41 / 59
6-5 モルドペセライ帝国
しおりを挟む
オリヴァー達が会議室に入ると、視察をしていたジュノ辺境伯もいて空気が凍り付くのを感じた。対面にオリヴァーが座ると、やれやれとため息を吐き、ジュノ辺境伯はにこりと微笑む。
「さすがはエッカルト様のお孫様ですね」
「え?」
「あの方も周りが止めるのを無視してよく単騎で突撃しておりましたから」
祖父らしい行動に噴き出してしまうと周りの雰囲気も一変して柔らかくなった。ジュノ辺境伯なりの気遣いなのか、勝手な行動を戒められたような気まずい雰囲気を感じていたオリヴァーも話しやすくなった。
「早速ですが、オリヴァー様には帝国側の協力者を紹介しましょう」
「協力者?」
「ええ、帝国も一枚岩ではありません。先の戦争で痛い思いをした記憶がまだ残っていますからね。意外と王国と友好関係を結んだままで居たい人もいるんですよ」
一人で躍起になっていた気持ちが徐々に落ち着いていく。一人で出来ることはあまり多くない。分かっていたはずなのに、戦争を止めるために手段を選ばず、周囲の声にも耳を貸さず一人で突っ走っていた。これでは前回と同じように失敗するのが目に見えている。
「シェフィールド大公。オリヴァー様も名前ぐらいはご存じでしょう?」
「え!? ……現皇帝の弟、でしたよね」
隣国の上級貴族の名前はほとんど頭に入っているし、さすがに皇帝の弟を忘れるわけもなく、そんな大物がこちらの味方だということに驚きが隠せなかった。ジュノ辺境伯がやり手なのは知っていたが、大公とまで繋がっているのは予想外だった。
「オリヴァー様にはパトリックと共に帝国へ行っていただきます。第二王子とは偶然を装ってお会いになるほうがいいでしょう。彼の性格から考えて、あなた様から第二王子を追って帝国までやってきた、と言えば、受け入れてくれるはずです」
とても脚色された出会いであるが、ジュノ辺境伯の言う通りオリヴァーがルドルフを追って帝国まで来たと言えば受け入れてくれるだろう。ただまだ十五歳のパトリックを連れて行くのは気が引ける。いくら大物が味方にいると言っても、潜入調査が危険極まりないのは言うまでもない。
「行くなら俺一人で……」
「いえ、それは絶対にダメです。一人ぐらい身内を連れて行かないと、シェフィールド大公があなた様に協力するとは限りませんから」
シェフィールド大公との信頼関係は長年交流を続けたジュノ辺境伯だからこそ築かれたものだ。王国の侯爵家とは言え、オリヴァーとの信頼は無いに等しい。シェフィールド大公を紹介した時点で信頼されている証拠にはなり得そうだが、話ぶりからすると気難しい人物なのかもしれない。
「バルナバスは第二王子に顔を知られています。それにこのパトリックはそれなりにやるほうなんですよ。護衛にもばっちりです」
隣を見るとパトリックもにこりと微笑んでジュノ辺境伯の言葉を肯定する。
「あとは名目ですね。ぶらりと帝国に来ました、とだけでは第二王子は騙されても、その他には怪しまれるでしょう」
「王国貴族だけではルドルフ殿下を後押しできないと考えて、帝国に協力者を探しに来た、と言うのはどうでしょう。スコット家にも繋がりのある帝国貴族がいますので、そちらを頼ってきたと説明します」
「いいですね」
あとは突然、オリヴァーが自分の考えをコロッと変えてしまったことをルドルフにどう説明するか、だが、彼が前回の記憶を持っていて、それでもなお、前回と同じような道を歩くというならばオリヴァーにも考えはある。
ただ成り上がりたいとだけ思っているつまらない男になればいいのだ。
ルドルフが王位に就いた後は、自分に宰相の地位を約束させる。やはり自分にはあなたしかいないのだ、と言えば、きっとルドルフは落ちる。
その代わりに色々と差し出さなければならないだろうが、前回の人生でも我慢してきたのだから今回も我慢できるだろう。
ふと脳裏にアレクシスの顔がよぎった。
「さすがはエッカルト様のお孫様ですね」
「え?」
「あの方も周りが止めるのを無視してよく単騎で突撃しておりましたから」
祖父らしい行動に噴き出してしまうと周りの雰囲気も一変して柔らかくなった。ジュノ辺境伯なりの気遣いなのか、勝手な行動を戒められたような気まずい雰囲気を感じていたオリヴァーも話しやすくなった。
「早速ですが、オリヴァー様には帝国側の協力者を紹介しましょう」
「協力者?」
「ええ、帝国も一枚岩ではありません。先の戦争で痛い思いをした記憶がまだ残っていますからね。意外と王国と友好関係を結んだままで居たい人もいるんですよ」
