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第34話 成長の実

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「おぉ~!ここが10階層かぁ~………なんか、今までと余り変わらないね?」

「確かにボスがいる階層だとは言っても、いるのは奥だからね…それまでは変わらないよ?」

「そうなんだ…たしか〈エルダートレント〉だったよね?どんな奴なの?」

「〈エルダートレント〉は〈トレント〉の大きくなった枯れ木ですね。蔦で絡めとる事が無い代わりに枝を振り回したり、飛ばしたりしてくるだけで普通の〈トレント〉と対処は変わらないです。━━ただ、本来でしたら【火魔法】があれば比較的楽に倒せるんですけど…誰も持ってないんで時間がかかるかもしれないですね。………そこの”気が利かない勇者”が【火魔法】を【スキルの匠スキルマスター】で覚えるのをサボってたせいですね」

「ぐふっ…!」


 べ、別にサボってた訳じゃないんだよ!?た、ただ…ゴーレムの製作に拘っていたら時間が無くなったというか…お金が足り無くなったというか………はい、すいません。

 ━━でもまだ改造するのを諦めたわけじゃないぞ!やっぱり細部には拘りたいし、色も付けたいんだから!

 密かにゴーレムのガン○ム完全再現を決意していたが………ユリアさんからジト目を向けられたんで、目をそらしておく。


『━━ねぇねぇ、奥の方に大きな扉みたいなのが見えるんだけど…』


 すると、ゴーレムに乗っていたアリアからそんな声が届いた。


「そこがボスがいるところだよ~。ホントはもっと近付かないと見えないんだけど………アリアがゴーレムに乗ってたおかげで早く着きそうだね!」

『そ、そう…?えへへ……ありがとう』

「おーい!2人とも出発するよ~?」

「『はーい』」


 すっかり打ち解けて仲良くなった2人を促して奥へと進む。━━道中の敵は少し数が増えた程度で、危うげなく倒すことが出来ていて……ついにボスがいるという巨大な扉の前にたどり着いた。


「これは………スゴいね、いったいどうなってるんだ?」


 扉の大きさは幅8m・高さ15m程あって、ダンジョンの奥の少し開けた何もないところに………扉だけそびえ立っていた。


「この扉の先にボスがいるんだけど、こことは別空間になってるんだよ。━━それと今は誰かが戦ってるから開いてないけど、誰もいないときは開いてるんだよ?たまに順番待ちしてる時もあるし」

「順番待ち!?そっか…そう言えばジョー達も[成長の実]を集めに良く来てるんだっけ………」


 せっかく来たのに待たされるってのはなぁ~…ソーシャルゲームでもボスや強敵と戦うのに時間制や限定のヤツがあったけど……そういうの苦手だったんだよね……行動を制限されてる感じで…色々したいことがたくさんあるんだから!自分のタイミングでさせてよ!…って思う。仕方ないけど…

 しかし、程なくして扉がひとりでに『ゴゴゴ……』と開き、中から男性ばかりの4人パーティーが出てきた。

 彼らはイリーナやユリアさんの胸に一瞬目を奪われていたが………それ以上に巨大なゴーレムの存在に興奮したようで、色々話しかけられた。━━やっぱり男だったら、興奮するよな!しかも乗り込めるんだぜ?

 色々質問されたが……固有スキルが無いと動かせないと知り、残念そうにしながら帰っていった………


「いいなぁ~…やっぱり俺もゴーレムに乗りたいなぁ~…」

「ダメです。”なんちゃって勇者”がゴーレムに乗ったら、むしろ戦力ダウンするんで”いらない子”ですね」

「ちょ、酷い………」


 …でもユリアさんの言う通りで、実は俺もアリアの【人形操者マリオネットマスター】を覚えていて乗れるんだけど………覚えてまだ日が浅いせいかアリアほど上手く動かせない上に、固有スキルを使ってる間”他の”固有スキルは使えないようで…ゴーレムに乗ってると【二重詠唱デュエルスペル】も【スキルの匠スキルマスター】も使えなくなってしまうんだ………

 ちなみに、ほとんどのスキルは全員が使えるようになってるけど………どうやら固有スキルは無理だった。


「まぁまぁ、私は乗りこなせた方が良いと思うし…ダンジョンの外で動かす練習したらどうかな?」

「う、うん…イリーナありがと…」


 うぅぅ…イリーナもダンジョンでは乗らない方がいいと思ってるんだね……ぐすっ、いいよ…自分でも乗ったら足手まといになるって分かってるから………でも絶対練習して乗りこなしてやる~!

 若干へこみつつもボスがいるという扉を潜ると、後ろで勝手に扉がしまり━━━完全に閉まったところで、空気が変わった…!
 それまでの少し弛緩した雰囲気が無くなり、代わりに前方から伝わってくる刺すようなプレッシャーに自然と緊張感が高まっていく。
 慎重に奥へと進んでいくと━━10階建てのビルに相当する巨大な枯れた大木が現れた…!

 こ、これはユリアさんに聞いてた以上だな…!

 〈トレント〉が街路樹程度の大きさしかないから…いかに〈エルダートレント〉が大きいか、その違いがよく分かるだろう。

 距離はまだ十分にあるが…逆に言えば、辿り着くまでに攻撃を掻い潜らないと倒せないという事で━━まずはアリアとユリアさんの2人が飛び出していった…!その後に続けて俺が追走する形で、少し距離を開けて走り…イリーナはその場に留まり、杖を構え魔法を発動した…!


凍てつく風フリーズ・ウインド!】


 俺たちの接近に気づいた〈エルダートレント〉が枝を振るおうとするが━━イリーナが放った冷気が枝を凍らせ、その動きを止める。


「オ"オ"オ"ォ"ォ"ーーーー!!!」


 地の底から響くような雄叫びをあげ、固まった枝を無理やり動かし氷を振りほどいた時には━━俺達は残すところ後数mのところまで距離を詰めており、それに慌てた様に〈エルダートレント〉が頭上から枝を幾重にも振り下ろしてきた!


『こんのーーーー!!!』

「はぁぁぁ…"豪掌破"!」


 アリアが大剣で襲い来る枝を切り払い、ユリアさんは"武技"を使って拳から放たれる衝撃波で吹き飛ばし〈エルダートレント〉の攻撃を凌ぐ━━━そして…2人が作ってくれた隙を俺が走り抜け、たどり着くと同時に魔法を放つ!


氷の牢獄アイス・プリズン!!!】


 発動した魔法は瞬く間に〈エルダートレント〉の大木を凍らしていき、瞬く間に枝の根元の方まで氷で覆ってしまった!


「オ”オ”オ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ーーー!!!!」


 流石に大木だけあってそれ以上は凍らせることが出来なかった━━後は時間が経てば倒せると思うが……最後の抵抗だろうか怒り狂ったように上手く動かない体を振り、無数の枝を矢のように降らせてきた…!


「うぉっ!?危ねっ!」

「【風壁ウインド・ウォール】!」

「フッ…!」


 俺はとっさに【重力魔法】で凌ぎ、イリーナも【風魔法】で…ユリアさんは………普通に拳で粉砕していた………スゲー、拳の残像が見えるんですけど…

 皆が降り注ぐ攻撃に対処する中……ただ1人、ものともしないで突き進む者がいた。ゴーレムに乗ったアリアだ…!
 鋭く飛んでくる枝は硬いゴーレムの体に傷をつける事が出来ず、アリアはやすやすと距離を詰めて大剣を振りかぶった!


『はぁーーー!!!』


 アリアの大剣は凍った〈エルダートレント〉ごと斜めに切り裂いた。


「オ"オ"ォ"ォ"ォ"………」


 ズズズ…と体がずれ始め………断末魔をあげて〈エルダートレント〉は、ズシンッ!と倒れたのだった。


「凄いじゃないかアリア!」

「うん、本当に格好良かったよ?」

「流石ですマスター。ようやく挽回しましたね」

『えへへ…皆ありがと………でもユリア、それって褒めてるの…?』

「勿論ですよ?」


 涼しい顔でアリアの追及をかわすユリアさんに、怒るアリアにそれを宥めるイリーナ………平和だなぁ~…ついさっきまでボスと戦ってたのに………まぁ、そんなに強く無かったってのもあるだろうけど…

 しばらくするとボスは溶けるように消えていき……後に残ったのは、白いリンゴくらいの果実が10個以上落ちていた。


「おぉ~!いっぱいだ!これが[成長の実]かな?」

「………康介………流石にこれは予想外だよ………」

「ん…?」


 皆を見てみるとビックリしたように固まっていた。━━おぉ!ユリアさんの驚いた顔は貴重だな!しっかり目に焼き付けとこ。


「普通、手に入るのは[頑丈な枝]がほとんどで、[成長の実]は出ても1・2個だよ?」

『さすが康介様です!』

「……全く、[成長の実]1つでも1万クルドするのに………一回で金貨1枚以上ですか…1日1回だけしか倒さなくても10日で返済出来たのですか…そうですか………」


 暗っ!?驚いたのそこですかユリアさん!?さっきの撤回します!すいませんでした!


『ユリア…それは仕方ないよ…康介様だから出来た事だし、それに………今があるのは兄さんが繋いでくれたからだよ?だから…前を向いて、兄さんに…私たちが幸せだよって教えて、安心してもらわないと…!』


 あ、アリア……そんな風に考えてたなんて…!なんていい子なんだ…!━━よし!俺が絶対幸せにしてみせるからね!お兄さんを安心させてみせるから!!


「…ふぅ…まさかマスターに慰められるとは思いませんでしたね………成長しましたね、マスター」

『な、何よ~…そんな、普通に褒めるなんて……らしくないよ!』

「はぁー………人がせっかく、今後もう無いだろうから純粋に誉めたと言うのに…」

『ちょ!?もう無いって、これからも褒めてよ!?』

「イヤです」

『ユ~リ~ア~!?』

「ま、まぁまぁ…アリアも落ち着いて、ユリアさんはからかってるだけだから…ね?」


 うーん…こういうやり取りを見てると、イリーナってしっかりしてるよね……お姉ちゃんタイプだな!見た目はまだ幼いからギャップがあるけど……

 3人の話しも一段落したところで、[成長の実]を回収してボス部屋を後にした━━外で次の人が待ってる場合があるから、休憩や傷を癒す場合は外に出てから行うのがマナーらしい………結構話し込んでいたような気はするけど………そこはツッこんじゃダメたよね…?何となくそんな感じがする…

 ところで………実は[成長の実]を拾ったときに、実はあるスキルを覚えてしまったんだけど………



《スキル【食べるとステータス最大値+1】を覚えました》



 ………ヤバくない?…というかいらなくない?何このスキル………俺人間だよ!?食べれないよ!?何でこんなスキルを覚えたの!?【スキルの匠スキルマスター】仕事しすぎだよ!?俺、人間やめさせられちゃったの!?
 ダメだ………色々…ダメだ………この事は皆には黙っていよう………というか言いたくないよ………なんだよこのスキル………

 …ちなみに[成長の実]は10個分までしか上がらないようだ………【回数制限 0/10】の効果だと思うが…そちらは覚えてないんだよなぁ~…弱体化スキルは覚えない仕様で助かるけど………はぁ~~~…

 内心の動揺と落胆を隠しつつ…皆と[成長の実]を1つずつ食べて、今日は帰る事となった。

 そして…今後について話し合った結果、しばらくはまたボスに挑んで[成長の実]を集めて…全員のステータス最大値が10増えたら次のダンジョン………[暗き森]へと進む事に決まった。




   *****




 コン、コン………


「ギルマス、失礼します」

「ん?おぉ、ヘレナか…どうした?」

「はい………実は冒険者の方からの報告で[暗き森]の魔物の数が減っているそうなんですよ…」


 ヘレナさんも、報告しに来たけれど………いまいち信じられない様子で話しを続けた。


「すでに何人もの報告が上がっており…実際に調査も依頼しましたが………確かに普段と比べると魔物に遭遇する頻度が半分ほどに減っていました………」

「むぅ………普段ならスタンピートの心配が無くなって喜びたいところだが………」

「はい…誰かが魔物をたくさん狩っているという話しは聞きませんし、魔石や素材の買い取りも行われていないとなると………」

「何かしらの異常…もしくは”何者か”が魔物を狩っている可能性があると…それも金になる魔石や素材に興味を示さない”何者か”が………これがただの戦闘狂なら問題はないが…そういう奴はもっと強いダンジョンへ行くはずだからな…」

「はい………残念ながら新しい冒険者が来たという報告はありませんでしたので、異常が起きたか…”外から魔物が入り込んだ”かしたと思われます………」

「こら、まだ確定した訳じゃないんだ。外からの魔物と断言するのは早いぞ」

「すみませんでした…それで………どうされますか?」


 ギルマスはしばらく考え込むと…ヘレナさんに[暗き森]の調査を引続きしてもらい、冒険者達には注意喚起をし…何か異変や見つけたものがあれば報告するよう指示を出した。
 ヘレナさんが退出した後、ギルマスは目を閉じ物思いにふけっていたが………キングゴブリンが現れた時のように、今回の異変も…何かよくないことが起きそうな予感がして………急ぎ領主に話しをするため、部屋を後にするのだった。
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