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3-6 Bub

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 正直なところ、同情でも優しくしてくれることに安堵感と優越感を覚えた。



 ペアを組んでから俺は日中のほとんどをオズワルドと過ごした。王子の騎士となることを夢見る彼の話を黙って聞いていると、「俺ばかり話してすまない」と恥ずかしそうに笑う顔が子供っぽくて可愛かった。

「おずわ――……、ワディンガル様」
「名前で呼んで構わないと言っただろう? それに敬語もいらない」

 俺は一瞬困ったような表情をしてから、首を縦に振る。格下である俺がオズワルドを呼び捨てにするなんて他の奴らが聞いたら卒倒しそうだが、本人がそう言っているのを無下にもできない。それにゲーム内では基本的に呼び捨てにしていたから、呼び捨てのほうが呼びやすい。

「俺も、お前のことはユーリッシュと呼ばせてもらう」
「……うん、ありがとう。オズワルド」

 にこりと微笑むと彼が息あを呑むのが見えた。この顔に微笑まれたらいくら男でもぐっとくるものがあるんだろうか。

「残りは寮に戻ってからまとめておくよ」

 とんとんと資料をまとめてカバンに入れる。貴族の子息令嬢を預かっているからか寮の門限はそこそこ厳しく、部活動に入っていない二元は六時までに戻らないと寮母から仕置きを受ける。まあ、これも、爵位によって、なのだが、基本的に貧乏男爵家の俺に大人の目は厳しい。

「俺は少し図書館で資料を探しておこう」
「暗くなるから……、気を付けるんだよ」

 そういうとオズワルドは一瞬驚いたように目を見開き、「誰に言っているんだ」と言って笑った。騎士の家系に生まれて、厳しく育てられてきた彼が身を案じるようなことを言われるなんて滅多になかった。俺のこの一言が彼の胸にどれだけ響くのか、分かっていて言った俺は結構罪深いのかもしれない。




 寮に戻ると珍しくアルフォンスが自室にいた。俺の姿をじろじろと値踏みするように見てから、「最近、オズワルドと仲がいいみたいだね」と声を掛けてきた。

「俺が一人でいたから、気を遣って声を掛けてくれたんだ」
「……へえ」

 不機嫌そうな低い声に「ダメだった?」と尋ねると、彼は鼻で笑って首を振る。

「お前が誰と仲良くしようが、オズワルドがお前を憐れんで気にかけようが、僕には関係ないことだ。いちいち僕の了承なんて不要だろう?」
「……でもアルフォンスだって、オズワルドと仲がいいだろ? 俺がオズワルドと仲良くするのが嫌だって言うなら、ちょっとずつ距離を置くようにするよ。身分違いなのは十分に分かっている」

 まあ、そうしたところで正義感の強いオズワルドが俺に近寄ることをやめないだろうが。アルフォンスは眉間に皺を寄せて「それは本気で言っているのか?」と尋ねた。どうやら俺の回答が更に彼の機嫌を損ねてしまったらしい。

 このゲーム内で今のところ、俺の知っている通りに動かないのは、この男だけだ。

「オズワルドはお前の境遇を憐れんで声を掛けてきたんだ。お前がはっきりと拒絶しない限り、オズワルドは自分が決めたことを決して曲げたりしない。一度、あいつを受け入れたんだから、最後まで付き合うのが筋ってものだろう」

 予想以上に厳しい意見に俺は黙りこくる。

「中途半端なことはするな」
「……ごめん」

 しゅんとなって謝るとアルフォンスは呆れたようにため息を吐いて立ち上がった。俺を助けてくれるわけでもなく、助けてくれたオズワルドと仲良くしていたら文句を言われて、一体、どうしてほしいのか分からない。けれどこんなことを言えば倍になって返ってきそうな気がして俺は黙ることしかできなかった。


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