そうだ。奴隷を買おう

霖空

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邂逅(病葉)7

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 ふむ、中々理解力が良いようで何より。
 この感じだと、私の謎知識を有効かつよ………………ん?待てよ。

 飲もうとしていたカップの、手を止める。

 これでもし、仮に、私のようなひねくれた人間が、もう一人誕生してしまったら、とんでもなく面倒なことになるのでは……?
 あれ?もしかしてこれ、自分の首絞めてる?

 ……否、
 否。

 一人くらい増えたところで、多分そんなに問題ないだろう。そもそも、別に全てを、真似される訳でも、ないだろうし。
 まあ、念のために、今から恩を売っといて、反抗できないようには、しておくが。

 取り敢えずの結論が出た私は、傾き途中だったカップの中身を、摂取する作業に戻る。

「だが、他の人は違うかもしれないぞ?無能な普通の人を取る人もいるだろう?」
「まあ、そうですね。要は、労力の問題かと。変人と言っても様々ですし、有能と言ってもピンキリです。その辺の兼ね合いが大事なのかな、と」
「どれだけ、有能でも、変人はちょっと……って奴もいるだろ」
「まあ、いるには、いるでしょうね。変人に親でも殺されたのかーってくらいのアレルギー持ちが」
「だろ?」

 ちょっと得意そうだが、あんまりその問いに意味はないんだよなあ。

「そもそも、変人って何です?」
「んなこと急に聞かれても」
「いえ、無理に答える必要はないですよ。答えるのが難しい、と分かって欲しかっただけですから」

 なぜだか、納得いってないような表情を向けてくる。
 そんな顔されても、この形式をやめる気はないぞ?

「変人、と一言で言っても、人によって線引きは違います。それに、明確な定義があるわけではありません。極端なことを言うと、この世の全人類、変人だ、と呼んでしまえるわけです。それくらい、曖昧な定義なんです」
「それはそうだな」
「ここで話を戻しますが、そんな曖昧な定義だと気が付かずに、自分の中の基準だけで、変人と言う型に押し込め、他人を否定する。その後はこちらが何を言おうとも、対話を拒否。果たしてこんな人間が有能と言えますか?」
「あー、」
「あまりにも思慮が浅いですよね。相手には私を切り捨てる権利がありますが、それは、此方にもあるんです」
「……なるほどなあ」

 噛みしめるように、呟くと、カップの中の珈琲を一気に飲み干した。
 珈琲って、そんな風に飲むものではないだろ。いや、そもそもあれは、珈琲ではないか……。



「ところで、貴方の職業って何なんですか?」
「ん?話は終わったのか?」
「え?まだ何か聞きたいことありました?」
「心理分析の仕方」

 あー。それは意図的に避けたやつ。

「それは、話しながら指摘していくことにしましょう」
「何故?」
「忘れたからです」
「忘れた……?」

 信じられないようなものを見るような目で見られた。
 こいつは私を何だと思っているのか。

「私が性格を分析するときは、語尾やニュアンスを気にしているのですが、そんな細かい事、いちいち覚えてません。ちゃんと覚えてるのは、導き出した結論くらいです」
「本当か……?」
「暗記は苦手なんです」
「うーん?」

 疑り深い。
 そんなところ、疑われても、どうしろと?覚えてないもんは、覚えてないわ。

「……公式が覚えられなくて、数学の問題が出るたびに、公式から導きだしてる人間ですが?」
「時間足りるのか?」
「見直しは三回以上が基本ですね」

 私は学んだ。この定期的に訪れる、沈黙の時こそ、珈琲を飲む時間だ、と。
 と言う事で、彼を待つ間に、カップに口を付ける。

「……逆に安心したわ。つまりお前は、暗記力と引き換えに、頭の回転の速さを手に入れた、って事か」

 ……そんなことを言われても困る。どう反応しろと。
 適切な回答を考えるのが、面倒くさくなった結果、無視することになる訳だが。

「で、話を戻しますが」
「ああ、職業の話な。俺は、執事だ」
「……執事?何故です?」
「俺が聞きたいわ」

 自覚がないのか……。尚更謎だな……。

「言ってましたよね?前の世界で最後に会った女性。職業は性格に由来しますよー、みたいなことを」
「言ってたな」
「何故執事なんですか?」
「逆に聞きたい。俺に執事要素あるか?」

 今までの会話の流れを何となく思い出してみる。
 んー?

