忘却の姫子

ねこもり唯

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第一章

青の剣士

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 昼も間近に迫り、ミルフィとルシアスはレゼナの丘に到着する。

「ね。凄く綺麗でしょう?」

 ルシアスは無言で丘の光景を眺めていた。
 その端正な横顔からは、彼が何を思うのかは分からない。
 ミルフィは特に気には止めず、荷物からスコップを取り出した。

「今日はね、少しレゼナを貰って帰ろうと思うの。ジャムと押し花にするつもりよ」

 隣のルシアスにスコップを掲げて見せる。

「そうか」

 その時。かさり、と草の擦れる音がし、「みゃあ」と、か細い鳴き声が聞こえた。
 え? と思い首を傾げて見やる。

「まあ。猫ちゃん」

 草花の陰から、一匹の黒猫が顔を覗かせていた。まだ若い雌猫だ。
 チリン、と首輪に付いた鈴が可愛らしく鳴る。

「珍しいわね。首輪付けてるし、飼い猫ちゃんかな?」

 その場にしゃがみ、おいで、と手を差し出すと、みゃあと再び鳴き、手のひらに顔を擦りつけて来る。

「人懐っこいわ。可愛い、ふふ」

 ね? とルシアスを見上げると、彼は膝を軽く折り、小さく微笑んだように見えた。

「目がオッドアイだな」
「あ、本当だわ。綺麗」

 言われて改めて覗き見ると、右が青、左が金だった。
 毛並みも艶やかな漆黒で美しい。
 背中を撫でていると、黒猫は、突如その場に倒れ込んだ。

「え!? 嘘、え!?」

 ミルフィは仰天して、黒猫の体を抱き上げた。
 腕の中でくたりとしている猫は、弱々しく息をしているが、今は瞳を閉じてしまっている。

「ルシアス……どうしよう、猫ちゃんが!」

 どうしたら良いのか分からず、ルシアスに助けを求める。ルシアスもその場に片膝を付いた時、

「お腹……すいた……」

 黒猫が、そう言葉を発した。
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