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4-9 王立学園
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どうやって手を回したのか分からないが、それからルドルフが接触してくることはあまりなくなった。たまに廊下などですれ違えば声を掛けられることはあるもの、オリヴァーが一人でいたとしても近づいてこなくなった。
安心したけれど、疑問は残る。正妃の子だとしても、ルドルフのほうが王位継承順位は上だ。釘を刺されたぐらいでルドルフが行動を改めるとは思えない。初めのうちは気味が悪かったけれど、時間が経てばそれが当たり前となり、いつしかルドルフの存在など気にもならなくなった。
学園に入学してから、四年の月日が経つ。一年先に入学しているルドルフは今年で卒業だ。
卒業前には大きなパーティが開かれ、よほどの理由がない限り生徒は全員出席するよう命じられている。この卒業パーティ間近になると生徒たちが色めき立つ。わざわざ今回のために新しい衣装を仕立て、恋人関係にある人たちは色を合わせたりなどせわしない。なんだかんだ婚約者も恋人も作らなかったオリヴァーは前年同様に地味な礼服を仕立てている。最初の一時間だけ出席して、さっさと寮に戻るつもりだ。
パーティなど社交界のシーズンになれば嫌と言うほど誘いが来る。それにそろそろ卒業した後のことを考えなければならない。前回の人生ではそのままルドルフに付き従う形で王宮での仕事を与えられたが、今はそんなコネなどない。それに成り上がってやるとは思っているもの、何をどうやって成り上がるのかオリヴァーは分かっていなかった。
前回の人生は次男に生まれ、侯爵家を継げるわけでもなく次男として人生を終えるのが嫌で抗った。その結果が国家反逆罪となって処刑されるに至ったが、目的に向かってなりふり構わず突っ走るのは見っともないようでいて今の自分には羨ましさもある。結果が分かっているからこそ、成り上がることに対しても情熱を感じなくなった。
まだ王国内にある他の領地を継いで、ゆっくり領地経営するほうがいい人生なのだろうか。もしくは伯爵以上の令嬢の家に婿入りするとか。選択肢は色々とあるがオリヴァーの中でピンとくるものはない。
――やはりこの人生だって地味に終わりたくない。
卒業まではあと一年もある。成り上がると言っても手段を選ばなければ前回の二の舞になる。前の人生は成り上がるために他人を使うという楽な道を選んでしまったのが失敗だった。
「オリヴァー様。そろそろお時間でございます」
扉の向こうからカミラの声が聞こえてオリヴァーは部屋を出る。パーティの初めに生徒会長だったルドルフの長い話があるかと思うとこのまま踵を返して自室に戻りたくなるが、どうせ彼とは当分の間会わなくなるのだから少々は我慢しよう。
講堂に近づくと煌びやかに着飾った生徒たちで溢れかえっている。歩いているだけでも目立つ見目をしているオリヴァーに人々の視線が集中するのを感じたが、無視して講堂の中に入っていく。王国内で一番の学園とは言え、全校生徒が一堂に集まるとさすがに講堂も狭く感じる。早速、給仕からシャンパンを受け取りオリヴァーは一口含む。十五を過ぎた生徒はこの時だけ飲酒を許可されている。
「あ、オリー兄様」
振り返るとにこにこと微笑むアレクシスがオリヴァーに近づいてくる。ルドルフとの一件以降、邪険にするのはやめた。兄様と呼ぶのもやめてほしかったが、侯爵家であれば王族との縁も深く言い訳のしようはあったので拒絶しないようにした。すると彼はまるで犬のように懐いて何をするにもオリヴァーの側に居るようになった。
そうなってくると前回の人生での出来事など時間の経過と共に忘れられるようになった。きっとルドルフのように人生の大半を共にしたわけでもなく、彼のことをあまり知らなかったからだろう。スコット領での三年間と学園生活での四年間、彼が悪い奴でないのは十分に分かった。ルドルフと比べたら断然マシだ。
「アレクシス殿下。どうされました?」
「その話し方、やめてくださいって言いましたよね」
不貞腐れた顔をするアレクシスにオリヴァーは仄かに笑う。
「人前だからな」
「もうみんな気にしてないですよ」
オリヴァーはシャンパンを飲みながらアレクシスを見上げる。彼は成長期になってから身長がぐんぐんと伸びて、オリヴァーの背をあっという間に抜いてしまった。オリヴァーも平均より少し高めであるが、頭一つ分ぐらいはアレクシスのほうが高い。幼い頃の印象が強くまだまだ子供にしか見えていないが、客観的に見れば顔つきも少年から青年へと変化を始め男らしさが滲み出てきた。
