そうだ。奴隷を買おう

霖空

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回漕された海藻2

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「確かに、昆布出汁は、我々にとって懐かしい味だ。この国に居れば、入手はほぼ不可能だろうな。
 ただ、我々がこの世界に来て、あまり月日は経ってない。それでもホームシックになる者は、まあ、居るだろうが、まだ価値は、釣り上げられる。
 昆布にも限りがあるんだ。今、売って使い切るよりも、もう少し寝かしておいた方が良い。
 直に、帰れないことに気がつき、絶望する輩も出てくる事だろう。そうしたら、前の世界が、より恋しくなるだろうな。

 特に、今引き篭ってる奴ら。あれらが今後外に出るとは思えんし、そういう奴程、故郷の味を求めるんじゃないか?
 外に出る奴もいるだろうが、その大半が姫様に協力するだろうし、魔物?退治だか何だかをして、アハシマに立ち寄る暇があるか、どうかも疑問だ。
 そして……少数だろうが、自由に動こうとする人種。彼らに関しては、故郷が懐かしくなったら、勝手にアハシマに行くだろうが、元々が協調性のない奴らだ。アハシマに永住することはあっても、態々勇者たちと、アハシマの架け橋になるとも思えん」
「なるほど……確かに」

 協調性のない、という所で、此方を穴が開きそうなくらい見つめ、何度も頷く。
 ……こいつ、私の事を舐めてるのか?まあ、協調性のない自覚はあるので、別に構わんのだが。

「だから、城内の勇者の不満が高まった時こそ、売り時と言えるだろうな」

 まあ、それまで、私がこの城に残っていれば、の話だがな。

「……余程、勇者様方とは仲が悪いのですね」

 先程とは比べ物にならない形相を披露したフェデル。全身全霊で、ドン引きを表現してくれている。人間ってここまで、感情を表現できる物なんだな。

 ただ、この調子なら、私が早急に、ここから出たいと思っている事は、バレてなさそうだ。
 暫らくはここに居ると勘違いしている事だろう。
 正確には勘違いさせた、言うべきか。


 ・

 それから数十分後。
 昆布もいい塩梅になったと思うので、ワクワクドキドキの、着火タイムである。
 コンロを使うのに、魔力を視認する為に感覚を研ぎ澄まして~やら、丹田に力を入れて~やら、体に流れる力を意識して~やら、等という面倒な手順は必要ない。
 前の世界と同じように、ツマミを捻るだけでいい。

 ボオッ。

 ついた。
 触って力を入れた瞬間、何らかの力が、コンロの方に流れた気がした。若しかしたら、これが魔力なのかもしれない。
 気の所為かもしれないが。

 弱火にするのも、同じ要領だ。火が消えないように、慎重に、火力を弱くする。

 ふむ。
 使ってみたら、思ったよりも、普通で拍子抜けだ。
 まあ、世の中そんなもんか。期待値が高くなれば、高くなるほど、そのハードルを越えるのは、大変だからな。

 沸騰する直前に、昆布を取り出し、用意してあった皿に、移す。

「あれ、昆布は取り出しちゃうんですか?」

 不思議そうな顔で、鍋を凝視している。

「沸騰させると臭みが出るからな」
「そう言えば、海に生える草でしたっけ?なるほど」

 納得はしている風だが、勿体なさそうな顔で、昆布を見ている。
 いや、食べたいなら、勝手に食べればいいんじゃないか?私は、あまり好きではないから、食べないが。
 と言うか、意外だな。
 貴族っぽい見た目をしてるし、恐らく貴族なんだと思うが、だからこそ、その見た目と今の表情が、何とも……似合わない。
 昆布が珍しい、と聞いたから、気になるのか?それとも使用人をしていると、想像している貴族とは、また少し違う価値観になるのだろうか。


 そして、調理場から、掻っ払……拝借してきた塩を、少し入れて完成だ。

 勿論、こちらも目分量という名の、適当である。今まで、計量カップを使うのが面倒で、手を抜いていたのが、まさか、こんな形で役に立つとは、誰が予想出来ただろうか。
 恐らく誰もいないだろうな……。
 異世界転移やら、転生目的で、目分量調理してる人がいたら、申し訳ないが、頭がおかしいと言わざるを得ないだろう。

