そうだ。奴隷を買おう

霖空

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要請(You say!!)2

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「誰を探してるんですか?」

 尋ねると、彼女はちらちらとこちらを見たり、その先を見たりしている。要は、早く人を探しに行きたいのだろう。だからこんなところで、油を売っている場合ではない、と。
 然しそれでも断れないのは、私が勇者だと分かっているからなのか、それとも彼女の性格ゆえか……。

 何にせよ、すっぱりと断れない理由があるのは確かだ。そんな彼女の天秤が、こちら側に傾くように、彼女の顔を見る。

「もしよかったら、その、人探しっての、手伝ってもいいですよ?」
 ね?とフェデルのほうを見る。彼は空気の読める執事なので、何も言わずに頷いてくれた。

 それでも、彼女はまだ悩んでいるようで、うーんと唸っている。……そうやって悩んでいる時間のほうが、無駄な気がするんだがなあ。旗から見ていたら、そう思うけれど、悩んでいる本人にとっては、そうではないかもしれない。

 探す人員が、一人から三人になるのは、かなり大きいんじゃないか?と、私は思うが、彼女はそうは思わなかったらしい。
 どれだけそれっぽいことを言っても、彼女に納得してもらえないと、意味がないのだ。
 しかし、彼女にとっての、それっぽいことってなんだ……?

 〝私は勇者なんだから、教えろ〟と強引に迫れば、教えてくれそうではある。ただなあ……。こんなに小さな女の子を、脅迫するのはなあ……。そこまでして知りたいわけでもないし。

 だからこそ、ほかの方法を編み出したいわけだけど。
 彼女のことや、その探し人の事が分からないと、何ともいえないなあ。

 答えてもらえるか分からないけど、一応質問をしてみる。

「因みにその探し人は、いつごろから探してるんですか」
「二週間くらい前からですね」

 この問にはすんなりと答えてくれた。何か彼女なりの基準があるのだろうか……?分からない。

 と言うか、二週間も探してる、って相当なんじゃないか?
 警察なら、そろそろ捜査を打ち切ってそうだけど。それに、我々が召還された時期と同じくらい、と言うのも気になる。

「因みに、どのあたりを探してるんですか?」

 広い範囲なら、見つからなくても当然だろう。それに捜索にかこつけて、外に出られるかもしれない。なんて思いながら聞いてみる。

「この城内ですね」

 せま。いや、この城は確かに、広いけど、思ったより範囲が狭かった。
 それなら二週間もあれば、見つけられそうなものだが……、あれ、もしかしてこの子、探し人に避けられているのでは……?
 互いに探している、もしくは、ただ探し人が迷子になっているだけなら、二週間もあれば、出会えるだろう。そうじゃない、と言うことは、探し人が彼女から上手いこと逃げているとしか思えない。

 然しそのことを、素直に彼女に伝えていいものか……。流石にそれだけ探しているなら、気付いていても良さそうだけど、万が一気がついてなかったら、彼女は傷つくだろう。
 それはちょっと可哀想だ。

 いや、そもそも、探し人が城の中にいると、何故分かるんだ?
 彼女が必死に城を探している時に、探し人は優雅に町に出ている可能性だってあるだろう。もしそうなら、見つかるものも、見つからない。

「城の外は探さないんですか?」
「外に出たら分かるので、それはないと思います」

 即答された。何故分かるのか?気になるところだけど、話が脱線しそうだから、聞かないでおく。これだけ自信満々に言うのだから、きっと、信頼できる方法で判断しているのだろう。だから態々確認する必要もない。……多分。

 というか、彼女の探し人が見つかるか、見つからないかは、正直どうでもいい。それよりも、彼女がどう感じていて、どう思うか、のほうが大切なのである。
 つまり、大事なのは事実ではなく、彼女の主観だ。
 要は彼女を説得出来ればそれでいいのだが。

 ……言うか。
 確かに彼女を傷つけるのは気が進まないが、それ以外に説得方法を見つけるのが、面倒くさい。と言うか、流石に気がついてるだろ。そこそこ絞られた範囲であるのにも拘らず、長い間探しても見つからないのだから、おかしいと思わないほうが、おかしい。
 幾ら小さいとは言え、メイドをしているのだから、それぐらいの察知能力はあるだろう。あっていて欲しい。

 最早、言い訳というよりは、祈りながら、彼女に言う。

「しかし貴方、探し人に避けられてませんか?」

 彼女はぐっと言葉を詰まらせた。図星らしい。
 ……良かった。気がついていたようで。

「これだけ見つからないのは、貴方が警戒されている……ということなのでしょうか。そこで我々の出番です。我々なら、探し人に警戒されていません。つまり、単純に探す人数が増えるだけでなく、探しやすくもなるのです。どうでしょう?」

