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調達(暢達)3
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「へー、でも貴族って、使用人とかに任せて、あんま買い物するイメージないなあ」
「そんな事はないよ。大切な方に何かを送る時や、自分の物を買う場合、自ら買い物に行く方は結構多いみたいだね。そうじゃなくても、従者に任せるのを嫌ってる貴族の方々も少なくないんだ」
此方が、普通に話し出したのに、合わせたのだろう。思ったよりも、自然に会話をしたものだから、少し感心した。感心した、と言うのとは少し違うのかもしれないが……。やれば出来るじゃないか。と言う気持ちに一番近いかもしれない。
「なんかそう言えば、どっかで聞いたことあんだけど、家に商人が来て、物売ってくれるって奴。あーゆーのはないの?」
「それも、普通にある。けど、余程お得意様じゃないと、なかなか来ないみたいだね。家に商人が来てる方々でも、普通にこういう所はお越しになるだろうし」
まあ、態々来て何も買ってくれなかったら、行っただけ損になるし、普通に店を出して、儲かるなら、その方が利益が出るだろう。
貴族と言っても、ピンキリだろうし、全員が全員、中世王族、みたいな生活してるわけじゃない、って事か。
「ふーん。因みに貴族ってどれくらいいいんの?」
「どれくらい……正確な数字は分からないけど、そんなに多くはないね」
それもそうか。税金支払ってもらって、その金で暮らしてるんだから、そんなに貴族がいる訳がない。階級のピラミッド、みたいなのもよく見るけど、あれでも上になるにつれて人数減ってるもんな。
「じゃあさ、この辺の店って、何売ってるんだ?」
「気になるのなら、覗いてみれば、いいんじゃないかい?」
頭をはたこうとして、届かなかったので、足に蹴りを入れる。全く本気ではないし、本気だとしても、私如きの蹴り、痛くはないだろう。
予想通り、少し困惑した顔を見せるだけだった。予想していたとは言え、少しも痛がる素振りを見せないのは、なんか悔しいが。
「ばっか。俺ら如きが、貴族様のいる店に行ける訳ねーだろ!しかも入っても、何も買えねーじゃねえか!店にとっても大迷惑」
「ま、まあ。確かに。いや、……まあいいや。今は行けないから、説明するけど、いいね?」
「おう!」
要は、今度来た時に、自分で確認する。と言う手段もあるぞ。と言いたいのだろう。別にそこまでして、知りたい訳では無く、雑談代わりとして聞いているのだから、私としては、教えられても、『ネタバレ食らったよ!この野郎!』とはならない訳だが。
寧ろそこまで、店の内容楽しみにしてるって……子供かよ。
私が子供だと言われても、否定はしないが、そう言う……何と言うか、純粋に物事を楽しむ精神性は、残念ながら持ち合わせていない。
私の言葉に安堵したのか、フェデルは話し出す。
「宝石、服……のような衣類、装身具。お茶やお菓子と言った嗜好品。それから、カフェなんかもあるね」
「マジで?カフェあんの?!」
「あるよ?あるけど、そんなに喜ぶこと……?わ、僕は家で飲めばいいんじゃないか、って思うんだけど……」
「それは違うよ!」
ズビシィッ!とフェデルに人差し指を向ける。その際に止まったからか、彼も困惑気味に停止した。
その後、何事もなかったように、歩き出す私を見て、さらに訳が分からなくなったのだろう。難しい顔はしているが、何も言わずに黙ってついてきた。何も言えなかった、が正しかったのかもしれない。
此方としては、やりたい事が出来て、満足である。
「確かに、態々高い金払って、外に出かけて迄、行く必要はあるのか?って疑問は分かる。でもやっぱ、違うんだよなー。家で過ごすのと、外で過ごすのって」
「……じゃあ、野外で珈琲でも飲めばいいんじゃ……?」
違うそうじゃない。さっき言った私の言葉を、そのまま受け取れば、その通りなのだが、そういう事を言いたかったわけではない。
「そーゆーんじゃ無くて、ほら、やっぱお金払ってんのと、払ってないのとでは、気分が違うだろ?特別感、ってーの?」
