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4-1 王立学園
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十三歳の誕生日を迎えた春、オリヴァーは王都にある王立学園に入学した。直前まで領地で過ごしていたが準備は両親が済ませてくれていたのもあり、入試を受けただけで特に何かをすることはなかった。久々に家族と再会したのも束の間、学園の寮に入ることとなった。
何だかんだ領地に居た三年間、アランとバルナバスもオリヴァーと同様にスコット領の城に滞在していた。一年ぐらいで自領へ戻るのかと思っていたが、気付けば年月が経過してオリヴァーが帰る時まで一緒だった。結局、彼らがどうしてあんなにも長い間、スコット領に居たのかは不明のままだった。
三年も一緒に居たのだから別れ際はアランも泣いたりしてしまうのかと思っていたけれど、二歳年下の弟分はけろりとした顔で「またお会いするのを楽しみにしています」と笑って、馬車に乗り込むオリヴァーを見送った。揺られている中、自分のほうが寂しくなってしまい唇を噛みしめた。
後になって思ったことだが、手紙のやりとりぐらいは提案すべきだった。いつまでスコット領に居るのかも聞けずじまいで、手紙を書いたところでどこへ送ればいいのか。そこまで考えて、そう言ったことを全く聞いてこなかったアランに憤りを覚えた。彼は今後のやり取りなど望んでいないだと気付かされて不覚にもショックを受けた。
三年もほとんど毎日一緒にて、あれほど「オリー兄様」と慕ってくれたのだから、絆されるのも無理はない。あの態度は見せかけだけだったのかと思うと、鼻の奥がツンとした。自分にもこんな人間らしい感情が残っていることに、オリヴァーは驚かされた。前回の人生では自分が成り上がることしか考えておらず、自分以外の人間に興味など持たなかった。そう言う点ではルドルフとあまり変わらなかった。
自分を客観的に見て冷静になる。別れ際、アランは「また」と言ったのだから、もしかしたら領地で待ってくれるのかもしれない。そう思ってから、結局のところ、アランの素性については三年間、誰も教えてくれなかったことに気付く。途中から気にしなくなったけれど、彼はずっとスコットの城にいるつもりなのか。
だとしたら彼とは本当に兄弟なのでは? と父の不貞を疑った。
領地にいる間、武術にしても勉学にしても人並み以上にやっていたので、入試は首席を取れたと確信があったけれど、オリヴァーは次席だった。その結果を突きつけられまず最初に感じたのは悔しさで、その後、首席を取った相手に興味が沸いた。
王立学園では学生の間に身分はなく、誰もが平等であるという校訓がある。なのでオリヴァーも学校内では侯爵令息という仮面は外して一学生になるけれど、そう簡単に無くなるものではない。前回の人生ではルドルフは王族として校内でもふんぞり返っていたし、侯爵令息であるオリヴァーに近づく人間も少なくなかった。
だからオリヴァーが入る学生寮も王族に次いでいい部屋だ。広い部屋に使用人も一人までなら付き添い可能である。領地では自分のことをほとんど自分でしていたため使用人は不要だったけれど、両親があまりにも心配するのでカミラを連れてきた。
領地内では誘拐事件以降、大人しくしていたのにどうしてこんなにも心配しているのか。けれど前回の人生では当然のように使用人を連れてきていたし、両親からしたらこれは当然のことなのかもしれない。
「……オリヴァー様、身支度は私にお任せください」
「ああ、すまない。つい癖で」
鏡を見ながら胸元のリボンの位置を正す。服を着るぐらい自分で出来るけれど、カミラの仕事を奪ってしまうのも忍びない。次からは気を付けなければ、と自責し、オリヴァーは部屋を出た。
今日は王立学園の入学式だ。
寮から出て講堂へ向かう。スコット領は春が来るのも王都より早かったので、ここの風はまだ冬をはらんでいて冷たい。花を咲かせる木々の蕾もまだ硬い。
「オリー兄様!」
後ろから聞きなれた声がしてオリヴァーは反射的に振り返る。ぶんぶんと手を振ってやってきたそれは確かに二ヶ月程前、領地の城で別れた弟分、アランだった。
