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番外編
しおりを挟む彼は明らかに激怒していた。
彼が利己的で傲慢であるのはかなり有名な話で、ルドルフの側に居るのもスコット侯爵家を乗っ取るつもりだと噂されても、彼自身が「その方がスコット家に相応しいでしょう?」と否定しなかったり、自分の恩人が悪人だったと知った時は寝込みそうになるぐらいショックを受けた。
だがそれでもきっかけがあれば改心するのではないかと期待していたし、全ての罪を擦り付けられたときは同情もした。そして時を戻して彼がすっかり変わった時は、ようやく自分の願いが通じたのではないかと喜んでしまった。今の人生を歩んでいる彼は自分中心ではなく、しっかりと周りのことを考えている。そして何より人を利用して成り上がろうなんて考えていなかった。
だからちゃんと考えれば、彼が自分のためにわざわざ危険なことをするのはあり得ないと分かったのに、ルドルフの所へ行くという衝撃が強すぎて冷静になれていなかった。
あんなことを言われて怒るのも当然だ。もう自分の話は二度と聞いてくれないだろう。
「あー、アレクシス殿下? オリヴァー様、すっげえ怒ってましたけど? あなた、説得しに来てくれたんですよね」
部屋に入ってきたバルナバスがアレクシスを見る。呆れた顔をされて文句を言いたくなったが、そんな顔をしたくなるのも分かる。早馬で知らせてくれたのに、交渉失敗したのだ。
「…………バルナバスは俺が時間を戻して、前回の人生の記憶があるって言ったら信じますか?」
「えっ!? え、ああ、まあ、そうですね。信じますよ」
「信じるんですか?」
意外な返答に勢いよく顔を上げると、バルナバスも驚いて「信じてほしくないんですか?」と返される。
「そんなすんなりと信じられるってことはバルナバスもやり直した記憶があるんですか?」
すでにルドルフとオリヴァーに記憶があったのだから、その他にも記憶がある人間が居ても可笑しくないと思った。
「いいえ、全く。ただあなたと出会った時のことを考えたら、人生二週目でも可笑しくないなと思っただけです。六歳の少年とは思えませんでしたからね」
「……なるほど」
出来るだけ年相応に振舞っていたつもりだったが、三十近い男が子供を演じるなんて無理がある。よく考えたらオリヴァーも出会った頃は十歳という年の割にはかなり大人びていた。ルドルフは本人から言われないと気付かないぐらい変わらなかったが。
きっとオリヴァーは前回の人生で後悔があったのだろう。成り上がろうなんて思っていなかったから、ルドルフから距離を置き、学園でもクラスメートとも一線を引いていた。やり直した人生では平穏な人生を歩むつもりだったのかもしれない。
それなのに成り上がるために功を立てようとしているなんて思い込んで引き留めようとした。恥ずかしくて消えてしまいたい。
「殿下はオリヴァー様を怒らせるのが上手いですね」
「それ褒めてない」
「けど、オリヴァー様があんなに感情を露にするのも、殿下にだけですよね」
貴族としての教育をしっかり受けているオリヴァーが感情を露にするのは確かに珍しい。自分が特別だと言われているようで一瞬舞い上がったけれど、喜ばせるならまだしも怒らせているのはあまりいいことではない。
「…………バルナバス。ジュノ辺境伯には俺がオリー兄様に指示をして帝国へ行かせたと報告するように」
「は!?」
「あと、俺があの人に出来ることは、全力でサポートすることだけだから。あとのことは辺境伯が戻ってきてから話をしよう」
あれほど怒ったのだから、本当に戦争を止めるつもりでルドルフの所へ行くのだろう。それならば邪魔などせず、サポートするのが今は一番だと思った。
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