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3-7 Bub
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現実の世界でも、こっちの世界でも、俺に優しくしてくれる人なんていなかった。だから憐れみでもなんでも優しくしてくれるなら、それで十分だった。
アルフォンスに色々と言われたが、面と向かって俺に文句を言うのはそれこそアルフォンスぐらいで、オズワルドと仲良くしているのを遠巻きに見て陰口をたたく奴か、こっそりと俺に対して嫌がらせをする奴しかここにはいなかった。
正直、ぼっち生活でいじめられたりした経験もある俺にとって、そんな嫌がらせは屁でもないけれど……。
「やった、出来た!」
レポートが完成すると嬉しさのあまり声を上げてしまう。立ち上がった俺にオズワルドは噴き出す様に笑い出し、「図書館だぞ」と窘めた。
「あ……、ごめん。嬉しくて、つい」
周囲にじろじろと見られているのはさすがに恥ずかしくなってゆっくりと椅子に腰掛ける。顔を両手で覆い、「わー、恥ずかしい」と呟く。オズワルドは俺を見て仄かに笑うと、提出するレポートをぺらぺらとめくる。
ゲームであればここで彼の婚約者であるアリシア・オークスがやってきて、リリーが彼女に窘められる。いくら境遇を憐れんだとは言っても、婚約者が年頃の女と仲良くしていれば良い気はしない。これに関してはオズワルドにも非があるけれど、彼女らが責めるのはいつもヒロインであるリリーだった。
まあ、俺は男だからやっかまれることも何もないだろうが。ただ貧乏男爵令息の俺が、侯爵令息と仲良くしているのを見て良い気がしない人間は数多くいる。現に少しずつ嫌がらせはされていて、ノートが破かれたりなどは起こっている。俺の性格がゆがんでいるのか、相手からの僻みだと思うとわずかながら優越感を覚えた。
これまでの人生で人から嫉妬されるなんて、一度もなかった。けれど俺はここで一度、身の程を弁えて引かなければならない。
「ありがとう、オズワルド。君が俺を誘ってくれたおかげで、何とか完成できたよ」
「……ユーリッシュ?」
「でも……、俺みたいな男爵家の人間が、王の騎士になる侯爵家の令息と仲良くしていたらよく思わない人もたくさんいる。だからこうして名前で呼ぶのは今日までにしよう」
そう言って俺はあっけにとられたオズワルドの前に置かれているレポートを手に取って、彼ににこりと微笑む。
「今までありがとう。これは俺から提出しておく。……騎士になるって頑張るのもいいけど、体には十分、気を付けてね」
頑張って笑顔を作り、何も言わないオズワルドに背を向けて走り出す。
「ユーリッシュ!」
オズワルドの悲鳴のような声が、図書館中に響き渡った。
アルフォンスに色々と言われたが、面と向かって俺に文句を言うのはそれこそアルフォンスぐらいで、オズワルドと仲良くしているのを遠巻きに見て陰口をたたく奴か、こっそりと俺に対して嫌がらせをする奴しかここにはいなかった。
正直、ぼっち生活でいじめられたりした経験もある俺にとって、そんな嫌がらせは屁でもないけれど……。
「やった、出来た!」
レポートが完成すると嬉しさのあまり声を上げてしまう。立ち上がった俺にオズワルドは噴き出す様に笑い出し、「図書館だぞ」と窘めた。
「あ……、ごめん。嬉しくて、つい」
周囲にじろじろと見られているのはさすがに恥ずかしくなってゆっくりと椅子に腰掛ける。顔を両手で覆い、「わー、恥ずかしい」と呟く。オズワルドは俺を見て仄かに笑うと、提出するレポートをぺらぺらとめくる。
ゲームであればここで彼の婚約者であるアリシア・オークスがやってきて、リリーが彼女に窘められる。いくら境遇を憐れんだとは言っても、婚約者が年頃の女と仲良くしていれば良い気はしない。これに関してはオズワルドにも非があるけれど、彼女らが責めるのはいつもヒロインであるリリーだった。
まあ、俺は男だからやっかまれることも何もないだろうが。ただ貧乏男爵令息の俺が、侯爵令息と仲良くしているのを見て良い気がしない人間は数多くいる。現に少しずつ嫌がらせはされていて、ノートが破かれたりなどは起こっている。俺の性格がゆがんでいるのか、相手からの僻みだと思うとわずかながら優越感を覚えた。
これまでの人生で人から嫉妬されるなんて、一度もなかった。けれど俺はここで一度、身の程を弁えて引かなければならない。
「ありがとう、オズワルド。君が俺を誘ってくれたおかげで、何とか完成できたよ」
「……ユーリッシュ?」
「でも……、俺みたいな男爵家の人間が、王の騎士になる侯爵家の令息と仲良くしていたらよく思わない人もたくさんいる。だからこうして名前で呼ぶのは今日までにしよう」
そう言って俺はあっけにとられたオズワルドの前に置かれているレポートを手に取って、彼ににこりと微笑む。
「今までありがとう。これは俺から提出しておく。……騎士になるって頑張るのもいいけど、体には十分、気を付けてね」
頑張って笑顔を作り、何も言わないオズワルドに背を向けて走り出す。
「ユーリッシュ!」
オズワルドの悲鳴のような声が、図書館中に響き渡った。
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