 少し味見してみたが、日々の積み重ねは偉大だ。それなりな味の昆布出汁が出来上がった。
 さっきと方向性は違うが、フェデルさんが、また似合わないような表情で、鍋を睨んでらっしゃる。
 ……そんなに気になるのか。

 何も言わずに、昆布が乗っている皿に、出汁を入れ、差し出してみた。
 途端に、目をキラキラと輝かせる。

「え?これ、ホントにいいんですか?」

 いや、流石に、渡しておいて、受け取ろうとした瞬間、皿を床に叩きつける。みたいな、意味の分からない真似はしないからな?
 渡したくないのなら、初めから渡さない。

 何となく、声に出して肯定するのも癪なので、黙って皿を押し付けた。
 恐る恐る皿を受け取り、急ぎつつも綺麗な所作で、出汁と昆布を口に含んだ。整った顔と、丁寧な動作の所為で、昆布を食べる絵面が、物凄いシュールになっている。

 昆布出汁なんて、そこまで、感動する物でもないと思うんだがな。
 いや、確かに旨味成分たっぷりで、とても美味ではある。私は大好きだ。が、然し、フェデルの口に合うかと聞かれたら、何とも言えない。
 西洋人は日本人と比べて、旨味成分を感じにくい、みたいな話も聞いた事がある。今まで出された、トマト料理の数々を思い返しても、味の薄いスープ、と言う感想になりそうなんだよなぁ。どうも、ハードルが、上がり過ぎてる気がしてならない。

 キラキラとしていた表情が、時が経つにつれ、眉間に皺が寄っていくのは、見ていて面白いものがあった。

「……変わった味なんですね」

 やはり、お気に召さなかったか。こればっかりは、生まれた環境に左右されるからな……。

「でも、まさか、これを分けて頂けるとは思いませんでした……!」

 うん?
 ガッカリしたものかと思っていたが、目の輝きが元に戻っている。
 もしかして、さっきの、『他の勇者には食べさせない』発言の所為か?好物を独り占めしよう、としている、幼児みたいな?何時もは誰にも渡さないのに、今日は分けてくれたわ!懐いてくれたのね!的な?

 いや、そもそも、前提条件が違いすぎる。
 渡す人数からして、雲泥の差だからな。1人と40人を比べる方がおかしい。
 しかも、勇者達に分けたら、無くなるまで取られそうなんだよな。
 私たち、同じ故郷を持つ、仲間でしょ!協力しましょう。みたいな綺麗事を連ねられてね。
 言われた所で、全て渡す気はサラサラないが、面倒事でしかないんだよな。

 渡しても貸しにはならなそうだし、渡さなかったら、逆に恨まれそうな予感がする。

 恩を売れたとて、なあ……。
 ブーメランだが、平和な世界に住んでいた、高校生のガキが味方になったからと言って、大した事が出来るとは思えない。
 スキルやらなんやらで、戦闘力はあるかもしれないが、使う人間が馬鹿だとなんの意味もないからな。
 まあ、馬鹿は言い過ぎだが。
 特に化け物が跋扈する場所に、行く予定も無ければ、厄介な敵に狙われる予定も、追われる予定もないので、戦闘力はそこまで必要無い。
 襲われても、一緒に勇者がいる可能性も低いだろうしな。
 もし、危険な生物に、殺されそうになったら、……まあ、災害だと思って諦めるしかないだろう。
 それよりも、年齢は知らないが、現地人であるフェデルの方が、利用価値は高い。何せ、現地人なのである。
 この世界の知識、常識があるのは勿論、人脈なんかもあるかもしれない。更に、それなりに戦えそうだし、器用だから何でも出来る、と。
 出汁が好みとも思えなかったし、味見程度の分量なら、渡したうちにも入らないだろう。

 と、こんな感じで、デメリットは一切ない。思いの外好感度も上がった……気がするので、良かったんじゃないか?
 狙った訳ではなかったので、なんとも言えない気持ちになりつつも、満足そうな顔をするフェデルを眺めた。
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