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4-7 王立学園

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 王族が過ごす部屋は寮の一番奥にある。警備の問題もあるからだ。前回は従者だったのでルドルフの隣の部屋にされていたが、今回は程よく離れているのでこちらまで来るのは初めてだ。

 ルドルフに肩を抱かれて部屋の中に入るとオリヴァーが来ることを知らされていたのかティーセットが並んでいる。果たして論文を教えてやるつもりはあるのだろうか。テーブルの上にはずらりと菓子が並んでいて、教材を置くスペースなど存在しなかった。

「――でん」

「さぁ、オリー。まずはゆっくり茶でも飲もう」

 有無を言わさずソファーに押し付けられてオリヴァーはしぶしぶ腰掛ける。反論を許さない態度にかなり機嫌が悪いことが伺える。オリヴァーが思うように動かないのが気に入らないのだろう。学園生活が始まってからもずっとバルナバスと一緒だったのでルドルフは近づいてこなかった。もしかすると今日は図書館で待ち伏せをしていたのかもしれない。

 今後の行動を改める必要が出てきたが、あからさまに避けるのもルドルフの機嫌を損ねる原因にもなる。結局のところ、彼が王族である以上、オリヴァーはルドルフの機嫌を気にしながら行動しなければならない。さっさと縁を切ってしまいたいものだが、繋がった縁を切るのは容易ではない。

 どうせなら十歳からではなく生まれたときからやり直したかった、なんて我儘なことを考えながら、オリヴァーはカップに口を付ける。

 ジワリとねばついた視線を感じるが、オリヴァーは無視してゆっくりと紅茶を飲み込む。王族の使用人が淹れたとあってかなり美味い。

 するりとルドルフの手がオリヴァーの太ももを撫でた。

「…………どうかしましたか、殿下」

 ぞわりと鳥肌が立つのをこらえてオリヴァーは笑顔を貼り付ける。フラッシュバックのようにルドルフにされた行為が脳裏をよぎったけれど、決してそれは表に出さない。ルドルフを相手に弱みなど見せたくなかった。

 気づけば使用人たちが下がっている。ここで何をされてもオリヴァーの味方になってくれる人間など誰一人としていない。下手に騒げばすべてオリヴァーのせいにされる可能性だってある。十三歳の男を相手にここまでする彼の余裕のなさに笑いが込みあがってきた。

 どうせ逃げることもできない。少々なら我慢はできる。

「オリー――……」

「しっ、失礼いたします」

 ガチャ、と扉が開いて反射的にルドルフがオリヴァーから離れた。チッと舌打ちをしてあからさまに不機嫌な顔をするルドルフが無言で入ってきた使用人を睨みつける。それを見た使用人はすくみ上って体を震わせる。

「あ、あ、アレクシス第三王子殿下がいらっしゃいました」

「……アレクシスが?」

「はい。どうしてもルドルフ殿下に御目通り願いたいと……」

 使用人は絶対に扉を開けてはならないと厳命されていたはずだが、アレクシスからも通す様に命令をされて板挟みになっていたのだろう。気づかれないように距離を置き、オリヴァーはカップをソーサーの上に置く。またもや不覚にもアレクシスに助けられた。

「チッ、待っていろと伝えろ」

 同じ王族同士、いくら第三王子だと言っても無視はできない。

「それでは俺は失礼いたしますね」

 ルドルフは何か言いたそうにしていたが、「……分かった」と返事をしたのを聞いてオリヴァーはさっさと部屋を出る。扉の向こうで待たされていたアレクシスに一礼をして足早に自室へと戻った。


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