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3-6 スコット侯爵領
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正直、真っすぐで世辞など知らない祖父と、見栄だけで中身などないルドルフは水と油のようだ。
確実に気が合わないだろうし、お互いにそんな予感がしているのか、関わっているところを見たことがなかった。特に祖父は当主の座を父に譲ってからは自領に籠りっきりで、時たま国王から呼び出されて登城する程度だ。その際、王太子であるフリードリヒには挨拶をしているようだが、残りの王子や王女と会話をしているのは見たことも聞いたこともなかった。
「失礼します」
扉をノックするとすぐに返事があった。中に入るとアランとバルナバスが机の前に立っていて、椅子に座った祖父は険しい顔をしていた。夫婦そろって第二王子がここへ来ることを歓迎していないようだ。オリヴァーも同じであるが勘づかれないよう表情には出さない。
「オリーか。ビアンカから聞いたか?」
「はい。ルドルフ殿下が避暑に来られるとか」
こちらを向いているアランもバルナバスも無表情で何を考えているのか分からない。アランの出自が隠されている以上、彼がルドルフと顔見知りなのかは尋ねられないけれど、バルナバスは辺境伯家だ。王家主催のパーティには参加しているだろうし、嫡子ならば王子達と挨拶だって交わしているだろう。ジュノ家は確か王太子を支持する保守派だった気がするけれど。
どちらにしろルドルフを歓迎する人物は少ない、と言うことだ。ルドルフと出来る限り関わりたくないオリヴァーはもちろんのこと、身元を明かしたくないアラン、保守派のバルナバス、政争とは無縁でありたい祖父母夫婦。
「アランを殿下の前に出すわけにはいかんからな。いつまでいるのか知らんが、当面の間は騎士団の寮へ行っていてくれるか?」
「分かりました」
「バルナバスは……、分かっておるな?」
「ええ、もちろん」
任せてください、と言わんばかりに笑みを浮かべるバルナバスに対し、祖父は難しい顔をしたままだ。まだ三人の関係性を理解していないオリヴァーは黙って三人を見つめていた。
「そう言えば、オリーは殿下と仲が良かったな?」
どこでそんな噂を聞きつけたのか、祖父の問いかけに二人がバッとこちらを向く。驚愕の顔をしているアランに、無表情のバルナバス。王都で暮らしていたのだから、王子と関りがあることぐらい二人も分かっているはずだが大げさな反応に少したじろぐ。
「仲がいい、と言うほどではありません」
そこはきっぱりと否定しておく。
「けれど従者になる予定だったんじゃろ?」
「俺には務まらないと思って断りましたけどね」
思わず舌を出しそうになって思いとどまる。内心ではルドルフに関わるなんて断固拒否だが、この城内で彼を相手できるのは自分しかいないだろう。一体、どれぐらいの日数滞在するのか不明だが、多少の我慢は仕方あるまい。従者で毎日一緒だった日々を思い出せば、これぐらいは大したことない。
それでも嫌なものは嫌だが。強い視線に根負けして、オリヴァーは「俺が相手をしますよ」と自ら言い出す。
「どうせ、お祖父様も、お祖母様もそのつもりだったんでしょう?」
「お前しか適任がおらんのじゃ。仕方あるまい。儂が相手をしてもいいが……、王家に歯向かうことになっても厄介だしなあ」
それならばもう少しぐらい立ち振る舞いを見直してほしいところだが、祖父にはその気は更々ないようだ。祖父は国王が決めた後継者に異を唱えるつもりがないから、登城しても王太子にしか挨拶をしないのだ。線引きはしっかりしている。
「殿下は暑いところが嫌いですし、スコットの暑さに嫌気が差して、さっさと帰ってくれるでしょう」
そう祈るしかなかった。
確実に気が合わないだろうし、お互いにそんな予感がしているのか、関わっているところを見たことがなかった。特に祖父は当主の座を父に譲ってからは自領に籠りっきりで、時たま国王から呼び出されて登城する程度だ。その際、王太子であるフリードリヒには挨拶をしているようだが、残りの王子や王女と会話をしているのは見たことも聞いたこともなかった。
「失礼します」
扉をノックするとすぐに返事があった。中に入るとアランとバルナバスが机の前に立っていて、椅子に座った祖父は険しい顔をしていた。夫婦そろって第二王子がここへ来ることを歓迎していないようだ。オリヴァーも同じであるが勘づかれないよう表情には出さない。
「オリーか。ビアンカから聞いたか?」
「はい。ルドルフ殿下が避暑に来られるとか」
こちらを向いているアランもバルナバスも無表情で何を考えているのか分からない。アランの出自が隠されている以上、彼がルドルフと顔見知りなのかは尋ねられないけれど、バルナバスは辺境伯家だ。王家主催のパーティには参加しているだろうし、嫡子ならば王子達と挨拶だって交わしているだろう。ジュノ家は確か王太子を支持する保守派だった気がするけれど。
どちらにしろルドルフを歓迎する人物は少ない、と言うことだ。ルドルフと出来る限り関わりたくないオリヴァーはもちろんのこと、身元を明かしたくないアラン、保守派のバルナバス、政争とは無縁でありたい祖父母夫婦。
「アランを殿下の前に出すわけにはいかんからな。いつまでいるのか知らんが、当面の間は騎士団の寮へ行っていてくれるか?」
「分かりました」
「バルナバスは……、分かっておるな?」
「ええ、もちろん」
任せてください、と言わんばかりに笑みを浮かべるバルナバスに対し、祖父は難しい顔をしたままだ。まだ三人の関係性を理解していないオリヴァーは黙って三人を見つめていた。
「そう言えば、オリーは殿下と仲が良かったな?」
どこでそんな噂を聞きつけたのか、祖父の問いかけに二人がバッとこちらを向く。驚愕の顔をしているアランに、無表情のバルナバス。王都で暮らしていたのだから、王子と関りがあることぐらい二人も分かっているはずだが大げさな反応に少したじろぐ。
「仲がいい、と言うほどではありません」
そこはきっぱりと否定しておく。
「けれど従者になる予定だったんじゃろ?」
「俺には務まらないと思って断りましたけどね」
思わず舌を出しそうになって思いとどまる。内心ではルドルフに関わるなんて断固拒否だが、この城内で彼を相手できるのは自分しかいないだろう。一体、どれぐらいの日数滞在するのか不明だが、多少の我慢は仕方あるまい。従者で毎日一緒だった日々を思い出せば、これぐらいは大したことない。
それでも嫌なものは嫌だが。強い視線に根負けして、オリヴァーは「俺が相手をしますよ」と自ら言い出す。
「どうせ、お祖父様も、お祖母様もそのつもりだったんでしょう?」
「お前しか適任がおらんのじゃ。仕方あるまい。儂が相手をしてもいいが……、王家に歯向かうことになっても厄介だしなあ」
それならばもう少しぐらい立ち振る舞いを見直してほしいところだが、祖父にはその気は更々ないようだ。祖父は国王が決めた後継者に異を唱えるつもりがないから、登城しても王太子にしか挨拶をしないのだ。線引きはしっかりしている。
「殿下は暑いところが嫌いですし、スコットの暑さに嫌気が差して、さっさと帰ってくれるでしょう」
そう祈るしかなかった。
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