やり直しの人生、今度こそ絶対に成り上がってやる(本編完結)

カイリ

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6-4 モルドペセライ帝国

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 オリヴァーが国境に到着するとずらりと兵が並んでいて、ここまでか、と肩を落とした。さすがは防衛の要であるジュノ辺境伯家。オリヴァーが城から出たと分かった途端、国境の警備を強化したのだろう。バルナバスも気を付けろと言っていたが、このことだったのだろうか。

「スコット侯爵令息、オリヴァー様でいらっしゃいますか」

 兵士の中の一人に声を掛けられて、オリヴァーは馬から降りた。

「そうだ」

「今後についての作戦会議を開きますので、どうぞこちらへ」

「……へ?」

 きょとんとしている間にもオリヴァーの手から手綱は奪われ、馬は厩舎へと連れていかれる。オリヴァーが立ち尽くしているのに気づいた案内人は兜を外して振り返った。

「アレクシス殿下からスコット侯爵令息に協力するよう指示がございました」

「……アレクシス殿下から指示が?」

 繰り返す様に名前を言うと心臓が握りしめられたように苦しくなった。

「ええ、令息も殿下からのご指示で帝国へ向かうのでしょう?」

 一瞬、兵士が何を言っているのかできなかったけれど、「あ、ああ」と頷いて話を合わせる。アレクシスはこの作戦をあまりよく思っていなかったはずなのに、どうして自分の指示、と言うことにしたのだろうか。成功したときの手柄を横取りするためなのか、とも思ったが、彼がそんなことをする人間ではないとオリヴァーは十分に分かっている。

 それでも彼の真意を汲んでやれるほど、オリヴァーは素直な性格ではなかった。ここまで引き留めにこないことも薄情に思えてきて、オリヴァーは無意識に歯を食いしばる。引き留めに来たところで決心は変わらないわけだが。

「ご挨拶が遅れました。ジュノ辺境伯が次男、パトリック・フォン・ジュノと申します」

 オリヴァーが考え事をしている間にも会議室に到着したようだ。入る前に自己紹介をされて、オリヴァーはハッと顔を上げる。

「……バルナバスの弟か」

「ええ、今年で十五になります。よろしくお願いいたします、スコット侯爵令息」

 礼儀正しいところは兄弟と言うより、ジュノ辺境伯家がそういう教育をしているからだろう。文官も上下関係にうるさいが、武官はそれ以上だと聞く。辺境伯という地位にありながらも、彼らはそれに驕っていない印象があった。

「オリヴァーで構わない」

「承知いたしました。これからよろしくお願いします、オリヴァー様」

 にっこりとほほ笑みながらも何を考えているのか分からない表情は兄弟そっくりだとオリヴァーは思った。
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