「いえ、特にないですね。お茶を入れるのが好きだったりしません?」
「思い当たる事と言えば、部活でそれっぽい事してたなーってくらい」

 言い換えれば、その程度の物しかない、と言う事だろう。
 発想を変えるか。

「因みに他に好きだったことってあります?」
「漫画を読んだり、ゲームをしたり?あとは部活?」
「何部なんですか?」
「小説書く奴」

 そんな部活があったのか。それはちょっと気になる。
 というか。

「読まないのに書くんですか?」
「いや、俺は書かねえけど、書いてる奴のサポートをするのが好きだった」

 書かないのに、小説書く部活に入ってたのか……。しかも幽霊でもなく、ちゃんと参加してる、と。

「因みに特別ゲームが上手かったとか、漫画に執着してたとかは?」
「は、別にないな」

 成程。
 何となく分かった、かもしれない。

 質問をやめ、珈琲を飲み始めた私を見て、痺れを切らしたのか、ヤツカが身を乗り出した。

「で?分かったのか?」
「まあ、予想ですが」
「分かったのか……」

 呆れたような目で見られた。
 何故そんな目をされなくてはならんのだ。お前が聞いたから、考えてやったというのに。

「いえ、それっぽいことを思いついただけですよ。何せ情報が少ないもので」
「で?なんで俺は執事なんだ?」

 私の言い訳は、華麗にスルーされたようだ。
 期待に満ちた視線をひしひしと感じた。……そんな、期待をされても困る。大したことを、言うつもりはないんだからな。

「まず前提として、クラス内で同じ職業の人、っていないですよね?」
「さあ?自分の職業、言う奴は言うけど、言わない奴は全く言わないからな。まあ、同じ職業の奴がいた、って話は聞かねえけど」
「まあ、極論言いますが、全員、同じ職業でもいいなら、もうちょっと勇者居てもよくないですか?」
「……その発想はなかったわ」

 言いながら、ヤツカの眉に皺が寄っていく。
 ……何を想像しているのだろうか?
 確か、勇者っぽかったのは、もう一人の方のイケメンだったな。
 ……あれが増える、のは、私も嫌だが。

「勇者とまでは行かなくても、せめて全員戦闘職業にするべきでしたね」
「それはそうだな。一応来る前に、気を付けるように言われたが、そんなことを言うくらいなら、無理矢理にでも、戦う能力をくれても、良さそうではある」
「生存率も上がるでしょうしね。それをしなかった、と言う事は、出来なかったのでは?と思うのですが……」
「俺もそう思うわ」

 と、思うが、まだ理由が弱いような気がする。
 何せここに来てから、勇者……ってか、クラスメイトと一度も話してないからな……。
 そもそもこの世界に来る前から、あまり話してないことはさておき。

「どうした?」
「いえ、個人的にはもう少し、理由が欲しいな、と」
「そうか?俺は十分だと思うが……」

 まあ、適当な世間話だし、そこまで拘る必要もないのだろうが、気になるものは、気になる。追求しても、不利益になる訳では無いのだから、もう少し考えても問題ないだろう。
 流石に、話が進まなくなったら、諦めるが。

「うーん。明らかに職業じゃないだろ、みたいな職業の方がいれば、良いんですけど……」

 ダメ元で呟いてみる。

「思い当たることは有るな……」
「いるんですか?」
「ああ、二人位な」

 二人もいるのか……。
 その辺、前の世界で、最後に会ったあいつが、適当だったのか、こいつの人脈が凄いのか、あるいはその両方か。

「……となると、職業選出理由が、各個人の得意不得意、だけではなく、相対的な評価も含まれていると思うんですよね」
「どういうことだ?」
「例えば、勇者に向いている方が二人いるとしましょう。でも勇者になれるのは、一人だけ。だったら、より勇者っぽい方を勇者にしたいでしょう?」
「まあ、そうだな」
「つまり、どれだけ勇者っぽくても、それ以上に勇者っぽい人がいたら、その人は勇者になれない、と言う事です。逆にそんなに勇者っぽくなくても、条件を満たし、周りに勇者っぽい人がいなければ、勇者になれるのでは?と思うんですよね」
「成程?客観的評価、って訳か」

 ……と言いつつ、急に立ち上がるヤツカ。どうしたのか、と目で追うと、珈琲のポットを手に取った。どうやら喉が渇いたらしい。そういえばさっき飲み干してたしな……。

「で、貴方を客観的に見た感想を言いますと、普通なんですよね」
「そりゃお前から見たら、誰だって、普通になるだろう」

 ……なんだこいつ。
 何分かに一回、私の事を、変人だ、と言わないと、死ぬ呪いにでも、かかっているのか?
 別に言うのは構わんが、その言い方だと時間を食うから、語尾を「この変人が」にする等して、会話を円滑に進める努力をしてほしい。

「いえ、そうではなく、趣味らしい趣味も特になく、ダラダラと過ごしている、まあよくいる最近の子、と言った印象です」
「そういうお前は何歳なんだ」
「貴方と同い年ですが?」
「そんなことは知っている」

 なら聞くなよ。
 と言うか、言い方が回りくどい。
 まあ、私が偉そうに言えることではないが……。

「逆に聞きますが、今の職業以外に、自分に向いてる……好きな事でもいいですけど、何かありますか?」
「……」
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