「……だったら、そのお金の分、良いお茶なり、お菓子を買った方が、良い気がしますが」
うーん。伝わらねえ。
無駄な出費は嫌いなんだろうなあ。私の金の管理がガバガバなだけかもしれないが。
「金で場所を借りてる、って言ったら伝わんのかな」
「どういうことです?」
「その言葉の通り。なんて言うか、なんかよくわかんねーけど、こう、キラキラした感じと、程よく騒がしいことによって逆に集中出来る感じ?金を払った、って事実があるから、家でなにかするよりも集中出来るし」
「……なるほど?」
必死な説得?が通じたのか、通じてないのか、とりあえず、納得するフェデル。表情的にあまり、伝わって無さそうだけども。
「因みに、カフェに行ったら何をするんだい?」
「読書」
「……読書って、お金かけてまで集中する必要ある?」
……。
「……うるせー!楽しみ方は人それぞれだろ!そんな、損得ばっか考えてたら、楽しいもんも楽しくなくなるぞ!」
お次は蹴りを膝裏辺りにかましてやったら、流石に効いたようで、しゃがんで膝裏あたりを気にしていた。
へっ。ざまあねえな。
「じゃあ、今度二人で、カフェでも行く?」
ちょっと涙目になって、膝裏を気にしながら、立ち上がるフェデル。
しかし彼に同情の余地等ないので、私の歩くスピードは変わらない。結果、我々の間には、短くない距離がひらいていた。
私はくるりと振り返ると、満面の笑みで答えてやる。
「仕方ねえなあ」
それを聞いた瞬間、顔を顰めていたフェデルは、満面の笑みを向けてきた。まだ膝、痛いだろうに……。
そして私は、今まで散々カフェを批判した恨みを忘れない。
「なんて言うと思ったか!お前にはカフェに行く権利はねえ!店員が許しても俺が許さねえからな!」
そう、言いたいことを言い切ると、すぐに前を向いてしまったから、彼の表情はよく見えなかったが、まあ落ち込んでいる事は想像に難くない。自業自得である。
暫く、付いてきている気配はなかったが、それでも気にせずに歩き続けると、タッタッタッ、と足音が聞こえた。
どうやら走って追いついてきたらしい。
まあ、そんなに早く歩いている訳でもないし、そりゃ走れば追いつけるだろうな。
「えっと……謝ったら許して貰えます?」
何故か敬語。
まあ別に、今の場面、使っててもおかしくはないから、指摘はしないけども。
「いや、別に怒ってねーし。でもあんなに反対してたのに、行きたいっていう神経がよくわかんねーよな」
「しかし……えっとその……」
口篭ってしまった。どうも、こちらの返答を待っているような気がする。しかしそれだけで察しろと言うのも無理があるんじゃないか?
フェデルは、こちらをジィーっと見ている。それから、腕を上げ、指そうとしては、下ろしたり、となかなかの挙動不審さだ。
ああ、なるほど。こちらの名前を呼びたい訳か。私は、兄ちゃんって呼べばいいや、って思ってたから、その辺考えてなかったな……。それにしたってお前なり君なり適当に三人称使えば済む話ではあるが、まあなんか知らんけど、嫌だったんだろう。
「なんでもいいぞ。適当に呼んでくれ」
小声で伝えると、フェデルの顔の皺が深くなった。もしかして、素っ頓狂な事を言ったか?と思ったが、違うらしい。手を顎の近くに持ってきた。うーんと唸り始める。この事から、どんな名前で呼ぼうか、思案しているのだろう。
いや、なんでもいいつったんだから、別にマジでなんでもいいんだが……。
「レオ」
ボソリと呟く。どうもその名前にしたらしい。何基準かは気になるところだが、まあ何でもいいと言った手前、理由を聞くのも可笑しい気がする。
「いいんじゃね」
許可をすると、水を得た魚のように話し出す。別に何でもいいと言ったんだから、なんて呼んでも怒りはしないのだが……。流石に本名だったら、キレるけども。
「レオは行きたいんだよね?」
「一人で行くからいいよ」
「一人は駄目だ。危険すぎる」
……これ傍から見たら、フェデルにーちゃん、とんでもないブラコンになってるんじゃないか?まあ、そこまで大きな声で話してないから、そもそも、他の人に聞かれることはないだろう。
だから普通に話してても、別に良いっちゃ、良いんだが、練習しておくのも大事だろうし、何処から話し方を変えるかを考えるのが、面倒くさい。
万が一、聞かれていた場合、『あれ、あの人たち何か、話し方変わってね?』とか思われたら、面倒だろう。
今のうちに、練習しておいたことで、名前の件も気付けた訳だし、結果オーライなのではなかろうか。
「なら、誰か連れてくわ」
「そ、それは誰なんだ!」
「ひみつ」
秘密と言うか、別に誰、とは具体的に決まってないから、言えないだけなんだがな。ただ、決まっていたとしても言わない。なんて言っても、反論されるのは、目に見えているからな。
「……今後、カフェの悪口は言わないから、頼む……連れってて……」
力ない口調とは裏腹に、強い力で縋りつかれる。
おい。
おい。
正直振り解きたかったが、残念ながら力では勝てない。私は、一応勇者ではあるが、我が職業、司書様は、どうも俗にいう、筋力補正と言う物が付かないらしい。それどころか、戦闘に必要そうな能力は軒並み、全滅している、と言う……。まあこれは、元来私が持っている、運動音痴も影響しているのだろうが。
他の勇者の様子を見る限り、今まで非力そうだった奴が、重そうな両手剣を持っていたので、まあ、うん。不平等さは感じざるを得ないだろう。
仕方なくとった選択肢であったが、何も言わず、仏頂面をしていたのは、結果的に、何かをするよりも、ある意味効果的だったのかもしれない。少し経つと、バッと手を外して、背を直角に折り曲げた。
最敬礼、と言う奴だ。
流石に、目の前でされて、避けるのは……良くないよなあ?別にやってもいいんだが、そう言えば、私は此奴と仲良くせな、あかんかったし。何より面倒になってきた。今は、説得しにくいしな。
「そんな事はないよ。大切な方に何かを送る時や、自分の物を買う場合、自ら買い物に行く方は結構多いみたいだね。そうじゃなくても、従者に任せるのを嫌ってる貴族の方々も少なくないんだ」
此方が、普通に話し出したのに、合わせたのだろう。思ったよりも、自然に会話をしたものだから、少し感心した。感心した、と言うのとは少し違うのかもしれないが……。やれば出来るじゃないか。と言う気持ちに一番近いかもしれない。
「なんかそう言えば、どっかで聞いたことあんだけど、家に商人が来て、物売ってくれるって奴。あーゆーのはないの?」
「それも、普通にある。けど、余程お得意様じゃないと、なかなか来ないみたいだね。家に商人が来てる方々でも、普通にこういう所はお越しになるだろうし」
まあ、態々来て何も買ってくれなかったら、行っただけ損になるし、普通に店を出して、儲かるなら、その方が利益が出るだろう。
貴族と言っても、ピンキリだろうし、全員が全員、中世王族、みたいな生活してるわけじゃない、って事か。
「ふーん。因みに貴族ってどれくらいいいんの?」
「どれくらい……正確な数字は分からないけど、そんなに多くはないね」
それもそうか。税金支払ってもらって、その金で暮らしてるんだから、そんなに貴族がいる訳がない。階級のピラミッド、みたいなのもよく見るけど、あれでも上になるにつれて人数減ってるもんな。
「じゃあさ、この辺の店って、何売ってるんだ?」
「気になるのなら、覗いてみれば、いいんじゃないかい?」
頭をはたこうとして、届かなかったので、足に蹴りを入れる。全く本気ではないし、本気だとしても、私如きの蹴り、痛くはないだろう。
予想通り、少し困惑した顔を見せるだけだった。予想していたとは言え、少しも痛がる素振りを見せないのは、なんか悔しいが。
「ばっか。俺ら如きが、貴族様のいる店に行ける訳ねーだろ!しかも入っても、何も買えねーじゃねえか!店にとっても大迷惑」
「ま、まあ。確かに。いや、……まあいいや。今は行けないから、説明するけど、いいね?」
「おう!」
要は、今度来た時に、自分で確認する。と言う手段もあるぞ。と言いたいのだろう。別にそこまでして、知りたい訳では無く、雑談代わりとして聞いているのだから、私としては、教えられても、『ネタバレ食らったよ!この野郎!』とはならない訳だが。
