59 / 59
番外編 遍歴
しおりを挟む
アレクシスがオリヴァーの過去にやたら執拗にこだわってしまうのには当然理由がある。
まずやり直す前の人生において、彼の性に対するだらしなさを耳にしている。そして上の兄とそういった行為に及んでしまっているのを目撃したことがあった。
決して覗こうとかそういうのではなく、たまたま部屋の前を通り過ぎたら扉がうっすら空いていて、中から声が聞こえてきた。
荒い息遣いに苦しそうな声。初めは誰か病気で倒れているのではないか、と心配したけれど、ソファーの上で睦み合っている二人を見て、喉の奥がひゅっと狭くなるのを感じた。
まるで動物の交尾のような体勢で後ろから挿入されている自分の恩人。女だけでなく男も相手をしている話は聞いていたけれど、それを目の当たりにすると複雑な気分になった。じわじわと腹の奥から込みあがってくるどす黒い感情。それが嫉妬だと気づくのに時間はそう要さなかった。
そこでようやくアレクシスは彼に対して恋慕の情を抱いているのに気づいた。きっかけは分からないけれど、やはり命の恩人だからだろうか。もう朧げにしか覚えていないけれど、日に透ける金色の髪と心配そうにこちらを見つめる海を彷彿させる青い瞳。最初は天使が迎えにやってきたのかと思った。
そう思うと自分が好きになったのは彼の顔かもしれない。それならば彼の遍歴に辟易しつつも、ずっと慕い続けてきた理由も分からなくはなかった。
「まあ、確かにキレーな顔はしてますよね」
先日での出来事をバルナバスに愚痴ると呆れ気味にそう言われた。うんざりとした表情を隠すことのない彼にアレクシスはムッとする。
「もう少し真面目に話を聞いてくれたっていいじゃないか」
「十分聞いていると思いますけどねえ。あ、パトリック呼びます?」
弟の名前をすぐに出してくるあたり、もう自分は相手をしたくないと言っているようなものだ。元々、バルナバスはアレクシスに対して遠慮がなかったけれど、オリヴァーの話題になるとそれが顕著に出てくる。
「俺が本当のことを言ったところで、気分を悪くするじゃないですか」
「内容にもよるだろ」
「じゃあ、ここ最近、色気がヤバいって言ったら怒りません?」
「…………どういう目で見ているんだ」
「ほら、怒った」
反論しようと思ったが、あまりに言い訳じみていたのでアレクシスは口を噤んだ。
まだ出会った時の幼さが脳裏に残っているけれど、そろそろ成人を迎える彼は美しさに磨きがかかっている。前回の人生でも処刑されたときの二十五歳の姿は彼の最盛期であり、その美貌を見た庶民たちはあの見目で第二王子を篭絡したなど言われていて思い出すだけで腹が立った。
そもそもオリヴァー自身、自分の見目が周囲よりもずば抜けていることを自覚している。だから余計に性質が悪い。そして多少、自分が犠牲になって物事が円滑に進むのなら、それを受け入れてしまう。
恋人となって数年が経過したけれど不安しかない。
「まあ、でも実際、そういうやつは多いですからねえ。いっそのこと結婚でもしてしまえば?」
「けっ?!」
「別に男同士で結婚してはいけない決まりはありませんから」
確かにそうだが、きっとオリヴァーはそういった形式には捉われないだろう。彼は周囲の目など全く気にしない。それに少々害が出てきたとしても武力か権力に訴えて解決してしまう。アレクシスに守ってもらわれるような人ではない。
「あーあ、檻にでも閉じ込めておければ安心するのに」
そんなこと決して出来はしないけれど冗談交じりにそういうと、バルナバスは真顔で「……うわっ」と呟いた。
まずやり直す前の人生において、彼の性に対するだらしなさを耳にしている。そして上の兄とそういった行為に及んでしまっているのを目撃したことがあった。
決して覗こうとかそういうのではなく、たまたま部屋の前を通り過ぎたら扉がうっすら空いていて、中から声が聞こえてきた。
荒い息遣いに苦しそうな声。初めは誰か病気で倒れているのではないか、と心配したけれど、ソファーの上で睦み合っている二人を見て、喉の奥がひゅっと狭くなるのを感じた。
まるで動物の交尾のような体勢で後ろから挿入されている自分の恩人。女だけでなく男も相手をしている話は聞いていたけれど、それを目の当たりにすると複雑な気分になった。じわじわと腹の奥から込みあがってくるどす黒い感情。それが嫉妬だと気づくのに時間はそう要さなかった。
そこでようやくアレクシスは彼に対して恋慕の情を抱いているのに気づいた。きっかけは分からないけれど、やはり命の恩人だからだろうか。もう朧げにしか覚えていないけれど、日に透ける金色の髪と心配そうにこちらを見つめる海を彷彿させる青い瞳。最初は天使が迎えにやってきたのかと思った。
そう思うと自分が好きになったのは彼の顔かもしれない。それならば彼の遍歴に辟易しつつも、ずっと慕い続けてきた理由も分からなくはなかった。
「まあ、確かにキレーな顔はしてますよね」
先日での出来事をバルナバスに愚痴ると呆れ気味にそう言われた。うんざりとした表情を隠すことのない彼にアレクシスはムッとする。
「もう少し真面目に話を聞いてくれたっていいじゃないか」
「十分聞いていると思いますけどねえ。あ、パトリック呼びます?」