深い緑色の瞳がオリヴァーを捉えてゆっくりと微笑む。
バンと大きく扉の開く音が講堂に響く。
「ルドルフ・ジークムント・エメリヒ・ヴォルアレス殿下のご入場です」
卒業パーティが始まった。
安心したけれど、疑問は残る。正妃の子だとしても、ルドルフのほうが王位継承順位は上だ。釘を刺されたぐらいでルドルフが行動を改めるとは思えない。初めのうちは気味が悪かったけれど、時間が経てばそれが当たり前となり、いつしかルドルフの存在など気にもならなくなった。
学園に入学してから、四年の月日が経つ。一年先に入学しているルドルフは今年で卒業だ。
卒業前には大きなパーティが開かれ、よほどの理由がない限り生徒は全員出席するよう命じられている。この卒業パーティ間近になると生徒たちが色めき立つ。わざわざ今回のために新しい衣装を仕立て、恋人関係にある人たちは色を合わせたりなどせわしない。なんだかんだ婚約者も恋人も作らなかったオリヴァーは前年同様に地味な礼服を仕立てている。最初の一時間だけ出席して、さっさと寮に戻るつもりだ。
パーティなど社交界のシーズンになれば嫌と言うほど誘いが来る。それにそろそろ卒業した後のことを考えなければならない。前回の人生ではそのままルドルフに付き従う形で王宮での仕事を与えられたが、今はそんなコネなどない。それに成り上がってやるとは思っているもの、何をどうやって成り上がるのかオリヴァーは分かっていなかった。
前回の人生は次男に生まれ、侯爵家を継げるわけでもなく次男として人生を終えるのが嫌で抗った。その結果が国家反逆罪となって処刑されるに至ったが、目的に向かってなりふり構わず突っ走るのは見っともないようでいて今の自分には羨ましさもある。結果が分かっているからこそ、成り上がることに対しても情熱を感じなくなった。
まだ王国内にある他の領地を継いで、ゆっくり領地経営するほうがいい人生なのだろうか。もしくは伯爵以上の令嬢の家に婿入りするとか。選択肢は色々とあるがオリヴァーの中でピンとくるものはない。
――やはりこの人生だって地味に終わりたくない。
卒業まではあと一年もある。成り上がると言っても手段を選ばなければ前回の二の舞になる。前の人生は成り上がるために他人を使うという楽な道を選んでしまったのが失敗だった。
「オリヴァー様。そろそろお時間でございます」
扉の向こうからカミラの声が聞こえてオリヴァーは部屋を出る。パーティの初めに生徒会長だったルドルフの長い話があるかと思うとこのまま踵を返して自室に戻りたくなるが、どうせ彼とは当分の間会わなくなるのだから少々は我慢しよう。
講堂に近づくと煌びやかに着飾った生徒たちで溢れかえっている。歩いているだけでも目立つ見目をしているオリヴァーに人々の視線が集中するのを感じたが、無視して講堂の中に入っていく。王国内で一番の学園とは言え、全校生徒が一堂に集まるとさすがに講堂も狭く感じる。早速、給仕からシャンパンを受け取りオリヴァーは一口含む。十五を過ぎた生徒はこの時だけ飲酒を許可されている。
「あ、オリー兄様」
振り返るとにこにこと微笑むアレクシスがオリヴァーに近づいてくる。ルドルフとの一件以降、邪険にするのはやめた。兄様と呼ぶのもやめてほしかったが、侯爵家であれば王族との縁も深く言い訳のしようはあったので拒絶しないようにした。すると彼はまるで犬のように懐いて何をするにもオリヴァーの側に居るようになった。
そうなってくると前回の人生での出来事など時間の経過と共に忘れられるようになった。きっとルドルフのように人生の大半を共にしたわけでもなく、彼のことをあまり知らなかったからだろう。スコット領での三年間と学園生活での四年間、彼が悪い奴でないのは十分に分かった。ルドルフと比べたら断然マシだ。
「アレクシス殿下。どうされました?」
「その話し方、やめてくださいって言いましたよね」
不貞腐れた顔をするアレクシスにオリヴァーは仄かに笑う。
「人前だからな」
「もうみんな気にしてないですよ」
オリヴァーはシャンパンを飲みながらアレクシスを見上げる。彼は成長期になってから身長がぐんぐんと伸びて、オリヴァーの背をあっという間に抜いてしまった。オリヴァーも平均より少し高めであるが、頭一つ分ぐらいはアレクシスのほうが高い。幼い頃の印象が強くまだまだ子供にしか見えていないが、客観的に見れば顔つきも少年から青年へと変化を始め男らしさが滲み出てきた。
深い緑色の瞳がオリヴァーを捉えてゆっくりと微笑む。
バンと大きく扉の開く音が講堂に響く。
「ルドルフ・ジークムント・エメリヒ・ヴォルアレス殿下のご入場です」
卒業パーティが始まった。
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