寧ろそこまで、店の内容楽しみにしてるって……子供かよ。
私が子供だと言われても、否定はしないが、そう言う……何と言うか、純粋に物事を楽しむ精神性は、残念ながら持ち合わせていない。
私の言葉に安堵したのか、フェデルは話し出す。
「宝石、服……のような衣類、装身具。お茶やお菓子と言った嗜好品。それから、カフェなんかもあるね」
「マジで?カフェあんの?!」
「あるよ?あるけど、そんなに喜ぶこと……?わ、僕は家で飲めばいいんじゃないか、って思うんだけど……」
「それは違うよ!」
ズビシィッ!とフェデルに人差し指を向ける。その際に止まったからか、彼も困惑気味に停止した。
その後、何事もなかったように、歩き出す私を見て、さらに訳が分からなくなったのだろう。難しい顔はしているが、何も言わずに黙ってついてきた。何も言えなかった、が正しかったのかもしれない。
此方としては、やりたい事が出来て、満足である。
「確かに、態々高い金払って、外に出かけて迄、行く必要はあるのか?って疑問は分かる。でもやっぱ、違うんだよなー。家で過ごすのと、外で過ごすのって」
「……じゃあ、野外で珈琲でも飲めばいいんじゃ……?」
違うそうじゃない。さっき言った私の言葉を、そのまま受け取れば、その通りなのだが、そういう事を言いたかったわけではない。
「そーゆーんじゃ無くて、ほら、やっぱお金払ってんのと、払ってないのとでは、気分が違うだろ?特別感、ってーの?」
「……だったら、そのお金の分、良いお茶なり、お菓子を買った方が、良い気がしますが」
うーん。伝わらねえ。
無駄な出費は嫌いなんだろうなあ。私の金の管理がガバガバなだけかもしれないが。
「金で場所を借りてる、って言ったら伝わんのかな」
「どういうことです?」
「その言葉の通り。なんて言うか、なんかよくわかんねーけど、こう、キラキラした感じと、程よく騒がしいことによって逆に集中出来る感じ?金を払った、って事実があるから、家でなにかするよりも集中出来るし」
「……なるほど?」
必死な説得?が通じたのか、通じてないのか、とりあえず、納得するフェデル。表情的にあまり、伝わって無さそうだけども。
「因みに、カフェに行ったら何をするんだい?」
「読書」
「……読書って、お金かけてまで集中する必要ある?」
……。
「……うるせー!楽しみ方は人それぞれだろ!そんな、損得ばっか考えてたら、楽しいもんも楽しくなくなるぞ!」
お次は蹴りを膝裏辺りにかましてやったら、流石に効いたようで、しゃがんで膝裏あたりを気にしていた。
へっ。ざまあねえな。
「じゃあ、今度二人で、カフェでも行く?」
ちょっと涙目になって、膝裏を気にしながら、立ち上がるフェデル。
しかし彼に同情の余地等ないので、私の歩くスピードは変わらない。結果、我々の間には、短くない距離がひらいていた。
私はくるりと振り返ると、満面の笑みで答えてやる。
「仕方ねえなあ」
それを聞いた瞬間、顔を顰めていたフェデルは、満面の笑みを向けてきた。まだ膝、痛いだろうに……。
そして私は、今まで散々カフェを批判した恨みを忘れない。
「なんて言うと思ったか!お前にはカフェに行く権利はねえ!店員が許しても俺が許さねえからな!」
そう、言いたいことを言い切ると、すぐに前を向いてしまったから、彼の表情はよく見えなかったが、まあ落ち込んでいる事は想像に難くない。自業自得である。
暫く、付いてきている気配はなかったが、それでも気にせずに歩き続けると、タッタッタッ、と足音が聞こえた。
どうやら走って追いついてきたらしい。
まあ、そんなに早く歩いている訳でもないし、そりゃ走れば追いつけるだろうな。
「えっと……謝ったら許して貰えます?」
何故か敬語。
まあ別に、今の場面、使っててもおかしくはないから、指摘はしないけども。
「いや、別に怒ってねーし。でもあんなに反対してたのに、行きたいっていう神経がよくわかんねーよな」
「しかし……えっとその……」
口篭ってしまった。どうも、こちらの返答を待っているような気がする。しかしそれだけで察しろと言うのも無理があるんじゃないか?
