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3-12 スコット侯爵領

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 オリヴァーにきっぱりと断られた挙句、易々と組み敷かれてしまい、アランが窓ガラスを割った騒動もあってルドルフは逃げるように王都へと戻っていった。

 ようやく日常が戻ってきてオリヴァーは安堵する。アランが自白する前に祖父にはオリヴァーから事の説明しておいた。やり方としては良くなかったけれど、ルドルフに詰められたところを助けられたから不問としてほしい、と伝えると「分かった」とやや困ったように返事をしてくれた。

「それにしても第二王子はお前に執心なんだな」

「……知りませんよ」

「お前を王都に戻せと儂のところにも来たぞ」

 それは初耳だったのでオリヴァーは目を丸くする。

「オリーが決めることだから、儂にはどうにもできんと答えておいた」

 祖父なら自分の意思に反した回答はしないだろうと思っていた。

「ありがとうございます」

「いんや、気にせんでいい」

 オリヴァーは一礼をすると執務室を後にした。

 この後はアランの所へ行くつもりだ。きっとバルナバスも一緒だろうから、ルドルフの一件をオリヴァーが謝るのはお門違いな気がするが、労いぐらいはしておこうと思っている。元はと言えば、オリヴァーが容易に訓練をしようなどと言ってしまったから、ルドルフが訓練場に来たのだろう。言わなくても来たと思うが。

 城から出ると真夏のギラギラとした日差しが頭に降り注ぐ。丁度、太陽が真上に来ている。一日で一番暑い時間帯だ。この一週間、ほとんど訓練ができなかったアランは騎士たちも休んでいる中も熱心に訓練をしているという。

 訓練場の中に入ると乾いた風が吹き込んできてとても涼しい。日差しさえ遮ってしまえば空気は乾いているのでまだ過ごしやすい。

 カン、キン、と剣のぶつかる音が聞こえてくる。想像してた通り、中ではアランとバルナバスが剣を打ち合っていた。二人ともオリヴァーの気配に気付いてすぐに手を止めた。

「オリヴァー様!」

 どうしてこんなにも懐かれてしまったのかオリヴァーには理解できないが、駆け寄ってくるアランを無碍にはできない。

「この間の礼を言いに来た」

「……礼?」

「ああ、助けてくれたんだろう、俺を」

 アランはハッとしてから「……気付いていたんですね」と俯いてしまった。悪いことをした自覚はあるようだが、オリヴァーが助けられたのも事実だ。

「お祖父様には話しておいたから、お前が叱られることはない」

「……でも」

「窓の一枚や二枚、うちではどうってことないんだから気にするな。それよりももしお前があの時助け舟を出してくれなかったほうが、我が家では損失だったと思うぞ?」

 まあ、どちらにしろ、オリヴァーは最終的に武力で解決していただろうが、アランのおかげで外敵から王子を守るという名目の上で痛めつけることが出来た。癖になりそうなぐらいすっきりした。

 何も言わずにようやく頷いたアランを見てオリヴァーはホッとする。

「礼をしようと思うんだが、何か欲しいものはあるか?」

「と、とんでもないです! ご迷惑もおかけしているのに」

「助けてくれた者に対して何もしない無礼者にさせないでくれ」

 そう言うとアランは渋々と言った様子で考え始める。

「あの……、オリー兄様とお呼びしてもいいですか?」

「は?」

「俺への礼はそれで十分です」

 それだとオリヴァーが納得できないが、礼を押し付けるのもいかがなものか。

「分かった。好きに呼んだらいい」

「ありがとうございます!」

 大して親切にしてやったわけでもないのにこうして慕ってくれる姿を見ると、年の近い弟妹というのは案外悪くないのかもしれない、とオリヴァーは思った。
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