、その白猫にゆっくりと近づいた。
『ねこさん、元気ないのかな……』
人間が近づいても逃げもしないところを見るに、その猫はケガをしたのか、病気なのか、随分と弱っているようだった。幼い私は、そんな猫を放っておくこともできず、「よいしょ」と抱き上げて一緒に連れて行くことにした。
抱き上げたときの、ほんのり温かいその存在は、一人だった私にはとても心強かった。
『ねこさんも、お祈りしたら神様が治してくれるかも』
そんな声かけをしながら、しばらく歩いていると森の中にひっそり佇む朱色の鳥居を見つけた。すると、鳥居に近づくにつれて腕の中の猫がぴくぴくと動き出して、しまいには体を起こす。
『元気になったの?』
私の声に反応した猫がくるりとこちらを向き、澄んだ金色の瞳と目が合う。吸い込まれそうな、宝石のような綺麗な目。それから猫はきょろきょろと辺りを見渡していた。
『元気になってよかったね』
先ほどのぐったりとしていた様子とは違って、私も一安心。すると、後ろの方から『あやめ~!』とお父様の声が聞こえてきた。
『とうさま~!』
私が笑顔になって手を振り返せば、手にざらりとした感触。手元を見れば、猫が私の手をぺろりと舐めているところだった。それから、猫はもう一度私の顔をじっと見つめたあと、ひょいと腕から飛び降り、鳥居の向こうへと消えていった。
元気になったから、もう家に帰るのだろうか。
それともお父様が来たから逃げたのだろうか。
理由はわからなかったけれど、背を向けていってしまう姿を私は少し寂しく思っていた。
あの猫は、今どうしているだろう。元気でいるのだろうかと、ふとそんなことが頭をよぎった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる