そうだ。奴隷を買おう

霖空

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邂逅(病葉)1

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 ……いた。

 のかもしれない。


 私の中の、美醜基準は割と高いのだろう、と勝手に思っている。周りの輩が、やれ美少年だ、やれ美少女だと言っていることの、大半はあまり同意できない。だからと言って、私の価値基準が狂っているのか?と問われれば、それは違う……のだと思う。
 今まで暮らしてきた、経験則?というのだろうか?生活をする上で、世間との明確なズレを感じたことがない。分かりやすく言葉にするならば、世間での、美少年、美少女、だの言う評価に同意は出来ないが、まあ、分からなくはないな、とは思う。ただ、もう少し、ここが改善されればな……等と思う以上は、やはり、私の基準は厳しいのだろう。

 この評価基準が厳しい理由、だが、別に自分が美しいから~みたいな物ではない。私の容姿は……まあ、良くもないが、悪くもない。つまり普通だ。
 強いてあげるなら、友人と弟は確かに美男美女であった。……が、別にそれが大きな理由、と言う訳でもないと思う。

 要は、個人の資質だ。
 平たく言ってしまえば、良くも悪くも、他人にも自分にも厳しいのだ。私は。

 そんな私だが、そんな私が、思った。

 ああ、奴はイケメンだな。と。

 それも、変な色の髪でも目でもない。つまり、黒目黒髪なのだ。そして当然の如く、見覚えはない。
 これほどまでのイケメンを覚えてないとか、有るのだろうか……?と我が脳内を疑ってみた所、記憶の奥底に、こいつと、あともう一人、イケメンが浮かんでは消えた。多分、クラスを見渡した中で、イケメンだったのはこの二人だったのだろう。
 こいつじゃない方のイケメンは知っている。とはいえ名前は覚えてないから、それは知らないのと同義なのかもしれないが。

 矢鱈と面倒くさそうな奴だった。
 ただ、面倒くさい、と言うのは、あくまで、私目線の話であって、まあ、普通の人から見たら、良い奴なので、もしあれがフォルちゃんの想い人だとしても、逃げたりはしないだろう。つまりあれは外せる。

 だから、もしこっちがその、ヤツカとか言う奴だったら、ラッキーだ。
 ないと思うが、仮に、フォルちゃんの想い人が、あれだったら、いくらフォルちゃんの為とは言え、説得は断念してただろう。何なら、あいつだけはやめておけ、と説得していたかもしれない。

 幼気な幼女からの告白から逃げたから、碌でもない奴だろうって?いやいや、その方がよっぽど人間らしくて、いいじゃないか。

 いや、あれの事も、こっちの事も、私が何か判断できる程、知ってるわけでは無いのだが。寧ろ何も知らんのだが。

 と言うか、そもそもあれで合ってんのか?フォルちゃんの恋する乙女モード炸裂してて、実はヤツカは不細工でしたー。ってオチはなくはないぞ。
 然も、こっちは全く知らん奴だが、あっちはこちらを知っている可能性がある。
 人間違いであってみろ。別にあちらさんの気持ちは、どうでもいいのだが、単純にダサい。恥ずかしい。そういうヘマはしたくない。

 ただ、こうやって話そうか、話すまいか迷いながら、後を追いかけている姿は、とんでもなくダサい。
 さて、どうしたものか……。

 ……いや、うん。こうしてても何も始まらん。当たって砕けろ、だ。


「あのう、同じ勇者、ですよね……?」

 私の声に気が付いたのか、男はこちらを向いた。

「ん?」

 少し考えこんだ後、ぽん、と手を叩いた。

「ああ、儀保さん?」

 その仕草が、態とらしい、と思った瞬間だった。まさか、名前を呼ばれる、なんて思ってなくて、固まってしまう。
 いや、お前誰だよ!!!!
 声を大にして叫びたかった。

 そんなに目立つ人間でもない私を、パッと名前を呼べるほどに、認識しているとは……、こいつ、中々やるぞ……。

「ええと、初めまして?」

 再度気持ちを引き締め、取り敢えず笑っておく。笑っときゃなんとかなるだろう。そんな私を、一瞬だけ、真顔になり、目を細め、見たかと思うと、にやにやと軽薄そうな笑みを浮かべた。

「あれ?もしかして、俺のこと知らない感じ?いやあ、これでも目立つ方だと思うんだけどなあ。かーなし」

 悲しい、と言いつつも、にやにや顔を隠しもしない。何なんだこいつ。私をからかっているのか?御託はどうでもいいから、さっさと名前を言え。
 無表情で、こやつの顔面を殴ってやりたい衝動に駆られたが、流石にそんなことはしない。

「ええ。ごめんなさい」

 満面の笑みに、さっさと名前を言え、と言う念を込める。通じるかどうか、仮に、通じても無視される気がしたが、こめずには、いられなかった。
 どうも、相手に此方のことがバレているのに、此方が相手のことが分からない状況に我慢ならない。気持ち悪い、を取り越して、腹まで立ってくる始末だ。

「あー、えっと、俺は八束だ。八束宇宙」

 ヤツカは、私の態度が意外だったのか、妙な表情をしながら、頬を掻く。
 その態度の方が、私にとっては意外だ。

 と、い、う、か。ヤツカじゃないか。
 こいつが……ほーん。まあ、確かに見た目はイケメンだわな。一目ぼれする気持ちも、分からんでもない。腹立たしい。

「えっと、何か?」

 ただ、無言でじっと見てくる私に、何か思う事でもあったのだろう。訝し気な顔をしている。

「いえ、イケメンだなあと」
「はあ……」

 またもや、微妙そうな顔をしている。なんだ?嘘はついてないぞ?それともあれか?イケメンと言われ過ぎて、イケメンと言われるのが嫌にでもなったのか?
 私は、にっこりと笑って、自分の頬を人差し指でつついた。

「笑顔、忘れてますよ?」

 その時の表情と言ったらない。
 眉を顰め、笑顔に戻ろうとして、諦めたのか、ふう、と息を吐いた。
 一本取った、と言ったところかね?

「あんた、変わってるって言われるだろう?」
「いいえ、特には」

 すました顔で答える。まあ嘘だけど。
 然し、自分では変わっているという自覚はないから、変わっていないと言うのも、強ち嘘ではない。
 ジトーッとした目で、ぶつぶつ反論されるが、気にしないことにする。
 文句を言いたいなら、大声で言え。じゃないと私は取り合わないぞ。

「……で?何の用?まさか、俺に告白しに来た?」

 何か知らんが、気を取り直したのか、茶化すように言ってくる。
 情緒不安定か。名前すら知らなかった奴が、告白なんてする訳なかろうに。

「いえ、告白するにはまだ早いので、仲良くなろうかな、と」
「って事は、脈あり?」
「まあ、見目は良いですね」
「それじゃあ、俺の性格が悪いみたいじゃん?」
「それが分からないから、仲良くしよう、と言っているのです」

 すうっと目を細める。そんな私を見て、考え込むように、数秒。停止する。

「ま、可愛い女の子からそんなこと言われたら、断れないよね。とりあえず立ち話もなんだから、どこか移動しようか」

 表情から察するに、これ以上深く考えるのをやめた、か。
 考えたところで、どうせ正解には辿り着けないだろうし、賢明な判断だろう。まあ、私が彼の立場なら、面倒事はごめんだ、と、この場から立ち去っているだろうが。

「では図書館なんてどうでしょう?」
「図書館って……騒いでたら、怒られるんじゃないか?」

 いや、どんな大声で話すつもりなんだ。こいつは。二人で話すだけだというのに。

「大丈夫でしょう。前の世界よりは厳しくないようで、多少騒いでいても問題ないみたいですから」
「ふーん。そうなのか。じゃあ、良いけど」

 納得したのか、ずんずんと歩き出す、ヤツカ。
 ……こいつ自信満々に進んでるが、図書館の場所知ってるのか?さっきの口ぶりからして、てっきり一度も行ったことがないのだと思ってたけど。

 何歩か進んだところで、ピタリと足が止まる。少し後ろを歩いていた私も、同じくして、止まった。
 一体何事だ?

 八束はゆっくりと、此方を向く。

「ところで、図書館ってどこにあるか分かる?」

 ……阿保か。こいつ。


 ♱


「って言うか、なんか怒ってない?」
「いえ、特には」
「いや、なんか絶対怒ってるね」

 そんなこと言われても、初めの問答で答えなかったのだから、答える気はないのだと察してほしい。まあ、隠すことをしなかった私も悪いのだが。
 ただこの点に関して、直そうと言う気はあまりない。
 私の怒りの沸点が低いのは、今に始まった話ではないし、それを一々隠していたら、こっちが可笑しくなってしまう。

 今回は何にイラついたのかというと、いや、苛ついた、と言うよりも、こう、悪寒と嫌悪感。
 可愛い女の子、て。
 可愛い女の子、て。
 確かに、私は、まあ一応言っておくが、可愛くはない。可愛くはないが、可愛い系か、美人系か?と問われれば、満場一致で可愛い系なんじゃないか?と言われるほどには、大人っぽさはない。
 だから、まあ、可愛い女の子、なの、かもしれんが。

 こういうのは理屈ではないだろう。兎に角、嫌な物は嫌なのだ。
 然も、あいつのあれは、云わば挨拶のようなものだろう。今後そういう事を言われ続けるのか、と思うと、先が思いやられる。

 ……なんてことが言えれば、楽なのだが、言う訳にもいくまい。
 可愛い、と言われるのが嫌な女は、まあいるにはいるだろうが、少数派だろうし、何より女性らしくない。と言うか、そもそも、いくら嫌でも、我慢するのが、大人の女性と言う物だろう。

 だから、現状、ヤツカに苛立ちがバレている時点で、女性としては失格なのだが、まあその辺は、まだ子供だし、勘弁してほしい。それに、相手だってボロボロなのだから、お互い様だろう。

 で、これをどうやって誤魔化すか、だが。
 あ、良い事思いついた。

「ちょっと恥ずかしいことなのですが」
「……ん?」

 まさか話すと思ってなかったのだろう。間抜けそうな声を出した後、すぐににやにやとした笑みを浮かべた。

「え?何々?」

 グッと近づけられた顔を、ビンタしたい衝動に駆られたが、堪える。
 態とらしいくらいに食いついてくるな……。まあそれも演技なんだろうけど。


 ゆっくりと、目を伏せ、彼に顔を近づけ、小さな声で呟く。


「実は、私、コーヒーが好きなんです」


「……は?」

 うーん。いいねえ。
 ポカンと、呆気にとられたヤツカは、明らかに素の表情だった。
 こうしてちょくちょく、素は出るのだが、その中身については、まだ分からないなあ。
 ま、打てば響くし、話してりゃ、いつかは分かるか。別にこっちのがバレたところで、被害は特になさそうだし。
 と言うのも、何だか、似たような匂いがするんだよなあ。これはただの経験則で、何の証拠もないのだが。ただ、こういう訳の分からない勘程、よく当たる。
 個人的には、勘ってのは、その人の経験則が、無意識に導き出した、統計学なのでは?と思っているが。それはさておき。
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