一人で躍起になっていた気持ちが徐々に落ち着いていく。一人で出来ることはあまり多くない。分かっていたはずなのに、戦争を止めるために手段を選ばず、周囲の声にも耳を貸さず一人で突っ走っていた。これでは前回と同じように失敗するのが目に見えている。
「シェフィールド大公。オリヴァー様も名前ぐらいはご存じでしょう?」
「え!? ……現皇帝の弟、でしたよね」
隣国の上級貴族の名前はほとんど頭に入っているし、さすがに皇帝の弟を忘れるわけもなく、そんな大物がこちらの味方だということに驚きが隠せなかった。ジュノ辺境伯がやり手なのは知っていたが、大公とまで繋がっているのは予想外だった。
「オリヴァー様にはパトリックと共に帝国へ行っていただきます。第二王子とは偶然を装ってお会いになるほうがいいでしょう。彼の性格から考えて、あなた様から第二王子を追って帝国までやってきた、と言えば、受け入れてくれるはずです」
とても脚色された出会いであるが、ジュノ辺境伯の言う通りオリヴァーがルドルフを追って帝国まで来たと言えば受け入れてくれるだろう。ただまだ十五歳のパトリックを連れて行くのは気が引ける。いくら大物が味方にいると言っても、潜入調査が危険極まりないのは言うまでもない。
「行くなら俺一人で……」
「いえ、それは絶対にダメです。一人ぐらい身内を連れて行かないと、シェフィールド大公があなた様に協力するとは限りませんから」
シェフィールド大公との信頼関係は長年交流を続けたジュノ辺境伯だからこそ築かれたものだ。王国の侯爵家とは言え、オリヴァーとの信頼は無いに等しい。シェフィールド大公を紹介した時点で信頼されている証拠にはなり得そうだが、話ぶりからすると気難しい人物なのかもしれない。
「バルナバスは第二王子に顔を知られています。それにこのパトリックはそれなりにやるほうなんですよ。護衛にもばっちりです」
隣を見るとパトリックもにこりと微笑んでジュノ辺境伯の言葉を肯定する。
「あとは名目ですね。ぶらりと帝国に来ました、とだけでは第二王子は騙されても、その他には怪しまれるでしょう」
「王国貴族だけではルドルフ殿下を後押しできないと考えて、帝国に協力者を探しに来た、と言うのはどうでしょう。スコット家にも繋がりのある帝国貴族がいますので、そちらを頼ってきたと説明します」
「いいですね」
あとは突然、オリヴァーが自分の考えをコロッと変えてしまったことをルドルフにどう説明するか、だが、彼が前回の記憶を持っていて、それでもなお、前回と同じような道を歩くというならばオリヴァーにも考えはある。
ただ成り上がりたいとだけ思っているつまらない男になればいいのだ。
ルドルフが王位に就いた後は、自分に宰相の地位を約束させる。やはり自分にはあなたしかいないのだ、と言えば、きっとルドルフは落ちる。
その代わりに色々と差し出さなければならないだろうが、前回の人生でも我慢してきたのだから今回も我慢できるだろう。
ふと脳裏にアレクシスの顔がよぎった。
94
お気に入りに追加
252
あなたにおすすめの小説

フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
塔の上のカミーユ~幽囚の王子は亜人の国で愛される~
蕾白
BL
国境近くにあるその白い石の塔には一人の美しい姫君が幽閉されている。
けれど、幽閉されていたのはある事情から王女として育てられたカミーユ王子だった。彼は父王の罪によって十三年間を塔の中で過ごしてきた。
そんな彼の前に一人の男、冒険者のアレクが現れる。
自分の世界を変えてくれるアレクにカミーユは心惹かれていくけれど、彼の不安定な立場を危うくする事態が近づいてきていた……というお話になります。
2024/11/16 第一部完結になります。
ファンタジーBLです。どうかよろしくお願いいたします。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
【完結】オーロラ魔法士と第3王子
N2O
BL
全16話
※2022.2.18 完結しました。ありがとうございました。
※2023.11.18 文章を整えました。
辺境伯爵家次男のリーシュ・ギデオン(16)が、突然第3王子のラファド・ミファエル(18)の専属魔法士に任命された。
「なんで、僕?」
一人狼第3王子×黒髪美人魔法士
設定はふんわりです。
小説を書くのは初めてなので、何卒ご容赦ください。
嫌な人が出てこない、ふわふわハッピーエンドを書きたくて始めました。
感想聞かせていただけると大変嬉しいです。
表紙絵
⇨ キラクニ 様 X(@kirakunibl)
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる