そうだ。奴隷を買おう

霖空

文字の大きさ
上 下
50 / 51

冒険(望見)3

しおりを挟む
「……いや、薬草は分からないけども。じゃあ配達は?」
「率直に言いますけど、配達して、何かいい事あります?」

 ……それは率直に言い過ぎなのでは?敬語に拘る割には、ちょいちょい、失礼な発言をする。
 いや、まあ別にいいんだが。

「そりゃまあ、地理とかは覚えられるんじゃないか?」
「それなら討伐でも良いでしょう。寧ろ、魔物の生息地が分かるので、討伐の方が良いのでは?」

 それは確かに。
 こちらが納得しているのに気がついたのか、さらに畳み掛けられる。

「しかも、報酬も此方の方が多いです。何より、主様は何もしないで依頼をクリアできますよ!勿論、報酬は全て主様に渡します」

 至れり尽くせりじゃないか。
 逆にちょっとやる事無さすぎて、嫌なんだけども。フェデルが栗鼠を狩る所を、ボーッと眺めてるだけとか、虚し過ぎでは?

 それなら、多少賃金が低くても良いから、仕事がしたい。
 初めての依頼なら尚更。何事も経験だしな。

 一度、普通に仕事した上で、フェデルに任せるなら、いいと思うんだよな。
 私自身、真面目な訳ではないから、人に任せた挙句、その報酬を搾取する事については、特に何も思わない。

 そこが問題なのではなく、こう……経験的な話だ。前の世界では、社員はおろか、アルバイトすらしたことは無い。つまり、自分でお金を稼いだ経験が皆無な訳で。

 初めて貰う賃金は、ちゃんと働いて得た物がいい。という我儘?夢?倫理観?

 あ。
 いや、初めての賃金では、無いかもしれない。そう言えば、この間の、お使いの時に、余ったお金を貰ったな……。


 なんでも、初めの方は、余った金を返していたらしい。
 そしたら、次の年から、材料費が減らされたらしい。何処の地方自治体かよ、と思うが……。

 無駄な経費を減らす為には、どこも似たような問題が起こるのかもしれない。
 結果、無駄に消費されている訳だが。いや、無駄では無いか。実際、急に物価が上がった時なんかは、大変だったらしい。
 平民のヤニックでは、お城のお偉いさんに、食費を請求するのも難しく……。その時は、いろんな人に助けて貰ったり、節約したり、提供量を少なくしたりして、何とか事なきを得たそうだが。

 それ以来、余ったお金は、物価が上がった時の為に、少し貯金してあるらしい。
 最近は、貯金もある程度溜まってきたらしいが、兵士の人数がいつもより少ない事もあり、お金は返してないんだと。代わりに、調理器具を新調したり、設備を整えたり、たまーに、ポッケナイナイしているらしい。

 個人的には、余った金なんて、全部貰っておけばいい。……と思うのだが、真面目なヤニック的には、そうもいかなかったらしい。何とか試行錯誤して、資金が足りるギリギリを責めているんだそうだ。

 まあ、曲がりなりにも、私が勇者の一員だから、と言うのも、あるかも知れないな……。一応、ここではお客様とか、救世主?みたいな扱いだろうし。無下にも出来ないのだろう。それを分かってて、私も頼んでいる節はあるが、それはさておき。


 あれを賃金換算すると、今回のは、別に楽をしても良いことになる。


 …………正直、宅配とか、草むしりなんて、かったるいと思っていたのだ。
 そして私は、責任感も真面目さも無い。誰かがやってくれると言うのなら、任せる事に躊躇は無い。



 ・



 案内されるがままにやって来たのは、森だった。
 全く迷いのない足取り。
 余りにも、ズンズン進んで行くので、聞いてみた。

「……なんだっけ。名前忘れたけど、今から討伐する予定の栗鼠」
「ラタトスクですね」
「そうそう。そいつの事、前も討伐したことあるのか?」
「ええ。基本的に害獣ですからね。放置しておくと、魔物同士の諍いを生むんですよ」
「え?魔法とかスキルとかで?」
「いえ。魔物って基本的に、似た種類じゃないと言語が通じないんですけど、ラタトスクは弱い魔物の中で唯一、全ての魔物と話せるんですよ」

 普通に物理的な話だった。いや?若しかしたら、色んな言葉が話せる、というスキル持ちなのかもしれないが。それにしたって物理的だな……。

「それを他の魔物も分かってるので、翻訳代わりとして重宝されているのですが、意図的に、悪意ある言葉で相手に伝え、魔物同士を喧嘩させるんですよね」
「……何の為に?」
「さあ?趣味なのでは?」

 なんと性格の悪い栗鼠なんだ。いや、気持ちはわからなくは無いが……。

「いや、然し、流石に何度も同じことをされたら、魔物側も気がつくんじゃないか?」
「頭が良ければ、学ぶんでしょうけど、そもそも頭のいい魔物は、そんなものに引っかかりませんので……」

 それは、中々厄介だな。然し、その趣味とヤラの所為で、人間に狩られる羽目になるのだから、その栗鼠も大概である。

「……ん?でも、冒険者になった事は無いんだよな?それ以外の人が、討伐することなんてあるのか?そういうスポーツでもあるのか?」
「……え、ええ。まあそんなところです」

 怪しいくらいに目が泳いでいる。さては嘘だな。

 なんと言うか、誤魔化し方がアレなので、恐らく大したことは無いだろう。それ以上に突っ込むと彼のダメージがデカそうなので、そっとしておいてやろう。





「ほら。居ましたよ!」

 ……お手本のような誤魔化し方である。生暖かい目で、フェデルの指した方を見ると、栗鼠だ。
 少し普通の栗鼠より大きい気がするが、それ以外は栗鼠である。可愛い。

 何匹かが、ちょこまかと木を移動し、時折、こちらを見ている。好奇心旺盛なのだろうか?
 出来ることなら、片手に乗せて撫でくりまわしたいが、まあ無理だろう。

 何時だが、リス園に行ったことがあるのだが、あの時、栗鼠が好きであろう餌を持っていたのにも関わらず、栗鼠に逃げられたからな……。
 周りの家族連れも、子供と栗鼠の癒しショットが取れずに、栗鼠を鷲掴みにしようとしていたから、私が特段、栗鼠に嫌われていた訳ではないと思う。

 まあ、動物なんてそんな物だと思っていたから、特に何も思わなかったが、ちょっとその家族連れにはドン引きした。

 飼育された栗鼠でもそうなのだ。野生の栗鼠なんぞ、触れる筈もない。
 特に、小さな動物は、捕食されやすい。警戒心が強くないと生きていけないのだ。



 ヒュン!

 風を切り裂くような音に、思わず横を見る。私が栗鼠を愛でている間に、お仕事を始めていたらしい。

 速すぎて何が何だか分からないが、どさりどさりと無惨な姿の栗鼠さん達が、地面に落ちている。

 うーん。こんなに可愛いのに、容赦ないなあ。
 まあ、風魔法を使うとなると、どうしても血は流れるか。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

超文明日本

点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。 そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。 異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...