パパになる。

naruse*

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葬式

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  蒸し暑い夏の終わり。
  真っ黒い喪服に身を包んだ俺、日野 孝哉ひの こうやは車から降りる。


「うわっ…久しぶりに来た」


 そこはもともと父の実家だった場所で、今は末の妹夫婦の息子夫婦が管理している家だった。そしてその家は今現在、白と黒の鯨幕に覆われ入口には"喪中"の文字。
 なぜここにいるか、それは数年ぶりの親戚からの連絡がイトコが亡くなったという内容だったからだ。
 数年前に結婚したばかりだというのにどうしてだろうか?
 すると、孝哉の耳に親戚たちの声が届いた。


「何でも、奥さんに刺されたらしい」
「えぇ?! 奥さんは?」
「その後に自殺したって」
「無理心中かしらね?」
「さぁ…怖いわね」



 そう言いながら、親戚たちの話はすぐに変わる。





 焼香を終え通夜までまだ時間があるなと孝哉が携帯を取り出すと一緒に入れていた車のキーが落ちた。慌てて拾おうとする。
 しかし、孝哉が車のキーを拾う前に拾ってくれる人がいた。


「あ…」


 小さな手で車のキーを拾う"その子"はまだ小学校に上がるか上がらないかくらいの少女でその後ろには3歳か4歳くらいの弟らしき子。少女は無言で鍵を差し出した。



「お、おう、ありがとな!」



 少女はコクン頷いて走って叔母さんのところに走って行く。喋らなかったのがすこし気になったが気のせいと自分の中で片付けた。

 すると、叔父たちの話が耳に入った。



「まったく、厄介なものを残していったな」
「誰が育てるんだ。ウチは無理だぞ」
「ウチだって無理。でも施設に預けるのも世間体がなぁ」
「なんだってまた。この家呪いでもあるんじゃないのか?」



 そこで孝哉に気付いた叔父たちは、あからさまに咳払いをしその場を後にする。
 それを無表情で見つめ、理解した。



(……そう言うことか…)



 ―――――あの子たちは俺と同じなんだな。




***




 通夜の席で小さな喪服に身を包んだ姉弟・優陽と一輝は喋ることなく静かに座っていた。
 それを横目に叔母たちがヒソヒソと喋る。


「それで、どう? 喋った?」
「全然! 笑いもしないし泣きもしないのよ、あの子たち」
「ホント不気味ね」
「ホントね。あ!孝哉くん、これ運んじゃって!」
「はーい」



 手渡されたおにぎりなどの入った番重を抱え広間に行く。




「ホント、面倒なものを残して逝ったもんだよ! なぁ!」
「ちょ…義兄さん!」
「別にいいだろ、ホントの事じゃねえか」
「優陽ちゃんたちに聞こえます!」
「まだガキだし聞いてもわかんねーよ」


 焼酎を片手に酔った叔父が喋り出した。


「大体、アイツもアイツだ! あんな女と結婚したのが運の尽きだったんだよ」
「おいっ……」
「家事もできない仕事ばかりの女のどこが良かったのだか。女は家にいて、家を守るのが仕事だろう?」

 典型的な男尊女卑の思想を持った叔父は、飲みながら続ける。


「殺されたのだってそれが原因だったんだろ?自業自得じゃねーか!何でこっちが迷惑を被らにゃきゃ行けねーんだ。可笑しいだろ」
「……っ…」
「まぁ、あの性格じゃ女も、アイツも死んじまって当然だったのかも知れねーな!」




 皆が叔父に注目するなか孝哉だけはあの姉弟を見ていた。


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