そうだ。奴隷を買おう

霖空

文字の大きさ
上 下
43 / 51

調達(暢達)11

しおりを挟む
 いや、正直、そこまで熱を込めて伝えたい訳では無いのだが、前置きが長すぎて、必死に否定したいように見えるな……。自分の中では割と反射的に思っただけなんだけども。
 そもそもの話、袋を用意し、持っていけ、と言ったのはヤニックなんだよな……だから、いくら褒めても、フェデルの心には届かない、と言う。折角必死に褒めているのに、実際に褒めているのは、顔も名前も知らない、使用人の料理人……。

 滑稽すぎて笑えない。寧ろ同情の念さえ湧いてくる。とか言いつつ、盛大にざまあ、と思っているのは、さておき。

「ええ……と、ありがとうございます?袋はあるんですけど、これ、入れるの重いですよね?私が入れましょうか?」

 そこは、何食わぬ顔で、微笑んでおけば良いものを、何とも言えない表情が、出てきてしまっている。然し、あまり人を誑かすのに慣れていないなら、まあ、仕方ないか。寧ろ、普段から人を騙していない証拠にもなっているので、これが態となら、天晴と言わざるを得ないだろう。
 それを向けられた彼女は、一目惚れはする物の、状況はしっかりと理解できるらしい。

「い、いえ、大丈夫です!私が入れます!」

 別に入れると言ってくれているので、厚意に甘えて入れて貰えばいいものを。まあ、アタックしたつもりが、逆効果だったので、焦っているのかもしれない。
 だからと言って、ここで南瓜を入れた所で、フェデルの好感度が上がるとは思えないが……。
 まあ意味が無くとも、好きな人には、少なくとも嫌われたくない物なのかもしれない。

 明らかに彼女の細腕では、無理があると思うが……、本人が大丈夫と言ったからには、それ以上、止めようもないのだろう。心配そうな顔をしつつも、フェデルは彼女に袋を渡した。

 彼女は、と言うと、意外なことに力があったらしい。……少なくとも、私よりは。
 その証拠に表情を崩しながらも、片手で南瓜を持ち上げて見せた。少々不安になる動きではあるが、流石、この店で働いている……と言うべきだろうか。

 いや、もしかしたら、この世界の人間そのものが、前の世界の人間より頑丈な造りなのかもしれない。
 まあ、フェデルが心配していた時点で、この世界の人間も、前の世界の人間も、そこまで大差があるとは思えないが……。


 そんな現実逃避をしていると、すべての南瓜を入れおわったのか、彼女はこちらを見る。

「では、4000ヴァロです」

 流石の彼女でも、南瓜五個は片手で持てなかったのだろう。それでも危なげなく、持ち上げている訳だが……。

 何も言わずに、そのまま支払おうとするフェデル。その腕を掴んで、冷たい目で見てやる。
 本当は、思い切り罵倒してやりたがったが、店の前だからな……。ただ言い争うだけならまだしも、何故値切らないのか?と、ここで言う訳にもいかないだろう。
 言いたいことをはっきりと言えないのは、ストレスが凄まじいが、仕方がない。

 目線だけで真意が伝わるか、聊か不安だったが、問題はなかった。と言うか、必要以上に怯えているような気はしなくもないが、伝わらないよりは良い。普段から、目つきが悪いだの、不機嫌そうだの言われる、この顔が役に立ったわけだ。

「……あの、無理だったらいいんですけど、出来れば、値段を下げる事って……」

 言ってて、恥ずかしくなったのか、申し訳なくなったのか、もしくはその両方か。最後の方は最早音になっていなったが、それに被せる様に、救いの神?が現れる。……いや、フェデルにとっては、救いでもないのかもしれないな。

「勿論!!任せてください!!」

 満面の笑みで即答。
 それは、救いの……神と言うよりは、天使と表現した方がしっくりくるだろう。

 これだけ、キラキラした表情で見てくると言うことは、全然諦めてないし、今後、それなりにしつこくアプローチしてきそうだ。
 そう考えると、フェデルにとっては、悪魔のように見えたかもしれない。
 まあ、私の知ったことではないが。

 彼女も彼女で、そんなに、直ぐ値下げに応じていいのだろうか?
 店の主人のようには見えないし、主人が近くにいるようにも思えない。普通に考えて、主人の許可なく、商品の値段を変える従業員はいないだろう。そんな事をしたら、一発で首だ。
 まあ、主人と親戚だったら、多少は融通してもらえるかもしれないが、それでもなかなか厳しい気がする。
 もしかしたら、自腹で負担するつもりなのかもしれないな……。それなら、納得できるけども。そこまでする必要が分からないというか、そこまでして、口説きたいのは、流石にフェデルが可哀想というか……。
 いや、よく考えたらそうでも無いな。

 呆然としていたようだったフェデルも、漸く立ち直ったのか、

「じゃ、じゃあ、3980ヴァロとか……?」

 と、震え声ではあるものの、言葉を発する。

 いや、3980って……、かぼちゃ1個に換算して、5ヴァロしか値引きできてないじゃないか……。
 その値段だと寧ろ、大金値切るより恥ずかしくないか?確実に断られない線を狙ってるみたいで。
 それに、そういうチマチマしたお金を気にする方が、ケチなように思える。

 ……然し、値切り交渉の基本として、初めは驚くぐらいの安値を態と言うと聞いたな。
 そうすることで、次に言った金額が定価から、かなり値引きされた金額でも、そこまで安いように感じないのだとか。
 つまり、本当に値引きしてもらいたい分よりも低めの値段を言うのが、定石、ということだ。

 この話を踏まえると、この値引かれてるんだか、値引かれてないんだか、判断しにくい程の金額設定は、値引きし慣れてない、という観点から見たら、ケチでは無いように見えるのか……?

 ……いやいや、何にせよ、意味のわからない値引きである事実は変わらない。
 どうせ値引きしなければならないのだから、そんな中途半端な値段にしずに、ガッツリ値引いて貰えばいいものの……。
 これは、ちゃんと値段まで指示しなかった私が悪いのだろうか……。

「え?!3980ヴァロですか?!も、もっとお値引できますけど……」

 流石に口を出すべきか、と思案していたところ、店員さんの助け舟?が入る。
 まさかの売る側からの値引き提案。なんというカオスな状況。

「ええと、どれくらいがいいと思います?」
「あ、そ、そうですね……、3500ヴァロくらいなら」
「じゃあそれでお願いします」

 なんというか、どちらの心情も想像はできるものの、理解はできないような会話がなされ、フェデルは戻ってきた。

「買ってきま……たよ。南瓜」

 まるで蒸かした南瓜の如く、ホカホカした表情を浮かべるフェデル。
 いや、見てたし、そんな、満足気な表情を浮かべるような行程だったようには思えないが。
 まあ、言わぬが花と言うやつなのだろう。

「うん……お疲れ」

 そう言って生暖かい目で見守ってやることにしたのである。
 ……傍から見たら、冷たい目線だったかもしれないが。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

超文明日本

点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。 そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。 異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...