弟の名前をすぐに出してくるあたり、もう自分は相手をしたくないと言っているようなものだ。元々、バルナバスはアレクシスに対して遠慮がなかったけれど、オリヴァーの話題になるとそれが顕著に出てくる。
「俺が本当のことを言ったところで、気分を悪くするじゃないですか」
「内容にもよるだろ」
「じゃあ、ここ最近、色気がヤバいって言ったら怒りません?」
「…………どういう目で見ているんだ」
「ほら、怒った」
反論しようと思ったが、あまりに言い訳じみていたのでアレクシスは口を噤んだ。
まだ出会った時の幼さが脳裏に残っているけれど、そろそろ成人を迎える彼は美しさに磨きがかかっている。前回の人生でも処刑されたときの二十五歳の姿は彼の最盛期であり、その美貌を見た庶民たちはあの見目で第二王子を篭絡したなど言われていて思い出すだけで腹が立った。
そもそもオリヴァー自身、自分の見目が周囲よりもずば抜けていることを自覚している。だから余計に性質が悪い。そして多少、自分が犠牲になって物事が円滑に進むのなら、それを受け入れてしまう。
恋人となって数年が経過したけれど不安しかない。
「まあ、でも実際、そういうやつは多いですからねえ。いっそのこと結婚でもしてしまえば?」
「けっ?!」
「別に男同士で結婚してはいけない決まりはありませんから」
確かにそうだが、きっとオリヴァーはそういった形式には捉われないだろう。彼は周囲の目など全く気にしない。それに少々害が出てきたとしても武力か権力に訴えて解決してしまう。アレクシスに守ってもらわれるような人ではない。
「あーあ、檻にでも閉じ込めておければ安心するのに」
そんなこと決して出来はしないけれど冗談交じりにそういうと、バルナバスは真顔で「……うわっ」と呟いた。
104
お気に入りに追加
252
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説

フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
塔の上のカミーユ~幽囚の王子は亜人の国で愛される~
蕾白
BL
国境近くにあるその白い石の塔には一人の美しい姫君が幽閉されている。
けれど、幽閉されていたのはある事情から王女として育てられたカミーユ王子だった。彼は父王の罪によって十三年間を塔の中で過ごしてきた。
そんな彼の前に一人の男、冒険者のアレクが現れる。
自分の世界を変えてくれるアレクにカミーユは心惹かれていくけれど、彼の不安定な立場を危うくする事態が近づいてきていた……というお話になります。
2024/11/16 第一部完結になります。
ファンタジーBLです。どうかよろしくお願いいたします。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
運命の息吹
梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。
美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。
兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。
ルシアの運命のアルファとは……。
西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。
【完結】オーロラ魔法士と第3王子
N2O
BL
全16話
※2022.2.18 完結しました。ありがとうございました。
※2023.11.18 文章を整えました。
辺境伯爵家次男のリーシュ・ギデオン(16)が、突然第3王子のラファド・ミファエル(18)の専属魔法士に任命された。
「なんで、僕?」
一人狼第3王子×黒髪美人魔法士
設定はふんわりです。
小説を書くのは初めてなので、何卒ご容赦ください。
嫌な人が出てこない、ふわふわハッピーエンドを書きたくて始めました。
感想聞かせていただけると大変嬉しいです。
表紙絵
⇨ キラクニ 様 X(@kirakunibl)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
今回この作品を一気読みさせていただきました。
主人公の性格が、ただ絆されるだけでなく、しっかりを芯を持って行動しており、最後まで強気な性格を貫き通しているのが、読んでいてとても心地よかったです。
作品の面白さもさることながら、テンポよく状況が進むのでとても読みやすかったです。
お体に気をつけて、これからも既存の作品や、新たな作品を書いてくださると嬉しいです。
素敵な作品を書いてくださりありがとうございます。
グランラババー様
こんにちは。ご感想ありがとうございます。
また一気読みありがとうございます!
話はブレブレになったとしても、主人公だけはブレちゃいけないな、と思いながら書いていたので嬉しいです。
これからも思いつく限りゆっくり書いていこうと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。