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4-6 王立学園

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 ルドルフのことならば性癖から野心までそれなりに知っていることが多いけれど、第三王子のアレクシスに関して持っている情報は少ない。

 彼が表舞台に姿を現したのはオリヴァーが十七の時、学園の卒業を目前に控えた新年に行われる騎士の叙任式だった。

 王族が騎士になるのも珍しいのでそれだけでもかなり目立ったが、それ以上に最年少という箔までついて王も身内には甘いなどと批判まで出てしまったけれど、それは決してお飾りではなかった。彼の剣の腕はかなり高く、王国内でも最強と呼ばれた騎士団長ですら彼には勝てなかった。

 彼が騎士になった理由は剣の腕だけではない。王太子が健在でありルドルフも控えている以上、第三王子のアレクシスが王位を継ぐ可能性はそう高くない。あまりに認知されていなかったのもあり後ろ盾もなかった。公にはなっていなかったもの、ルドルフを支持する勢力もいることは王も知っていた。これ以上の後継者争いを起こさないためにも、アレクシスが王位を継ぐつもりなどないことを周知するためにも彼を騎士にしたのだろう。

 ならばなぜ、今になって学園になど入学したのか。オリヴァーはさっぱり分からない。自分の取った行動で未来が変わりすぎている。ルドルフの従者になることを拒み、領地に引きこもっただけだったが、そのちょっとした行動が少しずつ形を変えて大きな波へと変化してしまった。

 もうこれからどうなるかなど、オリヴァーには分からない。

「オリー兄様、どちらへ行かれるんです?」

 くるりと振り返ると人懐こい笑みが飛び込んでくる。珍しく周囲に人はいないけれど、その呼び方だけはやめてほしい。

「殿下。どうぞ呼び捨てでお願いいたします」

「……ですが」

「敬語も必要ございません」

 そもそもスコット領にいたことも隠さなければならないのだから、オリヴァーに対して敬語や兄様呼びはおかしい。身分も彼のほうが圧倒的に上だ。いくら年下であろうとも、王族が臣下に対して遜るなど言語道断だ。まだ短い人生のほとんどをザセキノロンで過ごし、ここ三年はスコットで身分を隠していたのだから王族としての自覚が足りないのは十分に承知しているが、それでもここは小さな国家だ。学園内では身分などなく平等を謡っているけれど、ここでの立ち居振る舞いは今後に影響する。王族が侮られることなど、決してあってはならない。

 わずかな躊躇いを見せるアレクシスに対し、オリヴァーは目で訴える。誰かに聞かれても困る内容だ。

「申し訳……、いえ、すまなかった」

「分かっていただけて光栄でございます。それでは失礼いたします」

 悲しそうな瞳をするアレクシスに後ろ髪を引かれながらも、そんなことは微塵も表に出さずオリヴァーは速足で寮へと向かった。




 学園は四月から八月、十月から二月までの二期制である。期間の一ヶ月は休暇となり大半が王都の邸宅や自領へ戻ったりするが、その前に学生たちは論文を提出しなければならない。

「やあ、オリーじゃないか」

 論文の資料を探しに図書館へ行くと、出来ることならばあまり目にしたくなかった黒髪の男が近寄ってくる。ルドルフの姿を見た生徒たちは頭を下げ、オリヴァーもそれに倣って黙ってお辞儀をする。

「ここは一応、身分差などないんだから、そうかしこまらなくていい」

「そうは参りません」

「オリーは律儀だな。まあ、それもいいところではあると思うが」

 ぽんと肩を叩かれて、オリヴァーは顔を上げる。さっさとここを引き上げなければ、自習やオリヴァーと同じように資料を探しに来た生徒の邪魔になる。口では平等であり身分差などないと言うが、人一倍、王族であることを誇りに思っているのもあって敬わない人間には容赦ない。彼の執拗な嫌がらせに遭い、退学していった生徒も少なくなかった。

 そう考えるとアレクシスは謙虚で温和だ。クラスメートに対して自分が王族であることを忘れてほしいと言い、誰に対しても平等だった。同じ王族でありながらもどうしてこうも性格に違いが出るのか。まあ、アレクシスの場合は王族として育てられていないから仕方ないのかもしれないが、それでもルドルフとの差は大きい。

「オリー。これから王都へ行って食事でもしないか?」

「申し訳ございません、ルドルフ殿下。まだ論文が終わっておりませんので……」

 そろそろ学期が終わろうとしているのに遊んでいる時間などない。それはルドルフも同じのはずだが、思い返せば彼は面倒のほとんどを従者のオリヴァーに任せて遊び惚けていた。

 ここで必死になって論文を仕上げていないというならば、新しい従者でもできたのだろうか。そんな話は聞いていなかったけれど、王都から離れていたのもあって情報が入ってきていないだけかもしれない。

「それならば俺が教えてやってもいい」

「……え?」

「ここでは俺のほうがいる時間も長い。部屋に食事を用意させる」

 にやりと笑うルドルフに拒絶は許されない気配を感じた。

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