最強令嬢の秘密結社

鹿音二号

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22:帝国唯一の神殿2

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「ああ、立ち話でごめんなさいねぇ?せっかくですもの、お茶を用意してあるの、よかったら飲みながら学院のことを聞かせてもらえないかしら?」
「ええ、よろこんで」
「おまねきいただけるなら、行かせていただきますわ」

なんだか面白くなさそうにクマを抱えるアリッテルだが、数日前にオデットの様子を友人たちで見に行くという話が出ると、それはもう嬉しそうにしていた。
何故かオデットの前ではそっけない態度を取ろうとしているけれど、オデットは気にしていないどころか、自分から抱きつきに行く。
今だって、たぶん礼拝堂という場所だからか、必死に我慢しているが、アリッテルを見る目が蕩けそうになっている。

妹ができたみたいでかわいい、とはオデットの言葉だけれど――ミズリィも、ミルリィを見る目はあんなになっているのだろうか?

「そういえば、家に誰かを呼ぶのは初めてだわぁ」

オデットは機嫌が良さそうに、奥へと案内してくれる。
アリッテルは不思議そうにミズリィを見上げた。

「そうなの?貴方達は?」
「わたくしもオデットの家は初めてですわ。あまり――お伺いできなかったものですから」

国教と違う宗教の娘。
それを快く思わない人間は、前世にもたくさんいた。
何より、皇太子となったテリッツには、あまり関わらないようにと直接言われたこともある。
その時は素直に受け止め、けれどオデットをミズリィの友人として認めてもらうように言ったのだ。
――今になって思えば、テリッツの言葉は本当に、オデットの家の事情からだろうか。

テリッツが、何を考えていたのか、今は本当に分からなくなってしまった。

最近は、いけないと思いつつ、テリッツとのお茶会も回数が少なくなっていっている。
学院でも、学年は一つ違いであるし、そこまで顔を合わせることにならないが、さらに避けるように動いてしまう。

噂をよく教えてくれるイワンには、皇子とペトーキオ公女の不仲説があることを教えられている。彼も不安そうであったし、どうにかしなければ、とミズリィも思っている。

けれど、どうしても――

もうひとつ、これはスミレにしか言っていないことだ。
テリッツから、手紙をもらうことが多くなった。
以前より、だけれども。
だいたいはお茶会の誘いや、ミズリィがそれを断ったときに送った詫び状の返信で、以前よりもぐっと言葉の数が多くなった、気がするのだ。
前は、いつも同じような、よくある言葉と文章だったのに。

今は行き来する手紙の回数も多く、ミズリィを気遣う言葉が添えてあったり、次のお茶会の予定を事前に聞いてくることもあった。

(スミレは、慎重に、あまり喜ばないようにと言っていたけれども)

それが一番だと思う。
けれど、どうしても、心が動いてしまう。
嬉しいのかもわからない――悲しいのかも。少しだけ、苦しくなっている。
どうしてなのだろう。

「……メリーやイワンはお元気?」

物思いに沈んでいて、オデットに話しかけられてはっと我に返った。

「え、ええ……変わりなく。そうだわ、いつごろにメリーたちはオデットにお会いできるかしら」
「そうね――一週間後はいかがかしら?」

あまり大勢で押しかけてはいけないと、数回に分けて訪問することに決めていた。

休学し、その原因となった事件のほとぼりが冷めるまでしばらく社交界に出ないオデットに、これ以上噂が増えるのを防ぐため。
公爵令嬢の友人だからといって、周囲が納得するわけではないのは、スミレのことで身を持って知った。だから今度はミズリィもすんなりと理解できた。

前は、そんなことも理解できなかったのだ。
だからテリッツにオデットと仲良くしないようにと釘を差されても、話半分で友人だからと返したのだ。

今も――護衛は連れているが、馬車は公爵家のエンブレムを外した、いわゆる「お忍び」だ。
そうやって、少人数でたまにオデットの様子をうかがいに来ようという作戦だった。
友人に会いに来るのは悪いことではないのに、なんだかやましいことをするようで、納得できないのだけれども……オデットのためにはこれがいいのだと、友人たちに言われたのだから。

神殿の裏手から出るとすぐに、やや質素なお屋敷があった。石造りの壁、ツタが張って、大きさも先程の礼拝堂よりやや小さい。

そちらに案内され、客間の一室に通された。
調度はやはり派手ではなく、どちらかというと流行りものより古そうなものが多いようだ。
落ち着いていて、嫌いじゃない。

「きっと、アンティークものですわ」

部屋の隅に飾られた大きな壺を見て、興奮したようにアリッテルが言った。

「うちのコレクションに似たものがありましたわ。たしか、200年前にハリトンの有名な工房が国の王様に献上したとか」
「まあ、200年?」
「本物でしたら、すごいことですわ」

アリッテルは先祖から伝わるという家宝を父からよく自慢されているらしい。イヤでも覚えますわ、と言いながら、他にも壁に掛かっている絵もじっと見ていて、こういったものに興味があるようだ。
話しながら、しばらく待っていると、

「お待たせしたわ」

着替えに行っていたオデットが戻ってきた。見慣れたドレス姿だ。
お茶が用意され、オデットは機嫌が良さそうに席についた。

「さあ、学院のことを聞かせて?アリッテルは慣れたかしら?」
「ええ、おかげさまで」

素直に、頷いたアリッテル。
スミレやメルクリニがよく彼女の面倒を見ている。最初はぎこちなかったアリッテルも慣れてきたようで、今は仲が良い友達だ。

ところが、何を思い出したのか、幼い顔をムッとしたように歪めた。

「でも、なんなんですの、あのビリビオの子息は!」
「あら、イワンがどうしたのぉ?」
「まったくもって失礼ですわ!人を見ると頭を撫でて!押さえて!もう、縮んだらどうしてくれますの!」

子供らしく癇癪を起こしたようにアリッテルが言いながら、ケーキを口に頬張る。
美味しかったようで、怒っていたのも忘れて目を丸くするのは、たしかに妹のミルリィを思い出させて、ミズリィは微笑んだ。

一瞬、オデットはカップを持ったまま、動きを止めた。
本当に一瞬で、ミズリィや他の誰も気づかなかった。

「んまぁ、イワンが、ねえ……」

オデットは、それはそれはきれいに、にっこりと笑う。
彼女がこのとき何を思っていたのか、ミズリィは数年先まで知ることはなかった。

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