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5-5 アレクシス・ロルフ・ヒルデグンデ・ヴォルアレスという男
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野犬に襲われた事件をルドルフが止めたと言っても、リーゼロッテ妃はアレクシスがルドルフの邪魔になると判断しているのだから、再び襲う計画を立てているに違いない。彼が言ったようにリーゼロッテ妃の計画はあまりにお粗末で自身がやったと言っているようなものだった。だから彼女の機嫌を損なわないようアレクシスは一命をとりとめた後、母の実家へと身を寄せていた。できたらその未来は避けたくない。
北東にあるザセキノロンの隣にはジュノ辺境伯領がある。ジュノ家は代々保守派で当代も王太子にはフリードリヒを支持していた。フリードリヒが王になるのはアレクシスの望むところでもある。ジュノ家を味方につけるのは得策だろう。前回の人生では騎士団に入っている時にジュノ家の嫡子、バルナバス・フォン・ジュノと交流があったので、出来ることなら彼とは早めに繋がりを持ちたかった。
だがいきなりザセキノロンへ行きたいと言っても誰も許してはくれないだろう。夏になればまだ幼いレーナを連れて母が実家へ戻るだろうから、それまで我慢するべきだ。王宮内で味方を見つける必要があるが、まだ三歳と幼いアレクシスが何を言おうとも信じてくれる大人はいない。
そうなると信じてもらえる人物に協力を仰ぐしかない。アレクシスは既に王太子として教育が始まっているフリードリヒの元を訪れた。フリードリヒならば王族の力のことも知っているし、時間を戻したことを信じてくれるはずだ。
「……お兄様、失礼いたします」
「どうぞ」
返事が聞こえてアレクシスはフリードリヒの部屋に入る。彼の机の上には本が山ほど詰んであって、まだ九つと幼いのにどれほど努力しているのかが伺える。
「お前が私の所へ来るのは珍しいな」
「お兄様……、いえ、兄上に話があって参りました」
三歳らしからぬ話し方をすると、フリードリヒは顔を上げてアレクシスを見た。
「そこに座りなさい」
この一言でただ事ではないと判断してくれたようで、フリードリヒは立ち上がってソファーの前に立つ。アレクシスも「ありがとうございます」と礼を言って言われた通りに腰かけた。
前回の人生の話をすると、フリードリヒは「なるほどな」と言って納得した。王族の持つ奇跡の力を知っているからこそ、アレクシスの話を否定できなかったのだろう。
「それでお前はどうしたいんだ、アレクシス」
「俺はルドルフ兄様が王になる未来を変えたいんです。あの人が王になればこの国は再び滅びます」
きっと手順を踏んでルドルフが王と認められたとしても、この国は戦争をしたときと同じように悲惨な末路を辿るだろう。あの男はこの国をどうしたいのかという目標がない。フリードリヒを排し、王になったところで彼の目的は達成されてしまう。そうなればその後のことなど気にも留めず、きっと好き勝手して他国に乗っ取られるかそのまま滅ぶか。どちらにしろ、ルドルフが王になるのは反対だった。
「それならば、お前が王になるか?」
そんなことを聞かれると思っていなかったアレクシスは驚いて顔を上げる。
「まさか。俺は王になるような器ではありません」
「そうか? 国のために命まで差し出せる男が王に向いていないとは俺は思わないがな」
アレクシスはぶんぶんと首を横に振る。フリードリヒには話さなかったが、アレクシスはただ国のことだけを想って命を差し出したわけではない。純粋に国のことだけを考えたのならば、こんな昔に時が戻ったりしなかっただろう。
「俺はフリードリヒ兄様が王にふさわしいと思っています。それは昔も今も変わりません」
「そうか。お前が俺を裏切らない限り、俺はお前の味方でいよう」
アレクシスは俯いて下を見る。フリードリヒは信用しているけれど、信頼はしていない。オリヴァーのことまで話せばアレクシスがオリヴァーを優先したときに切り捨てられる可能性がある。
