やり直しの人生、今度こそ絶対に成り上がってやる(本編完結)

カイリ

文字の大きさ
上 下
36 / 59

5-6 アレクシス・ロルフ・ヒルデグンデ・ヴォルアレスという男

しおりを挟む
 見捨てられる可能性は高いけれど、フリードリヒを味方につけたのは大きい。方々に間者を放っているので、アレクシスの身に何かあれば調査してくれるだろう。きっと前回の襲撃事件もフリードリヒは犯人が分かっていただろうが、下手に動いて相手の陣営を刺激したくなかったのでだんまりを決め込んだはずだ。

 だが今回はアレクシスとの約束もある。フリードリヒは冷酷であるけれど、血の繋がった弟との約束を簡単に破る人ではない。味方が出来て少しだけ肩の荷が下りた気がした。

 それから数ヶ月が経過し、王家主催の狩猟大会が行われている最中のことだった。まだ幼いアレクシスたちは王宮で留守番をしていた。主催者である国王とリーゼロッテ妃たちが狩猟大会に参加していて、王宮は普段より静かになっていた。

 アレクシスがいつものように訓練場へ向かっているとき、それは起きた。基本的にアレクシスがアメジスト宮を出るのは王から呼ばれた時か剣術の稽古をする時ぐらいなのでこのタイミングを狙われるのは仕方ない。目の前に現れた刺客にアレクシスは訓練用の剣を構えた。

 護衛の人数も増やしたままだったので、前回のように殺されかけることはない。相手は手練れでそこそこ苦戦し、アレクシスも含めて軽傷を負うものがいたが命の危険までには及ばなかった。

「お父様! こっちです!」

 バタバタと複数人の走る音が聞こえてきてアレクシスはそちらを見る。眩しいまるで太陽のような髪をした少年が大人の腕を引いてこちらにやってきた。

「……あれは」

「どうしたんだ、オリヴァーって……。殿下!? 大丈夫ですか」

 駆け寄ってきたスコット侯爵を見て、アレクシスは「はい」と返事をする。どうしてスコット侯爵がこんなところにいるのか、と考え、すぐに答えが出てきた。先代のスコット侯爵は将軍まで務めた武官だったが、現当主は文官だ。狩猟大会では活躍できないからと留守番を買って出たのかもしれない。

「今日の稽古は中止しましょう。陛下へ伝令を出します」

「はい。よろしくお願いします、侯爵」

 アレクシスは手を引かれて立ち上がる。視線を感じて侯爵の奥を見ると、オリヴァーがジッとこちらを見つめていた。彼はアレクシスより二つ年上だからまだ四歳なのに、人目を引く美しさを持っている。見られていると気恥ずかしくなってきてアレクシスは俯いた。

「アメジスト宮の警備の心配はいらないと思いますが、念のため、今日は数を増やします」

「はい」

「それではアメジスト宮までお送りしましょう。オリヴァー。お前は母様のところに戻っていなさい」

「分かりました」

 ぺこりと頭を下げるとオリヴァーは走って行ってしまった。自分たちで何とか出来たが、またもや彼が目撃して助けを呼びに行ってくれたみたいだ。

「彼が……、侯爵を呼びに?」

「ええ。息子のオリヴァーです。奇妙な風体の男が王宮内に入り込んでいると教えてくれました。まさか殿下を狙っているとは思いませんでしたが……」

「彼にお礼を言っておいてください」

「いえ、臣下として当然の務めですから」

 にこりと笑うスコット侯爵を見て、アレクシスは仄かに残念な気持ちになった。



 結局、その後、アレクシスは前回と同じように王妃の実家があるザセキノロンへと向かうことになった。フリードリヒにはすぐ襲撃した男やその背景を調べてもらうよう依頼したところ、やはり背景にはリーゼロッテ妃とルドルフが絡んでいた。これは彼らにとっての弱みになる。

 そうして少しずつ未来は変わりながら、ほぼ前回と同じように進み始めた。ザセキノロンに到着したアレクシスは国境を見学したいという名目でジュノ家へ赴きバルナバスと出会った。彼とは剣の話で盛り上がり、ゆくゆくはスコット領のスコット元将軍に師事する話をしたところ、彼も付いてくることになった。

 そうしてスコット領へ移動し八歳になった時、突然、スコット家の次男、オリヴァーが領地にやってきた。前回の人生ではそんなこと一度もなかったのに、どうしてだろうか。しかもルドルフの従者になる話を蹴ってわざわざ領地までやってきたと言うのだから驚きの連続だった。

 オリヴァーは決して、性格のいい男ではなかった。自分の見目が飛びぬけていることをよく知っていて、その容姿を利用して男女問わず誑かせた。傲慢で高飛車だと噂されていた彼だったが、領地へ来たときはそんなこと一切なく、騎士や使用人を労わり礼儀正しい少年だった。

 時間を戻して彼が変わった理由は何なのか。もしかしたら前回の記憶があるのか。時間を戻したときの奇跡が不完全だったから、自分は死なずにルドルフにもオリヴァーにも記憶が残ってしまったのかもしれない。けれど怖くて聞くこともできなかった。

 前回の人生ではスコット領での生活が終わった後に騎士の叙任を受けたけれど、アレクシスは人脈を作るためにも王立学園へ行く予定にしていた。どうせならオリヴァーと一緒に入学したいと考えていて、猛勉強した甲斐もあって首席で入学できた。

 何だかんだ学園生活も順調だったけれど、ルドルフの卒業パーティでアレクシスとオリヴァーの関係は一変してしまった。

「……ああ、俺、絶対に言うタイミング間違えたよな」

 オリヴァーのいなくなったベッドを見つめ、アレクシスはがっくりと項垂れた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

塔の上のカミーユ~幽囚の王子は亜人の国で愛される~

蕾白
BL
国境近くにあるその白い石の塔には一人の美しい姫君が幽閉されている。 けれど、幽閉されていたのはある事情から王女として育てられたカミーユ王子だった。彼は父王の罪によって十三年間を塔の中で過ごしてきた。 そんな彼の前に一人の男、冒険者のアレクが現れる。 自分の世界を変えてくれるアレクにカミーユは心惹かれていくけれど、彼の不安定な立場を危うくする事態が近づいてきていた……というお話になります。 2024/11/16 第一部完結になります。 ファンタジーBLです。どうかよろしくお願いいたします。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

【完結】オーロラ魔法士と第3王子

N2O
BL
全16話 ※2022.2.18 完結しました。ありがとうございました。 ※2023.11.18 文章を整えました。 辺境伯爵家次男のリーシュ・ギデオン(16)が、突然第3王子のラファド・ミファエル(18)の専属魔法士に任命された。 「なんで、僕?」 一人狼第3王子×黒髪美人魔法士 設定はふんわりです。 小説を書くのは初めてなので、何卒ご容赦ください。 嫌な人が出てこない、ふわふわハッピーエンドを書きたくて始めました。 感想聞かせていただけると大変嬉しいです。 表紙絵 ⇨ キラクニ 様 X(@kirakunibl)

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

処理中です...