28 / 28
聖女一行の旅は続く
しおりを挟む
アエリアーナは旅を続けるらしい。
もう絶対教会に戻りたくないと、確固たる意志をお持ちで……そんなに嫌なのか。
むしろゲームのアエリアーナも、愛の力だよねーとか言われるくらいだから、教会よりマシだったのかもしれんとか言い出した。
え?俺?もちろん喜んで!
第一の災禍・吸魔がパーティーに入りました!
ダイン?俺の横で髪をスリスリしてるぜ。
まだダインの覚醒ってやつ見てないから、絶対見ないと。俺短髪だったんだって?がんばって縮めようとしても膝くらいが限界なんだよな……
って、おい、コンラート、何ひざまずいてるんだ。
「アエリアーナ様、リュート様、ダイン様。私もお供しとうございます」
は?俺とダインにもサマ!?
「神の御心を見失い、迷う私に導きを下さいました。愛とは何たるか、慈しみとは……私はその真のお姿たる……」
口上、10分。
この短い期間に、一体こいつに何が。
「デバガメしたに決まってるだろ」
ぼそっとアエリアーナ。
……え?あの俺のガチ泣き見られてたの!?やめてー!
「私も行くー!あんなところ(魔道協会)より友達といっしょがいい!」
お、いいぞ!きみがいたらマジで百人力。
天才魔道士確保!泣いて悔しがるがいい魔道協会!
ふふふ、最悪ひとりかもって思ってた数日前が懐かしいぜ。
「あ、私はここで」
はああああ!?
ここで裏切りが!?
って、まあいいけど。
これからどうするのフレェイ。
「やることが出来ましたので。またいつか……そうですねえ、5年後くらいに、お会いしましょう」
長いうえに具体的。
最初の頃とだいぶ違うよな、皆様に祝福を、って祈ってくれる姿がどっかの聖人みたい。
というわけで、聖女一行の旅はまだまだ続く。
「皆様ご存知でいらっしゃるでしょう、かの救世の聖女が、こちらアエリアーナ様。5年前、7の災禍という世界を滅ぼす災いを祓い、邪神の森を清め、かのイヴェギリスの悪魔領主を打ち倒し南部諸国を救った、歴代で最も尊いとされる乙女です」
うおーっ!
って、すごい歓声だな。
眼下?っていうのか?俺たちの下には大量の人、人、人。
いやーこんないっぱいの人初めて見るわ。
アエリアーナは笑顔で手を振っている。
アエリアーナ様!ってコール。ええ、こんな盛り上がっちゃっていいの……?その、主役はリアじゃないんだけど。
でも、本当に人気者なんだ、アエリアーナは。鼻が高いぜ。
あ、紹介された功績はぜんぶ本当だぞ、盛ったわけじゃない。
「そのお隣が、聖者と名高いリュートでいらっしゃる」
やめてー聖者やめてー。
うおーってやめてー。
「聖女の浄化の力と同等の祓いのお力を持ち、聖女の歩みを助け、各地で瘴気に冒される人々を救い、災禍を退ける。まさに聖者と呼ぶにふさわしい」
タネ明かしすると、普通にドレインです。
旅しているうちにドレインするエネルギーの区別、吸う量の調節ができるようになっちゃって、瘴気だけ吸えるようになったんだわ。
アエリアーナがしょっちゅう瘴気で苦しんでる人を助けてくれって呼び止められるもんだから、俺も手伝ったのが……うんまあ、呼び方はともかく、人助けはいいことだ。
どうも普段はフード被ってるから、神秘性が増すとかなんとか……もう見た目は人と変わらないくらいになってるんだけど、リアが神秘性グッジョブっていうからあ……
エネルギーの区別つけて量も測れて、おまけに俺から人にエネルギーもあげられるようになったから、医者みたいな事もできるようになって、それのせいもある。
あと、瘴気で暴走する人って、結構強い人が多いって分かって、なんとなく助言してみたり。瘴気を溜められる器って、それだけ大きいようだな。
そんで……強い人ほど、おいしい。
これ、気づいてたけどダインに言わなかったら、バレた時に浮気した!みたいに怒って暴走しちゃったんだよね……いや、ごめんて。
でもダイン以外に俺の一番好きな味はないんだよ。
「そのお隣が、無尽騎士ダイン。彼は聖女と聖者を護り、時に雄々しく敵を斃す。尽きることのない力で邪神の森から魔物を狩り尽くしたという……あり得ますねえ」
狩り尽くしてはないよ、その前にリアの覚醒滅殺パワーが炸裂したから。
「聖護騎士コンラート。聖女の教会時代から常に忠誠を誓う無類の騎士です」
表向きは。
今は狂信者じゃね?それこそ愛の力で覇気まで使えるようになったんだよ……
「封瘴の魔道士クリスティナ。彼女の知識と力は、この災禍に怯える世に輝く一番星のようです」
魔道協会に帰らなかったから、そこのおえらいさんがものすごくぶーぶー言って瘴気媒体化キャンセルは闇に葬られようとしたんだけど。
この魔法は!?って旅先の大きい国にいた大魔道士っていう人の目にとまって、今ではこの魔法は各国の常備魔法って呼ばれてる。
一番大きな魔道士の組織だった魔道協会は失墜。今はほそぼそ活動してるって。
身から出た錆ってな。
「最後に不肖わたくし、僧侶のフレェイが加わり、ここに5年前、7つの災禍を討伐した救世の聖女一行が揃いました」
儀式用のきらびやかな大量の布!っていう法衣を着て、にこやかさわやかな笑顔のフレェイ。
おお、盛り上がりが最高潮。
実のところ、聖女が戻ってこなかったから、7つの災禍と戦ったことは、教会がそんなことありましたっけ?みたいな態度で世間から忘れさせようとしたんだけど。
フレェイが神院にバーン!と戻り、聖女が倒しました世界を救いました!と拡声器持って(っていうイメージで)言いふらして。
私も手伝いました!と自身のイメージアップと、各地を旅して邪悪と戦いまくる聖女の人気を傘に……なんと、神院内を粛清統一。
俺たちが頑張った災禍との戦いが忘れられなかったことは感謝するけど、そのせいでいらん苦労もしたと言える。
「今日この日に、聖女をこの場にお呼びできたこと、大変嬉しく思います」
また歓声が上がる。
神院の本部の、信者にアピールするための広場で、俺たちがいるのは建物から大きく張り出したテラス。
本来なら、こういう賑やかしい使い方はしないらしいんだけど……
テラスの縁でにっこりと、もううさんくささがかけらも見当たらないフレェイの笑顔と、5年という月日で美しさに磨きがかかったアエリアーナの微笑み。
だが――俺たちは知っている。
この笑顔の裏で、ハブとマングースな戦いが繰り広げられていることを。
『人に面倒を押し付けて、なにが今日この日ですか?』
『まあまあ、聖女様の人気に貢献していますでしょう?それに先の災禍討伐に私が支援したことをお忘れなく』
『取ってつけたような物資支援でしょう?……聖水はありがたいことでしたけど』
『今後とも良き関係を続けようではないですか』
ってな感じかなー?
「リュート?」
ダインが俺の妄想に気づいたようだな。
「あのふたり、仲がいいよね」
「……ろくな事を考えてないという共通点はあるな」
無表情……っていうか、表情を作るのが面倒だと思って無表情になってるダイン。いつもは控えめだけど表情筋は動いてるんだ。
言ってることは間違ってないな、ふふ。
5年間、本当にフレェイとは会わなかったんだけど、もう中身がバレバレのやり取りはしてたんだよね。
松田……アエリアーナは、アエリアーナとして生きることに決めたらしく、旅を始めてからしばらくして仲間全員に転生のことをバラして、俺にもアエリアーナって呼ぶように言ったんだ。
いつの間にかコミュ障は克服したみたい。それはそうでしょう、って俺見ておかしそうに笑われたんだけど……なんだったんだ?
俺ももちろん一緒にバラしたけど……
さすがにこの世界がエロゲ世界とは言えなかった……言えないって……
これは俺たち二人だけの永遠の秘密だ。
懐かしいな、まだダインがろくに喋られなくてしょっちゅう暴走していたあの旅。
俺は災禍で、まだあんまりドレインもうまくなかったガリガリのちびだったのに、ダインってばよく手を出す気になったよね。まあ、身代わりだったけど。
本当、あの時アエリアーナを助けられて良かったな。
なんだか楽しくなって、ちょっとローブの袖から髪を出して、ダインの手に絡ませる。細いからたぶん他の人には気づかれない。
ダインは目を細めて俺をじっと見て、小さく笑った。
今日はなにも懐かしい同窓会じゃなくて、言ってみると俺たちはイベントのキャストだ。
テラスの奥にずっと控えていた僧侶が進み出てきて、恭しく聖女に箱に入った大きな杖――錫杖を差し出す。きらきらの彫金と宝石で、リアの頭一つ分大きいくらいあるけど、どうも軽くなる魔法がかかってるのか。
それをアエリアーナは箱からそっと手に持った。
フレェイがその前に膝をついて両手を差し出し、アエリアーナが錫杖を手渡し――
「貴方が『鱗冠尊者(神院トップ)』ならリュートは神にもなれますね、この破戒僧」
俺!?
「その時は貴方よりお先に神の第一の下僕として馳せ参じましょう、腹黒聖女」
俺をダシに不穏な会話しないで!?
「俺がお前の一番に決まっているからな」
そりゃお前が俺の一番だよダイン。
「ふっふー仲がいいねえ、ああ言えばこう言う?」
違うかな、クリスティナ……
「……名案ですね」
コンラートなにが!?
アエリアーナが続いて金色の小さな冠をフレェイの頭に乗せて……割れんばかりの拍手。
本当はこれは秘匿されてる場所で静かに行われてる神院の代替わりの儀式のひとつで、フレェイは風通しのいい組織を目指して、そういう秘密な事をオープンにしたいらしい。
……まあ、別のことは隠しまくってるけどね。
「これで、はばかることなく聖女を全面的に支援できます。皆様のお役に立てる日が来ました」
これはフレェイの本心なのかな?
アエリアーナは周りが浄化されるような笑顔だけど……そういう笑顔は逆に怖いんだ。
「今までの積もり積もった利子は返していただきます。お覚悟を」
そうだね……まずはあちこちで聖女を狙ってる輩のお掃除とかかな。
お前のせいだぞ、フレェイ。
飛んできたナイフは、コンラートが叩き落とした。
なにかの罠的な魔法はクリスティナが見つけて壊した。
おっと、俺を狙ってくるとは。
あーあ、ダインが殴り飛ばしたよ。生きてるかなあれ。
……奥から逃げ出そうとした僧侶の格好した不審者を、俺は数本の髪で拘束した。ジタバタもがくから、ドレインしようかと思ったら……
「飯は俺が食わせてやるから」
ダインが聞き分けのない子供に言うみたいに……仕方ない。ダインの精力に免じてやろう。両手足折っておくか。
テラスの内側のことだから、観客は気づいていない。
悠然とアエリアーナとフレェイがふたりで仲良し握手をしている。
すでに世界はシナリオ後、いいかげんだったストーリーはものすごく複雑になって第二フェーズに突入。
でもまあ……
俺はこの後のダインの極上ごはんに思いを馳せて、口元を拭った。
fin.
もう絶対教会に戻りたくないと、確固たる意志をお持ちで……そんなに嫌なのか。
むしろゲームのアエリアーナも、愛の力だよねーとか言われるくらいだから、教会よりマシだったのかもしれんとか言い出した。
え?俺?もちろん喜んで!
第一の災禍・吸魔がパーティーに入りました!
ダイン?俺の横で髪をスリスリしてるぜ。
まだダインの覚醒ってやつ見てないから、絶対見ないと。俺短髪だったんだって?がんばって縮めようとしても膝くらいが限界なんだよな……
って、おい、コンラート、何ひざまずいてるんだ。
「アエリアーナ様、リュート様、ダイン様。私もお供しとうございます」
は?俺とダインにもサマ!?
「神の御心を見失い、迷う私に導きを下さいました。愛とは何たるか、慈しみとは……私はその真のお姿たる……」
口上、10分。
この短い期間に、一体こいつに何が。
「デバガメしたに決まってるだろ」
ぼそっとアエリアーナ。
……え?あの俺のガチ泣き見られてたの!?やめてー!
「私も行くー!あんなところ(魔道協会)より友達といっしょがいい!」
お、いいぞ!きみがいたらマジで百人力。
天才魔道士確保!泣いて悔しがるがいい魔道協会!
ふふふ、最悪ひとりかもって思ってた数日前が懐かしいぜ。
「あ、私はここで」
はああああ!?
ここで裏切りが!?
って、まあいいけど。
これからどうするのフレェイ。
「やることが出来ましたので。またいつか……そうですねえ、5年後くらいに、お会いしましょう」
長いうえに具体的。
最初の頃とだいぶ違うよな、皆様に祝福を、って祈ってくれる姿がどっかの聖人みたい。
というわけで、聖女一行の旅はまだまだ続く。
「皆様ご存知でいらっしゃるでしょう、かの救世の聖女が、こちらアエリアーナ様。5年前、7の災禍という世界を滅ぼす災いを祓い、邪神の森を清め、かのイヴェギリスの悪魔領主を打ち倒し南部諸国を救った、歴代で最も尊いとされる乙女です」
うおーっ!
って、すごい歓声だな。
眼下?っていうのか?俺たちの下には大量の人、人、人。
いやーこんないっぱいの人初めて見るわ。
アエリアーナは笑顔で手を振っている。
アエリアーナ様!ってコール。ええ、こんな盛り上がっちゃっていいの……?その、主役はリアじゃないんだけど。
でも、本当に人気者なんだ、アエリアーナは。鼻が高いぜ。
あ、紹介された功績はぜんぶ本当だぞ、盛ったわけじゃない。
「そのお隣が、聖者と名高いリュートでいらっしゃる」
やめてー聖者やめてー。
うおーってやめてー。
「聖女の浄化の力と同等の祓いのお力を持ち、聖女の歩みを助け、各地で瘴気に冒される人々を救い、災禍を退ける。まさに聖者と呼ぶにふさわしい」
タネ明かしすると、普通にドレインです。
旅しているうちにドレインするエネルギーの区別、吸う量の調節ができるようになっちゃって、瘴気だけ吸えるようになったんだわ。
アエリアーナがしょっちゅう瘴気で苦しんでる人を助けてくれって呼び止められるもんだから、俺も手伝ったのが……うんまあ、呼び方はともかく、人助けはいいことだ。
どうも普段はフード被ってるから、神秘性が増すとかなんとか……もう見た目は人と変わらないくらいになってるんだけど、リアが神秘性グッジョブっていうからあ……
エネルギーの区別つけて量も測れて、おまけに俺から人にエネルギーもあげられるようになったから、医者みたいな事もできるようになって、それのせいもある。
あと、瘴気で暴走する人って、結構強い人が多いって分かって、なんとなく助言してみたり。瘴気を溜められる器って、それだけ大きいようだな。
そんで……強い人ほど、おいしい。
これ、気づいてたけどダインに言わなかったら、バレた時に浮気した!みたいに怒って暴走しちゃったんだよね……いや、ごめんて。
でもダイン以外に俺の一番好きな味はないんだよ。
「そのお隣が、無尽騎士ダイン。彼は聖女と聖者を護り、時に雄々しく敵を斃す。尽きることのない力で邪神の森から魔物を狩り尽くしたという……あり得ますねえ」
狩り尽くしてはないよ、その前にリアの覚醒滅殺パワーが炸裂したから。
「聖護騎士コンラート。聖女の教会時代から常に忠誠を誓う無類の騎士です」
表向きは。
今は狂信者じゃね?それこそ愛の力で覇気まで使えるようになったんだよ……
「封瘴の魔道士クリスティナ。彼女の知識と力は、この災禍に怯える世に輝く一番星のようです」
魔道協会に帰らなかったから、そこのおえらいさんがものすごくぶーぶー言って瘴気媒体化キャンセルは闇に葬られようとしたんだけど。
この魔法は!?って旅先の大きい国にいた大魔道士っていう人の目にとまって、今ではこの魔法は各国の常備魔法って呼ばれてる。
一番大きな魔道士の組織だった魔道協会は失墜。今はほそぼそ活動してるって。
身から出た錆ってな。
「最後に不肖わたくし、僧侶のフレェイが加わり、ここに5年前、7つの災禍を討伐した救世の聖女一行が揃いました」
儀式用のきらびやかな大量の布!っていう法衣を着て、にこやかさわやかな笑顔のフレェイ。
おお、盛り上がりが最高潮。
実のところ、聖女が戻ってこなかったから、7つの災禍と戦ったことは、教会がそんなことありましたっけ?みたいな態度で世間から忘れさせようとしたんだけど。
フレェイが神院にバーン!と戻り、聖女が倒しました世界を救いました!と拡声器持って(っていうイメージで)言いふらして。
私も手伝いました!と自身のイメージアップと、各地を旅して邪悪と戦いまくる聖女の人気を傘に……なんと、神院内を粛清統一。
俺たちが頑張った災禍との戦いが忘れられなかったことは感謝するけど、そのせいでいらん苦労もしたと言える。
「今日この日に、聖女をこの場にお呼びできたこと、大変嬉しく思います」
また歓声が上がる。
神院の本部の、信者にアピールするための広場で、俺たちがいるのは建物から大きく張り出したテラス。
本来なら、こういう賑やかしい使い方はしないらしいんだけど……
テラスの縁でにっこりと、もううさんくささがかけらも見当たらないフレェイの笑顔と、5年という月日で美しさに磨きがかかったアエリアーナの微笑み。
だが――俺たちは知っている。
この笑顔の裏で、ハブとマングースな戦いが繰り広げられていることを。
『人に面倒を押し付けて、なにが今日この日ですか?』
『まあまあ、聖女様の人気に貢献していますでしょう?それに先の災禍討伐に私が支援したことをお忘れなく』
『取ってつけたような物資支援でしょう?……聖水はありがたいことでしたけど』
『今後とも良き関係を続けようではないですか』
ってな感じかなー?
「リュート?」
ダインが俺の妄想に気づいたようだな。
「あのふたり、仲がいいよね」
「……ろくな事を考えてないという共通点はあるな」
無表情……っていうか、表情を作るのが面倒だと思って無表情になってるダイン。いつもは控えめだけど表情筋は動いてるんだ。
言ってることは間違ってないな、ふふ。
5年間、本当にフレェイとは会わなかったんだけど、もう中身がバレバレのやり取りはしてたんだよね。
松田……アエリアーナは、アエリアーナとして生きることに決めたらしく、旅を始めてからしばらくして仲間全員に転生のことをバラして、俺にもアエリアーナって呼ぶように言ったんだ。
いつの間にかコミュ障は克服したみたい。それはそうでしょう、って俺見ておかしそうに笑われたんだけど……なんだったんだ?
