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3-10 スコット侯爵領

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「で、殿下、いきなり何をおっしゃるんです?」

 オリヴァーは無理やり声を捻りだして尋ねた。斜め後ろから冷たい空気が流れてきているが無視だ。

 辺境伯嫡子となれば、王子の機嫌を損ねたぐらいどうってことない。それにジュノ辺境伯家は王太子フリードリヒを支持しているから余計だ。ルドルフに嫌われたところで嫌味を言われる程度で家門には傷一つ付かない。辺境伯家と言えばそれだけの強みを持っている。

 現に辺境伯家にそっぽを向かれて困るのは王家だ。ジュノ辺境伯領の隣は王国と同等の大きさを持つ帝国があり、先の戦争でぎりぎり王国が勝利したもの、今も国境付近では時折小競り合いが発生している。それもジュノ辺境伯家が帝国との国境を防衛しているから小競り合い程度で済んでいるのだ。

 ジュノ辺境伯家がいなくなれば帝国は再び王国に攻め入るだろう。

 それを知ってか否か、ルドルフの強気な態度に訓練をしていた騎士たちからも不穏な空気が流れる。

「何ってそのままさ。俺の目の前に立つなと言った。ほら、さっさと下がれ」

 しっしと追いやるように手を振るルドルフに、バルナバスは一礼すると何も言わずに訓練場を後にした。バルナバスの何がルドルフの機嫌を損ねてしまったのか。困惑しているオリヴァーなど気にもせず、ルドルフはオリヴァーの肩を抱き、「朝から疲れただろう」と決めつけここから連れ出そうとする。

「ちょ……、待ってください。まだ終わっていません」

 来ている間はルドルフを優先するつもりでいるが、勝手に来てあれこれ決められるのは癪だ。拒否するとルドルフの眉間に皺が寄る。

「オリー。いくら君でも、俺の言うことを聞かないのはどうかと思うぞ?」

 これまでオリヴァーがルドルフに対して反抗的な態度を取ることはなかった。一瞬だけ怯みそうになったが、ルドルフに嫌われても今のオリヴァーは困らない。それにここはスコット侯爵家の城だ。味方は多い、はずだ。

「お言葉ですが、殿下。俺はここで遊んでいるわけではございません。お休みになられるのであれば、どうぞ使用人にお申し付けください」

 肩に置かれた手を振り払って、オリヴァーは剣を握り直す。ルドルフは不思議なほど静かになり、背を向けたオリヴァーに一言も発さずに訓練場を後にした。

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