フェデルは、こちらをジィーっと見ている。それから、腕を上げ、指そうとしては、下ろしたり、となかなかの挙動不審さだ。
ああ、なるほど。こちらの名前を呼びたい訳か。私は、兄ちゃんって呼べばいいや、って思ってたから、その辺考えてなかったな……。それにしたってお前なり君なり適当に三人称使えば済む話ではあるが、まあなんか知らんけど、嫌だったんだろう。
「なんでもいいぞ。適当に呼んでくれ」
小声で伝えると、フェデルの顔の皺が深くなった。もしかして、素っ頓狂な事を言ったか?と思ったが、違うらしい。手を顎の近くに持ってきた。うーんと唸り始める。この事から、どんな名前で呼ぼうか、思案しているのだろう。
いや、なんでもいいつったんだから、別にマジでなんでもいいんだが……。
「レオ」
ボソリと呟く。どうもその名前にしたらしい。何基準かは気になるところだが、まあ何でもいいと言った手前、理由を聞くのも可笑しい気がする。
「いいんじゃね」
許可をすると、水を得た魚のように話し出す。別に何でもいいと言ったんだから、なんて呼んでも怒りはしないのだが……。流石に本名だったら、キレるけども。
「レオは行きたいんだよね?」
「一人で行くからいいよ」
「一人は駄目だ。危険すぎる」
……これ傍から見たら、フェデルにーちゃん、とんでもないブラコンになってるんじゃないか?まあ、そこまで大きな声で話してないから、そもそも、他の人に聞かれることはないだろう。
だから普通に話してても、別に良いっちゃ、良いんだが、練習しておくのも大事だろうし、何処から話し方を変えるかを考えるのが、面倒くさい。
万が一、聞かれていた場合、『あれ、あの人たち何か、話し方変わってね?』とか思われたら、面倒だろう。
今のうちに、練習しておいたことで、名前の件も気付けた訳だし、結果オーライなのではなかろうか。
「なら、誰か連れてくわ」
「そ、それは誰なんだ!」
「ひみつ」
秘密と言うか、別に誰、とは具体的に決まってないから、言えないだけなんだがな。ただ、決まっていたとしても言わない。なんて言っても、反論されるのは、目に見えているからな。
「……今後、カフェの悪口は言わないから、頼む……連れってて……」
力ない口調とは裏腹に、強い力で縋りつかれる。
おい。
おい。
正直振り解きたかったが、残念ながら力では勝てない。私は、一応勇者ではあるが、我が職業、司書様は、どうも俗にいう、筋力補正と言う物が付かないらしい。それどころか、戦闘に必要そうな能力は軒並み、全滅している、と言う……。まあこれは、元来私が持っている、運動音痴も影響しているのだろうが。
他の勇者の様子を見る限り、今まで非力そうだった奴が、重そうな両手剣を持っていたので、まあ、うん。不平等さは感じざるを得ないだろう。
仕方なくとった選択肢であったが、何も言わず、仏頂面をしていたのは、結果的に、何かをするよりも、ある意味効果的だったのかもしれない。少し経つと、バッと手を外して、背を直角に折り曲げた。
最敬礼、と言う奴だ。
流石に、目の前でされて、避けるのは……良くないよなあ?別にやってもいいんだが、そう言えば、私は此奴と仲良くせな、あかんかったし。何より面倒になってきた。今は、説得しにくいしな。
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