そうだ。奴隷を買おう

霖空

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調理(超利)1

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「ただいま戻りました」

 そういった執事の声に、私は顔を上げる。

 いや、ちゃんと考えようとはしてたんだよ?けれども、どうしても行き詰って、暇になったものだから、息抜きに、と本を読んでしまったが最後。これがなかなか終わるに終われなくて、ずっと読みふけってしまっていた、訳だが。

 彼の顔を見るに、私のサボリは問題なかったようだ。晴れやかな顔で、こちらを見つめていた。

「で?何を思いついたんだ?」

 私が尋ねると、フェデルはにっこりと微笑んだ。

「別の料理人に掛け合っていたんですよ」
「別の料理人?」

 ……というと、町の人。とかだろうか?それならば、確かに許可を得られるだろう。……得られるのか?確かに、依頼をする相手には、権力を使えば、許可は得られるだろうが、上……王様なんかには、勇者が町に出て、学ぶことが許されるのか……?目立った能力が無いとは言え、腐っても勇者なのだから、出来るだけ手元に置いておきたいはず……。

「はい。この城には二つのキッチンがございます。一つは、先程、主様が訪問なさった所で、主に地位の高い者……王様や貴族、勇者様の料理を担当しています。二つ目は、地位の低い使用人や、兵士なんかの料理を作るキッチンです」

 あれ、もしかして、我々勇者って、王様と同じもの食べてたのか?だとすれば、文句を言ったらそりゃ、嫌な顔されるわ。寧ろそれどころで済んでよかったかもしれない。
 いや、実際にその場面に遭遇してないから、なんとも言えないけども。私が知らないだけで、文句を言った勇者には、厳しい罰が与えられているかもしれないし。

 うん。今度からはもっと感謝の気持ちをこめて、料理を戴くことにしよう。
 私がひそかに反省していると、フェデルはコポコポと、珈琲を追加してくれている。

「それで、その使用人用の厨房にお邪魔させてもらえる、と?」
「え、ええ。その、主様に、低身分の方々の料理を作るキッチンで働け、と言うのは大変心苦しいのですが……、彼らの料理の腕は私が保証しますので……」

 貴族の彼には、引っ掛かる所があったのだろう。……いや、彼の本当の主人の影響かもしれない。彼が腕を保障する、と言うからには、きっと彼は、その二つ目の厨房で、作られた料理を食べたのだろう。そんな彼が、そこまで身分を気にしている、とは思えないから、やはり、今の彼の主人の影響のように思う。それか、前の主人か。いや、その前でもいいけど。
 とにもかくにも、彼は私が気分を害さないか、不安なようだが、平等の国日本で生まれたのは伊達じゃない。
 私はニヤリ、と笑った。

「よくやった。では早速向かうぞ」

 彼は目を見張る。
 それから、ほうっと息を吐いた。

「かしこまりました」

 私を案内すべく、進もうとした彼を止める。

「その前に着替えたい」


 ♱


 人間は学ぶ生き物である。同じ過ちは二度と繰り返さない。
 つまるところは、ドレス程ではないにしろ、あんなふりふりな格好で厨房にいけるか!と言うことだ。
 執事は残念そうな顔をしながらも、私の注文に応え、動きやすいズボンと、シャツを持ってきたのである。

 それを着た私を見ての第一声が「まるで少年ですね」だった。まあ、髪は短いし、胸はないし、そりゃ、大きめのシンプルな格好をすれば、少年にも見えるだろう。いいじゃないか。少年。お嬢様よりは舐められずに済みそうだ。


「たのもー!!」

 歩いているうちにテンションがあがってしまった私は、その場のノリだけで、大声を上げる。フェデルは予想外だったのだろう。私の声にびくり、と肩を震わせた。

「ど、どうしたんですか……!!」

 飛び込んできたのは、弱弱しそうな、と言う表現がピッタリと当てはまるような男だった。
 藍色の、少し長めの髪は、紐で括ってあり、前髪の所為で目が見えない。あちらからは見えているであろう事を考えると、僅かながら、不快な気分になる。
 目が見えないのに、何故弱弱しいと思ったかというと、全体の雰囲気からだ。ざっくりとした話になるから、説明するのは難しいが、仕草や、口調が起因する物だろう。おそらく。

 しかし、あんなに長い前髪で、料理が作れるのだろうか?不潔な気がしなくも無い。彼の容貌は料理人、と言うよりは、研究者だ。

 慌てた様子の料理人だったが、フェデルのほうを見ると、何かを察したようで、彼に恨みがましい目を向けた。

「教えを請いに来た。で、フェデル。私は誰から、料理を教えてもらえばいい?」

 フェデルのほうを見ると、彼は視線を料理人に向けた。私もつられて彼のほうを見る。すると彼は照れくさそうに、頬を掻いた。

「彼ですね」

 フェデルの言葉に、思わず二度見する。か、彼に教えてもらうのか……。まあ、腕は悪くないらしいし、見た目は、そう、大して問題にはならない……のか?
 然し、彼が偉い立場の人間には、見えない。幾ら腕がよくても、その雰囲気と性格で、権力とは、程遠いところにいそうだ。寧ろ、見習いだ、と言われれば、そうなのか、と納得してしまいそうだった。
 そんな彼をフェデルが選んだ、と言うことは、腕に期待しても良さそうだ。

「そうか、ギボ、と申します。よろしくお願いします」

 頭を下げると、料理人は慌てていった。

「僕はヤニックと言います。よろしくおねが……じゃなくて!あ、頭を上げてください」

 ちらり、と目線だけ上を向けてみると、手を忙しそうにぶんぶん振っている、ヤニックが見える。
 どんだけだよ。

 このままだと彼の手が外れかねない。それはそれで面白そうだが、これから教えを請う身としては、困る。折角、フェデルが見つけてくれた料理人だ。それを無駄にするわけにも、いかない。と顔を上げた。
 それに気づいたのか、手を止め、ほっと息を吐いている。
 どんだけだよ。

 それから、腕を体の横につけ、ピンピンに伸ばし、お手本のような気をつけを見せる。
 つい、休め。と声をかけてしまいそうになる。
 敬われるのは嫌いじゃないけど、ここまで気を使われるのもなあ。
 貴族や王様なんかは、普段からこんな扱いを受けているのか……。すごい、と思う反面、勘違いしても仕方が無いよなあ。とも思う。

「そんなに萎縮しないでください。私はあくまでも、教えられる立場として、ここにいますから」

 ヤニックは、じっと私のほうを見る。それから何故か、フェデルのほうを見て……。フェデルが彼を後押しするように頷くと、ふ、っと体の力を抜いた。

「わかりました。では、我侭かもしれませんが、ひとつお願いが……」

 なんだ?言ってみろ、と言うように、目線を向ける。その視線に何か勘違いしたのか、

「あ、いえ、も、勿論、出来れば、で良いのですが……」

 怯えた声を出す。そんなに大それた、お願いをするのか……。出会って数分の私に。
 いやまあ、別にいいんだけど。嫌なら断ればいいだけだろうし。ただ、出来れば断りたくない。

 最初のころと比べると、ヤニックの態度は軟化している。しかしそれは、言葉でそうするのはやめてくれ、と伝えたことで、もたらされた物だ。彼が私を信頼しているから、ではない。そんな関係では、長くはもたないだろう。またいつ怯えられるか、分かったもんじゃない。

 地道に信頼を重ねていけばいい話なのだが、ここでお願いを聞き、恩を売り、気さくな人、と言う印象が得られれば、万々歳なのである。だからこそ簡単なお願いでありますように……。と、願っていたら、あちらも決心がついたのか、すうっと息を吸った。

「け、敬語をやめてもらえると嬉しいです!!!」
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