 気分は会社で新たな企画をプレゼンテーションをする会社員だ。実際そんなことをしたことは無いが、演説やら面接やらは得意である。

 最後に口角を上げて彼女を見てみれば、納得した表情をしていた。
 これは好感触だな。

 私の予測は間違っていなかったようで、彼女は数秒もしないうちに、こくり、と頷いた。

「分かりました。確かにあなたの言う通り、協力してもらった方が良さそうです」

 何かまだ不満があるのか、止むを得ず、というように、目を伏せたままだ。

 何が嫌なのだろう?彼女には不利益なことは何もない話だと思うのだが……。
 まだこちらが信頼されていない、とそういうことだろうか?まあそりゃ、さっきであったばかりだから、信頼されなくて当たり前なのだが。
 それにしてもあからさまだから、まだこの子も年相応だな……。いや、警戒しているだけ、年齢よりは遥かに優秀と言うべきだろうか?

 彼女をマジマジと見つめると、こちらを探るような目を向けてきた。

「ただ、貴方の目的を教えてほしいです」

 ん?ああ、そういえばこちらの目的を言っていなかったっけな……。目的という程の目的もないのだけれど。
 なるほど。そりゃ警戒されるわけだ。
 タダほど怖いものは無い。って言うもんな。この国でも同じような言葉があるかは知らないが。

「目的ってほどの目的でもないですよ。ただ、そうですね……、今ね、私、筋トレしてるんです」

 突然のカミングアウトに、小さなメイドは、「は、はぁ」と気の抜けた返事をした。
 その様子がなんだか可愛らしくて、つい微笑む。

「因みに鍛えたいのは腹筋なんですけど、ほら、腹筋する時って、一人じゃできないでしょう?だから貴方に持って貰いたいな、と」

 彼女は、ただでさえ大きな目を、さらに大きくした。それから、口を真一文字に結ぶ。
 数秒ほど、そのまま固まった後におずおずと、口を開く。

「……それだけですか?」
「それだけですよ」
「……」

 何か言いたげに、口を動かした後、こちらに刺すような視線を向ける。そんな顔をしたって、元が可愛すぎて怖さは欠片もない。
 怖くはないが、少し申し訳ない気持ちになってくるな……とは言え、こちらが何かを、隠している訳でもない為、どうしようもないのだが。

「足を押さえるくらい、貴方の執事に任せれば良いのでは無いでしょうか?」

 ちらりと、私からフェデルへと視線を移す。それにつられて私も、彼の方へと視線を向けた。
 彼は気まずそうな顔をしている。いや、悪いのは彼では無いのだから、そんな顔をする必要も無いだろうに。

「いや、それは私が異性に触られるのがあまり得意じゃなくてですね……」
「なるほど。それは分かります。確かに好きでもない人に触られるのは嫌ですよね!」
「そうなんですよ……!」

 少し食い気味の彼女に、これは仲を深めるチャンスだと、少し大袈裟に同意してみせる。
 フェデルが悲しそうな顔をしているが、無視だ。

「分かりました。協力させていただきます」

 小さなメイドはツインテールを耳のように揺らし、私の手を握った。その小さな手を優しく握り返す。

「交渉成立ですね。では名前を。私は儀保紗綾と言います。彼は執事のフェデルです」

 フェデルの方を手で示すと、彼は軽く礼をした。

「あっ!すいません。今まで名乗るのを忘れておりました。私はフォル・ルトゥナートと申します」

 深々ときれいなお辞儀をしてみせる。流石、王宮に出入りしている使用人なだけはある。そう思えるほどに、美しい所作だった。

「では、探し人のことを教えてください」
「それよりも、ギボ様のお手伝いをさせて貰いたいです。私の用事のほうが時間が掛かりそうですし……。その格好、鍛えている途中だったんでしょう?」

 私の話は、腹筋をしながらでも聞けるでしょうし。そういって微笑む彼女は、とても大人に思えた。
 あんなにも必死に探していたのに、態々私たちの用事を優先してくれるとは……。理で考えればそうなるのは当たり前かもしれない。けれど、こんなにも小さな女の子が、自分の心情を抑え、私たちに協力してくれるなんて、思わなかった。

 まあ、私は出来た人間ではないので、ここでこの申し出を断ったりはしない。

「分かりました」

 と、同意すると、彼女を伴って、自分の部屋へ引き返したのだった。
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