「おそらく、俺はリーゼロッテ妃かルドルフ兄様に命を狙われると思います。その時、兄上には証拠集めをお願いしてもいいですか」
「ああ、それぐらいなら問題ない」
「よろしくお願いします」
一先ず、フリードリヒが味方になったことにアレクシスは安堵した。
北東にあるザセキノロンの隣にはジュノ辺境伯領がある。ジュノ家は代々保守派で当代も王太子にはフリードリヒを支持していた。フリードリヒが王になるのはアレクシスの望むところでもある。ジュノ家を味方につけるのは得策だろう。前回の人生では騎士団に入っている時にジュノ家の嫡子、バルナバス・フォン・ジュノと交流があったので、出来ることなら彼とは早めに繋がりを持ちたかった。
だがいきなりザセキノロンへ行きたいと言っても誰も許してはくれないだろう。夏になればまだ幼いレーナを連れて母が実家へ戻るだろうから、それまで我慢するべきだ。王宮内で味方を見つける必要があるが、まだ三歳と幼いアレクシスが何を言おうとも信じてくれる大人はいない。
そうなると信じてもらえる人物に協力を仰ぐしかない。アレクシスは既に王太子として教育が始まっているフリードリヒの元を訪れた。フリードリヒならば王族の力のことも知っているし、時間を戻したことを信じてくれるはずだ。
「……お兄様、失礼いたします」
「どうぞ」
返事が聞こえてアレクシスはフリードリヒの部屋に入る。彼の机の上には本が山ほど詰んであって、まだ九つと幼いのにどれほど努力しているのかが伺える。
「お前が私の所へ来るのは珍しいな」
「お兄様……、いえ、兄上に話があって参りました」
三歳らしからぬ話し方をすると、フリードリヒは顔を上げてアレクシスを見た。
「そこに座りなさい」
この一言でただ事ではないと判断してくれたようで、フリードリヒは立ち上がってソファーの前に立つ。アレクシスも「ありがとうございます」と礼を言って言われた通りに腰かけた。
前回の人生の話をすると、フリードリヒは「なるほどな」と言って納得した。王族の持つ奇跡の力を知っているからこそ、アレクシスの話を否定できなかったのだろう。
「それでお前はどうしたいんだ、アレクシス」
「俺はルドルフ兄様が王になる未来を変えたいんです。あの人が王になればこの国は再び滅びます」
きっと手順を踏んでルドルフが王と認められたとしても、この国は戦争をしたときと同じように悲惨な末路を辿るだろう。あの男はこの国をどうしたいのかという目標がない。フリードリヒを排し、王になったところで彼の目的は達成されてしまう。そうなればその後のことなど気にも留めず、きっと好き勝手して他国に乗っ取られるかそのまま滅ぶか。どちらにしろ、ルドルフが王になるのは反対だった。
「それならば、お前が王になるか?」
そんなことを聞かれると思っていなかったアレクシスは驚いて顔を上げる。
「まさか。俺は王になるような器ではありません」
「そうか? 国のために命まで差し出せる男が王に向いていないとは俺は思わないがな」
アレクシスはぶんぶんと首を横に振る。フリードリヒには話さなかったが、アレクシスはただ国のことだけを想って命を差し出したわけではない。純粋に国のことだけを考えたのならば、こんな昔に時が戻ったりしなかっただろう。
「俺はフリードリヒ兄様が王にふさわしいと思っています。それは昔も今も変わりません」
「そうか。お前が俺を裏切らない限り、俺はお前の味方でいよう」
アレクシスは俯いて下を見る。フリードリヒは信用しているけれど、信頼はしていない。オリヴァーのことまで話せばアレクシスがオリヴァーを優先したときに切り捨てられる可能性がある。
「おそらく、俺はリーゼロッテ妃かルドルフ兄様に命を狙われると思います。その時、兄上には証拠集めをお願いしてもいいですか」
「ああ、それぐらいなら問題ない」
「よろしくお願いします」
一先ず、フリードリヒが味方になったことにアレクシスは安堵した。
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