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6-1 モルドペセライ帝国
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学園を卒業して間もなく、領地にいる祖父から手紙が届いた。社交界のシーズンに入れば、パーティに出なければならない。それを考えたら領地にいるほうが断然マシだと思ったオリヴァーはすぐに祖父の元へ向かった。
「おお、しばらく見ないうちに大きくなったな、オリヴァー」
「お久しぶりです、お祖父様」
五年も経てばさすがの祖父も老いたように見えたけれど、久々に稽古を付けてもらって前言撤回した。まだまだ元気が溢れている祖父はあと五十年ぐらい生きるのではないかと感じさせた。
「その、アランのことはすまなかったな」
「え? ああ、事情が事情ですから、気にしていませんよ」
アレクシスの話が出て心臓が飛び出そうになった。ルドルフの卒業式以来、彼はいつも通りに話しかけてきたので、オリヴァーも告白されたことは忘れるようにしていた。けれど彼の一挙一動が自分に好意があってのことと考えてしまうと、気恥ずかしくなったり罪悪感を覚えたりと忙しかった。
同じ年に入学したので、アレクシスもこの前一緒に卒業した。彼はルドルフと違って成績は優秀でテストでは首席を取ることもしばしばあった。卒業後はバルナバスと共に騎士団へ入団した。彼らはそこで雑用などの下積みを経て正式に騎士へ叙任される。突然、騎士になった前回とは大きく違ってしまった。
ただアレクシスの剣の腕はかなりの物で、すでに騎士としても十分なほどの力量があった。学園で行われる剣術大会でも毎回と言って良いほど優勝していた。むしろ、彼と競わされる相手のほうが憐れなほどだった。
「あやつは命を狙われておったからな。ここにいることもごく一部しか知らないことだったんだ」
「そうなんですか?」
アレクシスが命を狙われているなんて初耳だった。
「だからここであやつが王子だと知っていたのは、儂とビアンカとバルナバスだけだったんじゃ」
「…………そうなんですね」
バルナバスが知っているのは当然のことかもしれないが、何だかもやっとした。今も騎士団で仲良くしているらしいし、護衛なのか何なのか知らないが四六時中べったりしているイメージがある。
「それでお祖父様、俺を呼んだ理由は何ですか? まさかアレクシスもバルナバスもいないからって暇つぶしに俺を呼んだわけじゃないですよね?」
「お前が暇にしているとクリストフから聞いたから呼んだんじゃ」
暇、とはっきり言われてムッとしたが、あながち間違いではないので仕事を与えられるのはオリヴァーとしても好都合だった。この祖父から任される仕事なんて過酷以外の何物でもないだろうが。
それにしても父がそんなことを祖父に告げ口しているとは知りもしなかった。知らないうちに働きも勉強もしない息子に頭を悩ませていたのか。オリヴァーは真剣な顔をする祖父を見つめる。
「隣の帝国が今、きな臭い動きをしている」
「……え?」
突然、隣国の名前を出されてオリヴァーはすぐに理解できなかった。隣国のモルドペセライ帝国とは祖父の時代に大きな戦争を起こして緊張状態が続いているけれど、一応は終戦時に和平条約が交わされて国交も開かれている。
「ジュノ家からそう連絡が入って、儂も調べてみたらどうやら第二王子が一枚噛んでいるらしい」
オリヴァーは黙って祖父の話を聞いていた。ルドルフは卒業後、勉学のため隣国に留学している。自分が従者にならなかった未来がどうなるかもう読めず、とりあえず彼が離れたことに安堵していた。けれど国を裏切るつもりだとは想定外だった。彼はなんやかんや王子としてのプライドぐらいは持ち合わせていると思っていた。
「とりあえずお前には国境付近で情報を集めてもらいたい」
「分かりました」
「ジュノ家には話を通してある。まずはジュノ家に行って指示を受けるように」
オリヴァーは頷いてすぐに荷物をまとめた。
「おお、しばらく見ないうちに大きくなったな、オリヴァー」
「お久しぶりです、お祖父様」
五年も経てばさすがの祖父も老いたように見えたけれど、久々に稽古を付けてもらって前言撤回した。まだまだ元気が溢れている祖父はあと五十年ぐらい生きるのではないかと感じさせた。
「その、アランのことはすまなかったな」
「え? ああ、事情が事情ですから、気にしていませんよ」
アレクシスの話が出て心臓が飛び出そうになった。ルドルフの卒業式以来、彼はいつも通りに話しかけてきたので、オリヴァーも告白されたことは忘れるようにしていた。けれど彼の一挙一動が自分に好意があってのことと考えてしまうと、気恥ずかしくなったり罪悪感を覚えたりと忙しかった。
同じ年に入学したので、アレクシスもこの前一緒に卒業した。彼はルドルフと違って成績は優秀でテストでは首席を取ることもしばしばあった。卒業後はバルナバスと共に騎士団へ入団した。彼らはそこで雑用などの下積みを経て正式に騎士へ叙任される。突然、騎士になった前回とは大きく違ってしまった。
ただアレクシスの剣の腕はかなりの物で、すでに騎士としても十分なほどの力量があった。学園で行われる剣術大会でも毎回と言って良いほど優勝していた。むしろ、彼と競わされる相手のほうが憐れなほどだった。
「あやつは命を狙われておったからな。ここにいることもごく一部しか知らないことだったんだ」
「そうなんですか?」
アレクシスが命を狙われているなんて初耳だった。
「だからここであやつが王子だと知っていたのは、儂とビアンカとバルナバスだけだったんじゃ」
「…………そうなんですね」
バルナバスが知っているのは当然のことかもしれないが、何だかもやっとした。今も騎士団で仲良くしているらしいし、護衛なのか何なのか知らないが四六時中べったりしているイメージがある。
「それでお祖父様、俺を呼んだ理由は何ですか? まさかアレクシスもバルナバスもいないからって暇つぶしに俺を呼んだわけじゃないですよね?」
「お前が暇にしているとクリストフから聞いたから呼んだんじゃ」
暇、とはっきり言われてムッとしたが、あながち間違いではないので仕事を与えられるのはオリヴァーとしても好都合だった。この祖父から任される仕事なんて過酷以外の何物でもないだろうが。
それにしても父がそんなことを祖父に告げ口しているとは知りもしなかった。知らないうちに働きも勉強もしない息子に頭を悩ませていたのか。オリヴァーは真剣な顔をする祖父を見つめる。
「隣の帝国が今、きな臭い動きをしている」
「……え?」
突然、隣国の名前を出されてオリヴァーはすぐに理解できなかった。隣国のモルドペセライ帝国とは祖父の時代に大きな戦争を起こして緊張状態が続いているけれど、一応は終戦時に和平条約が交わされて国交も開かれている。
「ジュノ家からそう連絡が入って、儂も調べてみたらどうやら第二王子が一枚噛んでいるらしい」
オリヴァーは黙って祖父の話を聞いていた。ルドルフは卒業後、勉学のため隣国に留学している。自分が従者にならなかった未来がどうなるかもう読めず、とりあえず彼が離れたことに安堵していた。けれど国を裏切るつもりだとは想定外だった。彼はなんやかんや王子としてのプライドぐらいは持ち合わせていると思っていた。
「とりあえずお前には国境付近で情報を集めてもらいたい」
「分かりました」
「ジュノ家には話を通してある。まずはジュノ家に行って指示を受けるように」
オリヴァーは頷いてすぐに荷物をまとめた。
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