2 / 5
葬式
しおりを挟む
蒸し暑い夏の終わり。
真っ黒い喪服に身を包んだ俺、日野 孝哉は車から降りる。
「うわっ…久しぶりに来た」
そこはもともと父の実家だった場所で、今は末の妹夫婦の息子夫婦が管理している家だった。そしてその家は今現在、白と黒の鯨幕に覆われ入口には"喪中"の文字。
なぜここにいるか、それは数年ぶりの親戚からの連絡がイトコが亡くなったという内容だったからだ。
数年前に結婚したばかりだというのにどうしてだろうか?
すると、孝哉の耳に親戚たちの声が届いた。
「何でも、奥さんに刺されたらしい」
「えぇ?! 奥さんは?」
「その後に自殺したって」
「無理心中かしらね?」
「さぁ…怖いわね」
そう言いながら、親戚たちの話はすぐに変わる。
焼香を終え通夜までまだ時間があるなと孝哉が携帯を取り出すと一緒に入れていた車のキーが落ちた。慌てて拾おうとする。
しかし、孝哉が車のキーを拾う前に拾ってくれる人がいた。
「あ…」
小さな手で車のキーを拾う"その子"はまだ小学校に上がるか上がらないかくらいの少女でその後ろには3歳か4歳くらいの弟らしき子。少女は無言で鍵を差し出した。
「お、おう、ありがとな!」
少女はコクン頷いて走って叔母さんのところに走って行く。喋らなかったのがすこし気になったが気のせいと自分の中で片付けた。
すると、叔父たちの話が耳に入った。
「まったく、厄介なものを残していったな」
「誰が育てるんだ。ウチは無理だぞ」
「ウチだって無理。でも施設に預けるのも世間体がなぁ」
「なんだってまた。この家呪いでもあるんじゃないのか?」
そこで孝哉に気付いた叔父たちは、あからさまに咳払いをしその場を後にする。
それを無表情で見つめ、理解した。
(……そう言うことか…)
―――――あの子たちは俺と同じなんだな。
***
通夜の席で小さな喪服に身を包んだ姉弟・優陽と一輝は喋ることなく静かに座っていた。
それを横目に叔母たちがヒソヒソと喋る。
「それで、どう? 喋った?」
「全然! 笑いもしないし泣きもしないのよ、あの子たち」
「ホント不気味ね」
「ホントね。あ!孝哉くん、これ運んじゃって!」
「はーい」
手渡されたおにぎりなどの入った番重を抱え広間に行く。
「ホント、面倒なものを残して逝ったもんだよ! なぁ!」
「ちょ…義兄さん!」
「別にいいだろ、ホントの事じゃねえか」
「優陽ちゃんたちに聞こえます!」
「まだガキだし聞いてもわかんねーよ」
焼酎を片手に酔った叔父が喋り出した。
「大体、アイツもアイツだ! あんな女と結婚したのが運の尽きだったんだよ」
「おいっ……」
「家事もできない仕事ばかりの女のどこが良かったのだか。女は家にいて、家を守るのが仕事だろう?」
典型的な男尊女卑の思想を持った叔父は、飲みながら続ける。
「殺されたのだってそれが原因だったんだろ?自業自得じゃねーか!何でこっちが迷惑を被らにゃきゃ行けねーんだ。可笑しいだろ」
「……っ…」
「まぁ、あの性格じゃ女も、アイツも死んじまって当然だったのかも知れねーな!」
皆が叔父に注目するなか孝哉だけはあの姉弟を見ていた。
真っ黒い喪服に身を包んだ俺、日野 孝哉は車から降りる。
「うわっ…久しぶりに来た」
そこはもともと父の実家だった場所で、今は末の妹夫婦の息子夫婦が管理している家だった。そしてその家は今現在、白と黒の鯨幕に覆われ入口には"喪中"の文字。
なぜここにいるか、それは数年ぶりの親戚からの連絡がイトコが亡くなったという内容だったからだ。
数年前に結婚したばかりだというのにどうしてだろうか?
すると、孝哉の耳に親戚たちの声が届いた。
「何でも、奥さんに刺されたらしい」
「えぇ?! 奥さんは?」
「その後に自殺したって」
「無理心中かしらね?」
「さぁ…怖いわね」
そう言いながら、親戚たちの話はすぐに変わる。
焼香を終え通夜までまだ時間があるなと孝哉が携帯を取り出すと一緒に入れていた車のキーが落ちた。慌てて拾おうとする。
しかし、孝哉が車のキーを拾う前に拾ってくれる人がいた。
「あ…」
小さな手で車のキーを拾う"その子"はまだ小学校に上がるか上がらないかくらいの少女でその後ろには3歳か4歳くらいの弟らしき子。少女は無言で鍵を差し出した。
「お、おう、ありがとな!」
少女はコクン頷いて走って叔母さんのところに走って行く。喋らなかったのがすこし気になったが気のせいと自分の中で片付けた。
すると、叔父たちの話が耳に入った。
「まったく、厄介なものを残していったな」
「誰が育てるんだ。ウチは無理だぞ」
「ウチだって無理。でも施設に預けるのも世間体がなぁ」
「なんだってまた。この家呪いでもあるんじゃないのか?」
そこで孝哉に気付いた叔父たちは、あからさまに咳払いをしその場を後にする。
それを無表情で見つめ、理解した。
(……そう言うことか…)
―――――あの子たちは俺と同じなんだな。
***
通夜の席で小さな喪服に身を包んだ姉弟・優陽と一輝は喋ることなく静かに座っていた。
それを横目に叔母たちがヒソヒソと喋る。
「それで、どう? 喋った?」
「全然! 笑いもしないし泣きもしないのよ、あの子たち」
「ホント不気味ね」
「ホントね。あ!孝哉くん、これ運んじゃって!」
「はーい」
手渡されたおにぎりなどの入った番重を抱え広間に行く。
「ホント、面倒なものを残して逝ったもんだよ! なぁ!」
「ちょ…義兄さん!」
「別にいいだろ、ホントの事じゃねえか」
「優陽ちゃんたちに聞こえます!」
「まだガキだし聞いてもわかんねーよ」
焼酎を片手に酔った叔父が喋り出した。
「大体、アイツもアイツだ! あんな女と結婚したのが運の尽きだったんだよ」
「おいっ……」
「家事もできない仕事ばかりの女のどこが良かったのだか。女は家にいて、家を守るのが仕事だろう?」
典型的な男尊女卑の思想を持った叔父は、飲みながら続ける。
「殺されたのだってそれが原因だったんだろ?自業自得じゃねーか!何でこっちが迷惑を被らにゃきゃ行けねーんだ。可笑しいだろ」
「……っ…」
「まぁ、あの性格じゃ女も、アイツも死んじまって当然だったのかも知れねーな!」
皆が叔父に注目するなか孝哉だけはあの姉弟を見ていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
Husband's secret (夫の秘密)
設樂理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
夫のカノジョ / 垣谷 美雨 さま(著) を読んで
Another Storyを考えてみました。
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
天上の銀の卵、雪
多々良
ライト文芸
くたびれた男が、天上へと続くリフトに揺られて上がっていく。
遥かな足元は金属の大地、上がる先は金属でできた空。
決まった時間に、その空から人工の雪が降る。
慰めとして、美しいものの代名詞として___。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる