黄昏のエルドラード

鹿音二号

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第一章 悪魔の花嫁

求婚された少女 act4

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 ことの発端は、この国、セレンディア共和国の政府決定機関、議会の議員であるデイワット家の元に、悪魔が来たという噂が流れたことだった。
 突然現れた悪魔は、長女のマリーを一ヶ月後に生贄に差し出せという要求をしたそうだ。

「……待て、悪魔が要求した?」
「ハイ。その悪魔を見たのは、長女と、双子の弟妹だけであります」

 エルドの問いに、分かっていますとばかりに司教は答えた。

「その長女は、強い魔力をお持ちだったり?」

 ハーヴィーの問いに首を振る司教。

「デイワット家はなんと?」
「何度か議員や奥方がこちらにご相談にいらしゃいました。娘が酷く怯えているから、なんとか悪魔を退けられないかと」
「うーん、それは嘘ですよね?」

 ハーヴィーが腕を組みながら眉を寄せる。その姿を修道士がぼうっと見つめているが、無視することにするようだ。
 そう、悪魔だなんて、嘘だろう。
 悪魔は、およそ大雑把に言うなら3種類ある。
 下級の邪鬼(イヴィル)。
 召喚の悪鬼(デーモン)。
 そして――厄災の魔王(デヴィルロード)。
 イヴィルは悪しき淀み……例えば動物の死骸が長い間供養されずに残っていたりしたら、自然に湧き出てくる小さな悪魔だ。とり憑かれたり、呪われたりとすることがあるが、然るべき祈りで消滅するほど弱い。敬虔な信者が聖句を唱えるだけで祓えたりする。
 厄介なのは、召喚などで呼ばれるデーモンからだ。
 動物や人に似た形で現れるが、似ているだけで別物だった。
 基本的に神の敵である悪魔だから、どんなに魔力があっても試そうとは思わないはずだ。だが、その人間とははるかに違った強い力を手に入れようとする悪しき思考の持ち主は、いないわけではない。
 生贄や儀式でデーモンを呼び、それこそ国を手に入れたり壊したりしたいと考える輩もいる。けれど――人間を超えた力を、人間がコントロールできるわけがないのだ。
 だいたい失敗する理由でもある。失敗すれば――呪われ、そして、凄惨な死が待っている。
 このデーモン、力は強いがまともな意思はなく、召喚されれば術者はだいたい殺され喰われ、デーモンは暴れるだけ暴れる。意思疎通など不可能だ。
 そして、デヴィルロード。
 これは、存在そのものが、人知を超えた災害だ。
 現れれば世界が危機に瀕するほど。
 過去に現れた13体の魔王は、どれも大量の命と穢された聖遺物の呪いによってだった。
 追い払えたのは、すべては神に匹敵する力を持つものが、まるで魔王と対になるかのように存在していたからだった。
 犠牲など無意味、圧倒的力ですべてを滅していく魔王には、知能があり、人語も解した。
 つまり。

「生贄を自ら要求するような『魔王』なんて現れてたら、今ごろこの国なんてなくなってますよ」

 ドラクルがあっさりと言ってしまえば、司教は苦笑した。

「ええ、仰るとおりです。ですので、しばらくは取り合わずにいたのですが……」
「事情が変わった、と」
「はい」

 司教は両手を組み、皆で着席しているテーブルの上に置く。

「……そもそも、悪魔の噂を『流した』理由は、長女マリーの輿入れの話があったからだと思います。14歳と少し幼い気もしますが、よくあることです」
「よくあること?」

 エルドが聞き返すと、司教ははっとしたようだ。

「急ぎすぎましたね。この共和国の成り立ちはご存知で?」
「ええと、10年前に革命が起こり、王国から今の共和制になったと」

 ハーヴィーが答える。司教は何かを思い出したように憂い顔になった。

「ええ、あのときは本当に大変で……ああ、それでですね、王は追放、しかしまともに国を運営できる人材は少なかった。結局革命軍側に消極的にしろ賛同していた貴族が内政を担当し、そのうち議会の議員という形で収まりました」

「ああ、それでよくあること?貴族だってんなら、家の都合で婚姻は結ばれる」

 ドラクルの少し呆れたような言葉。
 件のデイワット家は、元は貴族だったのだ。

「そうでございます」

 司教は曖昧に笑ってから、首を振った。

「まだ、昔の習慣は抜けきらず……ですが、マリー嬢に関しては、かなり事情が違いました。
 求婚をしたのは隣国クヴェイヴ王国の公爵、かの英雄リド・ネモイラでしたので」
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