そうだ。奴隷を買おう

霖空

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邂逅(病葉)9

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 ふむ、と考え込むヤツカ。
 ここぞ、とばかりに、珈琲を飲む私。

「実際、それは不可能ではないでしょうし」
「然し、それなら、能力説明の時に、説明してくれても良かったんじゃないか?」
「まあ、好意的に考えるなら、何らかの理由で、説明できなかった……なんてのは有りがちですよね」
「何らかの理由ってなんだ?」
「そこまでは分かりませんけど、クラス内で同じ職業の方がいないのと、同じようなものでは、ないでしょうか」
「ほーん」

 納得したような、してないような声を上げる。
 まあ、気持ちは分からんでもないが、その辺の話はこれ以上考えても、何の情報も得られないし、正解も確信もない。考えるだけ無駄なんだよな。

「なんか、見た目は神っぽかったですけど、言動が中間管理職、って感じでしたし」
「いや、それは全然同意できねえんだけど」
「何かに縛られてる気がする、と言う事です」
「ああ、まあ。それなら、わからんことはない」

 伝わったようで何より。まあ、仮に、伝わってなかろうが、私から言えることは、これ以上ないのだが。

「それに、曲がりなりにも、世界の管理者名乗ってたんですから、此方が過大評価してても、過小評価だった、ってくらいじゃないと困ります」
「困るのか?」
「自分より馬鹿な奴が、自分より偉いとか腹立ちません?」
「まあ、確かに嫌ではあるが……感情と実際どうか、はまた別問題だろ」

 ……いや、正論だが、それ、あの神擬きが馬鹿って言ってんのと同じだぞ。
 宗教的に考えたら、かなり、あれな話をしてる気がする。
 ん?でも神話に出てくる神なんかは、俗っぽいって聞いたことあるな。じゃあ、案外許容範囲内なのか?
 ……と言うか、最初に神話を書いた奴はどういう気持ちで書いてたんだろうか、あれ。尊敬してる相手の嫌なところを書くとか、相当歪んでないか?

「然し、話した感じ、特に馬鹿だな、とは思わなかったので、別に頭が良いと考えても良いのかと。今回の場合、情報量が極端に少ないですから、そういう時は、別に感情論で結論を決めても良いのでは?」
「なんか元も子もないことを言い出したぞ……」
「別に、そんなに重要な話でもなく、思考遊びの一環なのでいいじゃないですか。馬鹿の話をするより、壮大な話してた方が楽しいでしょう?」
「そんな、俺が考えた最強の悪魔の実、みたいなノリで言われてもな……」
「じゃあ、話すのやめます」
「は?」

 驚くヤツカ。
 それを無視して飲むコーヒーは美味い。
 然し、こいつの驚き顔もそろそろ見飽きてきたな……。

「で、まあ、結論はすでに言ったんですけど……」
「……いや、すまん。俺が悪かった。やっぱ気になるから話してくれ」

 遮るように、ヤツカは言った。
 ……こいつ、もしかして、さっきから脊椎だけで話してないか?
 いや、まあそれでもこっちに不利益はない。寧ろ、分かりやすくて、楽だから、良いんだが……。

 態と、ヤツカに聞こえるようにため息を漏らす。
 ……効果はあったようで、彼の僅かに眉が動いた。

「あくまで可能性の話ですから、話半分に聞いてほしいのですが、この、非戦闘職業、と言われてる職業にさせた人員も意図的に選んでいる気がするんですよね」
「そりゃ、一人しかなれないって時点で、何らかの基準が合って選ばざるを得ないだろう」
「で、その基準ってのが、非戦闘職業が、非戦闘職業ではない、と気が付くかどうか、なのではないでしょうか?」
「ふむ、なくはないな」
「まあ、こういう言い方は何ですけど、実際貴方も私も気が付いてますし」

 ヤツカが何とも言えないような顔をしている。
 どうしたんだ?何か意図的に変なことを、言った覚えはないのだが……。

「でもその理論だと、中禅寺さんなんか、即刻非戦闘職行になりそうだが……?」
「ああ、あの方はストッパーなので」
「ストッパー?」
「あの、主人公っぽい人の」
「……神谷な」

 あー、はいはい。神谷ね。
 別に名前を覚えてない訳では無い。と言うか、今さっき話してたのに、覚えてないのは流石にない。
 ただ、人の名前を呼ぶのが、あまり好きではない。しかもこの状態だと、嫌でもさん付けをする羽目になる。それだけはごめんだ。

「言われてみれば確かに。確かに死にに行きそうだな」
「彼女がいないと、どうにもなりませんからね」
「あー」
「まあ、私だったら、間違いなく彼を非戦闘職にすると思いますが」
「……なんでだ?死ぬぞ?」
「いえ、多分死にはしませんよ。全体の生存率が下がるとは思いますが」
「んん?」
「ええ、つまり、全体を生存させるには、勇者が勇者である必要がある。ただ、それだと、勇者が死にそうなので、周りを優秀役職で固めた。こうかなと」

 ヤツカの顔のしわが増えた。
 折角顔が良いというのに、そんな事では、将来皺だらけになるぞ。

「ほとんど彼のことを知らない、私の勝手な想像ですが、周りが助けるので、死にはしませんよ」
「まあ、それはそうか」
「まあ、周りは死にますけど」
「うわ」
「なんなら、未来視だけ、待たせられたら最高ですね」
「えげつねえ」

 うーん。適当に言ってみたものの、本当に面白そうではある。
 一回、見てみたい。

「そんなに神谷の事嫌いなのか?」
「いえ、特には」
「ちょっと、意味わかんない……」
「可愛い子には旅をさせよ、と言うじゃないですか」
「……余計に、意味が分からんのだが」

 別に分かってもらおうとは、思ってないからな。寧ろ、分かられないように、言っている節はあるのかもしれん。

「今思いついたんですけど、戦闘職業はクラスに貢献しそうな人に、渡してるのかもしれませんね」
「……あー、」

 相槌を打つヤツカ。否定できないのが悲しい所だよな……。
 私が仮に、強い能力を持っていたとしても、たぶん誰にも言わずに、一人どこかへ旅立つのだろうな、と思うと、宝の持ち腐れ以外の何物でもない。
 いや、私目線はそんなことはないのだが……。

「と、まあいろいろ言ってみましたが、あの管理者的な人が、大ウソつきで、全部間違ってる可能性も勿論あります」
「……その場合、何が目的なんだ?」
「そんなん知りませんよ。私がそうは思えない時点で、完全に格上なので、お手上げです」
「こっわ」
「然し、曲がりなりにも、世界の管理者を名乗ってますからね。普通にあり得ると思います」
「やべえな……」
「ヤバいですけど、どうしようもないので、手のひらで踊るしかないかと。無論、警戒は、忘れてはなりませんが」

 そもそも管理者が管理者であること自体、疑おうと思えば、疑えるのだが。
 面倒くせえので、考えない。それが良い。

「まあ、なんであんなにしつこく、非戦闘職か聞いてきたのかは、分かったわ」
「ん?」
「いや、自分が関わってるなら、そりゃ必死になるよな、と」

 ……ん?ああ、そういえばそんな話してたな。
 もうそれは出てこないと思ってたわ。

「いえ、その節は申し訳ないです」
「別に謝ってほしい訳ではない。ただ分かってすっきりした、って話だ」

 納得したらしく、何度も頷く、ヤツカ。
 ……まあ、戦闘に使える能力、持ってるし、知ってるんだがな。

「…………格好長い時間話したな。未だ嘗てない長さだわ」
「奇遇ですね。私もです。そろそろお開きにします?」
「珈琲飲み終わったのか?」
「いえ?」

 ヤツカは黙ってお菓子を漁りだす。
 要は付き合ってくれる、と言う事なのだろう。律儀な奴め。

「珈琲と言えば、執事に入れてもらえばいいんじゃないか?俺なんかより、本職の方が余程美味いだろ」
「……いえ、美味しさで言ったら、同じくらいですよ」
「それは嬉しいが……そうじゃなくてだな、たとえ同じくらいでも、部屋に行きゃ、執事はずっといる。何なら、言えば、ここにだってついてきてくれるだろ?なのに、わざわざ、俺に頼み込む意味が分からん」

 若干、不審げな目で見てくる。
 いや、私に聞く前に、まず自分の胸に聞けよ。

「……面倒臭いので」
「面倒くさい?」
「私の奴は、男でイケメンでオマケに、ワンコっぽいんですよ」
「……はあ」
「おまけに口説こうとしてくるので、面倒くさいです」
「あー、まあ、嫌だわな」
「分かって貰えて何よりです。まあ、自分から好かれに行ったんですけど」
「自業自得じゃねえか」

 まあ、それは確かにそうなのだが……。そうも言ってられないんだよな。
 ていうかそれくらい気づけよ。

「仕方ないじゃないですか。執事なんて信用できませんから。まず、味方につけないと、何も始まりません」
「……逃げりゃいいじゃねえか」

 それは自己紹介か?

「どこに逃げろと」
「……ああ、そうか、お前友達いないのか」

 ……事実だが、別に口に出して言う必要もなかろう。事実だが。

「逃げるよりも、味方にして利用した方が、効率がいいので」
「……俺には無理だわ」

 知ってる。
 仮にヤツカが、そういう事を平気で出来る人間だったら、そもそも会おうと思わないんだよなあ。

「そういえば、今後はどうしますか?私は何時でもいいですけど」
「今後?この雑談タイムの時間の事か?」
「そうですそうです」
「なら、俺はこの時間がいいわ」
「分かりました。では明日からここで。あ、今日ほどは長くならないと思うので安心してください」
「いや、別に暇だからいいんだが」

 暇な奴は時間指定しないだろ。
 気を使ってるつもりか?……いや、気を遣う意味が分からんな。他のやる事よりこっちを優先させたいのか?

「私も聞きたかったので……」
「主様!!!!」

 ……あ?
 声の主を確認したら、フェデルだった。いや、確認するまでもなく、フェデルなのだが。
 彼は、きっと必死に探していたのだろう。珍しく髪が乱れていた。それでも、いや、私を見つけた喜びからなのか、なんなのかは知らんが、顔が綻んでいたから、いつもの一割増しにはイケメンに見えたかもしれない。

「えっと、見つかったらしいので、これで」
「ああ、あれがお前の執事か」

 私とフェデルを交互に見ては、頷いている。
 そんな哀れみで満ちた目で見るのは辞めてほしい。

 気合い入れも兼ねて、大きなため息を吐いた私は、カップの中身を飲み干して、それを持ったまま、フェデルの元へ行ったのた。飲み干すとはそんなになかったのだが。
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