俺ももちろん一緒にバラしたけど……
さすがにこの世界がエロゲ世界とは言えなかった……言えないって……
これは俺たち二人だけの永遠の秘密だ。
懐かしいな、まだダインがろくに喋られなくてしょっちゅう暴走していたあの旅。
俺は災禍で、まだあんまりドレインもうまくなかったガリガリのちびだったのに、ダインってばよく手を出す気になったよね。まあ、身代わりだったけど。
本当、あの時アエリアーナを助けられて良かったな。
なんだか楽しくなって、ちょっとローブの袖から髪を出して、ダインの手に絡ませる。細いからたぶん他の人には気づかれない。
ダインは目を細めて俺をじっと見て、小さく笑った。
今日はなにも懐かしい同窓会じゃなくて、言ってみると俺たちはイベントのキャストだ。
テラスの奥にずっと控えていた僧侶が進み出てきて、恭しく聖女に箱に入った大きな杖――錫杖を差し出す。きらきらの彫金と宝石で、リアの頭一つ分大きいくらいあるけど、どうも軽くなる魔法がかかってるのか。
それをアエリアーナは箱からそっと手に持った。
フレェイがその前に膝をついて両手を差し出し、アエリアーナが錫杖を手渡し――
「貴方が『鱗冠尊者(神院トップ)』ならリュートは神にもなれますね、この破戒僧」
俺!?
「その時は貴方よりお先に神の第一の下僕として馳せ参じましょう、腹黒聖女」
俺をダシに不穏な会話しないで!?
「俺がお前の一番に決まっているからな」
そりゃお前が俺の一番だよダイン。
「ふっふー仲がいいねえ、ああ言えばこう言う?」
違うかな、クリスティナ……
「……名案ですね」
コンラートなにが!?
アエリアーナが続いて金色の小さな冠をフレェイの頭に乗せて……割れんばかりの拍手。
本当はこれは秘匿されてる場所で静かに行われてる神院の代替わりの儀式のひとつで、フレェイは風通しのいい組織を目指して、そういう秘密な事をオープンにしたいらしい。
……まあ、別のことは隠しまくってるけどね。
「これで、はばかることなく聖女を全面的に支援できます。皆様のお役に立てる日が来ました」
これはフレェイの本心なのかな?
アエリアーナは周りが浄化されるような笑顔だけど……そういう笑顔は逆に怖いんだ。
「今までの積もり積もった利子は返していただきます。お覚悟を」
そうだね……まずはあちこちで聖女を狙ってる輩のお掃除とかかな。
お前のせいだぞ、フレェイ。
飛んできたナイフは、コンラートが叩き落とした。
なにかの罠的な魔法はクリスティナが見つけて壊した。
おっと、俺を狙ってくるとは。
あーあ、ダインが殴り飛ばしたよ。生きてるかなあれ。
……奥から逃げ出そうとした僧侶の格好した不審者を、俺は数本の髪で拘束した。ジタバタもがくから、ドレインしようかと思ったら……
「飯は俺が食わせてやるから」
ダインが聞き分けのない子供に言うみたいに……仕方ない。ダインの精力に免じてやろう。両手足折っておくか。
テラスの内側のことだから、観客は気づいていない。
悠然とアエリアーナとフレェイがふたりで仲良し握手をしている。
すでに世界はシナリオ後、いいかげんだったストーリーはものすごく複雑になって第二フェーズに突入。
でもまあ……
俺はこの後のダインの極上ごはんに思いを馳せて、口元を拭った。
fin.
85
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました
西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて…
ほのほのです。
※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
寄るな。触るな。近付くな。
きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。
頭を打って?
病気で生死を彷徨って?
いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。
見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。
シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。
しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。
ーーーーーーーーーーー
初めての投稿です。
結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。
※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。
転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
コメント失礼します🙇
本当に本当に面白かったです
色々な要素が絡み合って、特に第七は本当に激アツでした…
こんな素晴らしい作品投稿してくださりありがとうございました
コメントありがとうございます!楽しんでいただけたようでとても嬉しいです!
第七のところは気合いを入れたので、そう言っていただけて良かったです……!
読んでくださって、本当に感謝いたします!