けれど彼には一つ足りないものがあった。モスグリーンのくるくるとした髪の毛は、新雪を思わせる銀色に変わっていた。
何だかんだ領地に居た三年間、アランとバルナバスもオリヴァーと同様にスコット領の城に滞在していた。一年ぐらいで自領へ戻るのかと思っていたが、気付けば年月が経過してオリヴァーが帰る時まで一緒だった。結局、彼らがどうしてあんなにも長い間、スコット領に居たのかは不明のままだった。
三年も一緒に居たのだから別れ際はアランも泣いたりしてしまうのかと思っていたけれど、二歳年下の弟分はけろりとした顔で「またお会いするのを楽しみにしています」と笑って、馬車に乗り込むオリヴァーを見送った。揺られている中、自分のほうが寂しくなってしまい唇を噛みしめた。
後になって思ったことだが、手紙のやりとりぐらいは提案すべきだった。いつまでスコット領に居るのかも聞けずじまいで、手紙を書いたところでどこへ送ればいいのか。そこまで考えて、そう言ったことを全く聞いてこなかったアランに憤りを覚えた。彼は今後のやり取りなど望んでいないだと気付かされて不覚にもショックを受けた。
三年もほとんど毎日一緒にて、あれほど「オリー兄様」と慕ってくれたのだから、絆されるのも無理はない。あの態度は見せかけだけだったのかと思うと、鼻の奥がツンとした。自分にもこんな人間らしい感情が残っていることに、オリヴァーは驚かされた。前回の人生では自分が成り上がることしか考えておらず、自分以外の人間に興味など持たなかった。そう言う点ではルドルフとあまり変わらなかった。
自分を客観的に見て冷静になる。別れ際、アランは「また」と言ったのだから、もしかしたら領地で待ってくれるのかもしれない。そう思ってから、結局のところ、アランの素性については三年間、誰も教えてくれなかったことに気付く。途中から気にしなくなったけれど、彼はずっとスコットの城にいるつもりなのか。
だとしたら彼とは本当に兄弟なのでは? と父の不貞を疑った。
領地にいる間、武術にしても勉学にしても人並み以上にやっていたので、入試は首席を取れたと確信があったけれど、オリヴァーは次席だった。その結果を突きつけられまず最初に感じたのは悔しさで、その後、首席を取った相手に興味が沸いた。
王立学園では学生の間に身分はなく、誰もが平等であるという校訓がある。なのでオリヴァーも学校内では侯爵令息という仮面は外して一学生になるけれど、そう簡単に無くなるものではない。前回の人生ではルドルフは王族として校内でもふんぞり返っていたし、侯爵令息であるオリヴァーに近づく人間も少なくなかった。
だからオリヴァーが入る学生寮も王族に次いでいい部屋だ。広い部屋に使用人も一人までなら付き添い可能である。領地では自分のことをほとんど自分でしていたため使用人は不要だったけれど、両親があまりにも心配するのでカミラを連れてきた。
領地内では誘拐事件以降、大人しくしていたのにどうしてこんなにも心配しているのか。けれど前回の人生では当然のように使用人を連れてきていたし、両親からしたらこれは当然のことなのかもしれない。
「……オリヴァー様、身支度は私にお任せください」
「ああ、すまない。つい癖で」
鏡を見ながら胸元のリボンの位置を正す。服を着るぐらい自分で出来るけれど、カミラの仕事を奪ってしまうのも忍びない。次からは気を付けなければ、と自責し、オリヴァーは部屋を出た。
今日は王立学園の入学式だ。
寮から出て講堂へ向かう。スコット領は春が来るのも王都より早かったので、ここの風はまだ冬をはらんでいて冷たい。花を咲かせる木々の蕾もまだ硬い。
「オリー兄様!」
後ろから聞きなれた声がしてオリヴァーは反射的に振り返る。ぶんぶんと手を振ってやってきたそれは確かに二ヶ月程前、領地の城で別れた弟分、アランだった。
けれど彼には一つ足りないものがあった。モスグリーンのくるくるとした髪の毛は、新雪を思わせる銀色に変わっていた。
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