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2-2 ルドルフ・ジークムント・エメリヒ・ヴォルアレスという男

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 食堂に入るとすでに両親が所定の位置に座っていた。

「おはようございます」

 挨拶を済ませて父から一番離れた席に腰掛けると続いて兄が入ってきた。オリヴァーを一瞥するなりすぐに目をそらし、「おはようございます」と両親に挨拶をして隣に座る。全員が揃うと食事がゆっくりと運ばれてきた。

「父上」

 オリヴァーはさっそく話を切り出す。新聞に目を通していた父は顔を上げると「なんだ」とオリヴァーを見る。兄との関係はあまりよくなかったもの、オリヴァーが反逆罪で拘束されるまで両親とは良好だった。それはオリヴァーが行儀正しい次男を演じていたから、だろうが。

「ルドルフ殿下の従者になる件ですが、もう一度、考え直してはいただけないでしょうか」

 フォークを握ろうとした兄の手がぴたりと止まり、視線がこちらを向くのを感じた。母もまた静かにオリヴァーを見つめている。

「理由は?」

 父の声は穏やかだった。

「父上の意向は理解しているつもりですが、我が家の中立を守るために二人も王族の傍に就けば良い気のしない人たちも多いのでは?」

 実際のところ、こういった批判はオリヴァーがルドルフの従者になった際、スコット家をよく思わない貴族からぽつぽつと出ていた。王家を意のままに操ろうとしているのではないか、などと荒唐無稽な話ばかりで相手にしていなかったが。それでも自分にケチを付けられているようで当時のオリヴァーは不服に思っていた。

「それだけか?」

「いえ……、あとは自分の未熟さが招いたことになりますが、自分ではルドルフ殿下の従者になるのは力不足かと」

 ルドルフの気難しさについては父も十分に知っているはずだ。だが今更になって断りを入れることに多少なりとも引け目を覚えるからこそ、遠回しな表現で訴えかける。それに感づいた父は「率直に言いなさい」とほのかに笑いながらそう言った。

「従者になりたくありません」

 きっぱりいうと今度こそ父は噴き出す様に笑った。兄も食事を再開し、母も紅茶に口を付ける。

「断るのは簡単だが、お前はそれで本当にいいのか? ルドルフ殿下の従者になれば王宮での職に就ける可能性だって出てくるから構わないと最初は承諾していたではないか」

「確かにそう思うところもあります。けれどルドルフ殿下が所々で問題を起こしているのは父上も知っているでしょう? この前だって……」

「それ以上は不敬に当たる。やめなさい」

 オリヴァーはぴたりと口を閉じる。

「お前の気持ちは分かった。陛下にも私から伝えておこう」

「当面の間、王都から離れようと思っております。そのほうが言い訳に使いやすいのでは?」

「そこまで気を使う必要はない、が、どういうつもりだ?」

 ただ今は状況を整理するためにも領地でゆっくりしたいだけだ。どうせあと三年もすれば王立の教育機関に進学するため、再び王都に戻ってくるのだ。そこでは嫌でもルドルフと顔を合わせることになる。

「少し……、見聞を広めたいだけですよ」

「そうか。では早速手配しよう」

 こうしてあっさりとオリヴァーが領地へ行くことが決まってしまった。


 
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