そうだ。奴隷を買おう

霖空

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炊事したい(推辞、死体)1

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「そういえば、今後の予定って何かあるんですか?」

 先程、自立する、みたいなことを言ったのを、気にしているのだろう。
 良いことを聞いてくれた。この話を皮切りに、今から私がしたいこと、も彼に話せそうだ。

「冒険者になろうと思ってな」
「……は?」

 ぽかん、と口をあけている姿は、幾らイケメンとは言え、間抜けだった。こいつ、私がまともに話すようになってからは、ほとんどこの顔しかしてない気がするが……。
 そんなに可笑しなことを言っただろうか?

 転移した異世界人がすること、としてはメジャーな類の物だと思うが。
 それともこの世界では勇者が冒険者になる、ということはそんなに衝撃的なことなのだろうか?

 本で調べた結果、冒険者なる存在は、確かにこの世界に存在するらしい。だから、この世に存在しない謎の単語に驚いた、という可能性は否定できる。
 だとするならば冒険者という職業そのものに問題があるということになるが……。
 はて。

 冒険者と言う職業の詳細は分からなかったが、大まかな情報は掴んでいる。
 どうやら、受けた依頼をこなす役職らしい。その内容は、護衛、魔獣討伐、薬草採取……などなど、多岐にわたるらしい。
 冒険者ギルド……というものがあり、そこで冒険者登録、依頼受託などの、基本的な対応を行うんだとか。そのギルド、大きな町には大抵存在するから、旅人も小遣い稼ぎにも、うってつけだとか。
 冒険者登録は誰にでも可能で、その証は、身分証明書代わりにもなると聞く。

 旅をするのは、好きだ。
 どこかに勤めるくらいなら、旅をしながら、暮らしたい。しかし、旅人が稼ごうとなると、なかなか難しいのではないだろうか?信用がないからなあ。どうしても、定住している人よりも劣った賃金になってしまう。唯一、旅をしながら稼ぐ、と言う条件に当てはまりそうな、行商人でも、巡る場所は限られているだろう。
 それこそ、自由気ままに旅をできるのは、冒険者くらいしかない。そういう結論に至ったのである。

 まあ、理由はそれだけでもない。
 なんせ私は、王国側に馬鹿正直に、ことの次第を話すつもりは毛頭ない。つまり、王国に隠れて、行動するつもりである。姿かたちは、私の魔法で何とかなるだろう。しかし、身分証明……となるとなかなか難しい。そこで、冒険者だ。冒険者なら、どんな人間でも……それこそ犯罪者でも、偽名を使えば身分が保障されるのだ。これを利用しない手はないだろう。

 ……弱ったな。出てくるのはメリットばかりで、デメリットが見つからない。フェデルは何に驚いたのだろう?

「そ、そんなことをせずとも、王国の元で、魔獣退治を行えば良いのではないでしょうか?」

 そんなこと、とな。どうやら尋常じゃなく、冒険者を毛嫌いしているらしい。理由は依然、不明だが。

「それだと、自立している……とも言いがたいのは?」
「そうでしょうか?魔獣を討伐する代わりに、衣食住を保障してもらう。全うに働いている、と思いますが?」

 苦し紛れな抵抗をするも、すぐに論破されてしまう。まあ、そうだよな。然しそれでいい。これはただの、時間稼ぎに過ぎないからな。

「そうだろうか?特殊能力持ちの集まりである、勇者達の中に放り込まれて、果たして私が活躍できるのか……疑問だな」
「……え?主様も勇者ですよね?」

 きょとん、とした顔を向けるフェデル。
 この表情を見て思い立った。そういえばコイツ、王国の犬だったな。つまりこれだけ、嫌悪感を露にしたのも、私をここに繋ぎ止めたかったから、なのかも知れない。
 そう考えたほうが辻褄が合うな……。

 だとしても、問題はない。いや、問題はなくなった、と言うべきか。どうも私は自覚してないうちに、問題を解決する一手を、仕込んでいたらしい。偶然とは言え、我ながら良くやった、と自分で自分を褒めてやりたい。

「勇者ではあるが、戦闘能力はほとんどない。魔法は使えないし、武術系のスキルもない。そんな奴が、本物の勇者の中に混ざっていたら……、碌に戦闘が出来ないのは勿論、周りのレベルに、ついていけずに、死ぬかもしれない」

 一息に語ると、フェデルは痛ましげな表情で、こちらを見てきた。
 そう、これが狙いである。王国が何故勇者を囲い、監視したがるのか?それは有用な能力を持っているからに、他ならない。では有能な能力を持っていなかったら?お役ごめんである。

 ただ、今すぐ捨てられるのも困る。まだまだ、ここでやりたい事が沢山あるのだ。だから、完全な無能を演じる気はない。それらしい何かを匂わせつつ、有用か、そうではないか、判断がつかない……というような状況に持ち込みたい。なかなか難しそうだが……まあ何とかなるだろう。ならなかったら、その時だ。

「まあ、理由はそれだけでもない」
 あまりにもフェデルが、自分のことのように、落ち込む物だから、ついつい声をかけてしまう。

「では、ほかにどんな理由が?」

 目ざとく……いや、耳ざとく、か?耳ざとくも反応するフェデル。あからさまにホッとしているのが、見て取れる。
 こやつが何故そこまで、私を心配しているのかは、謎だ。先程の話の所為か……?いや、これが演技だと言う可能性も……。演技だとしたら恐ろしいな。

 ……そんなことを考えているなんて思いもしていないだろう、彼もまた、真意を探るようにこちらを見ていた。

「旅が……好きだからだな。元々一箇所に留まるのが、向いてないんだろう」
「放浪癖でもあるのでしょうか?」

 なんだか不安げな顔をされる。
 いや、別に定住しようと思えば普通に出来る。何なら前の世界でも、普通に暮らしてたくらいだし。そりゃ、三ヶ月に一回くらいは、どこかしら行ってたけど、それくらい、普通の範囲内だろう。

 しかしこのまま勘違いさせておく方が都合が良いか、と適当に頷く。これで本当は旅立ちたくて仕方がないけど、それを我慢している、みたいな演出ができる……かもしれない。

「そうですか、それは大変そうですね」
「まあ大変だろうから、今のうちに準備をしておこう、と思ってな」
「ああ、直ぐに旅に出る訳では無いのですね……良かったです……」

 ほっと息を吐いているが、こいつは私をなんだと思っているのか……。ああ、放浪癖があると思われているんだっけな。

「では、今から訓練に参加なさるのですか?」
 フェデルが指しているのは、王国側が開催しているものだろう。無論、そんなものに参加するつもりは無い。ろくに自分の能力を発揮することも、出来ないからな。

「いや……あれと混ざるのはさすがになあ……」

 そう言って私は窓の方を見やる。つられて見たフェデルの目には、大爆発が見えたことだろう。どうやら、ちょうど勇者様がぶっぱなしたらしい。あの程度の爆発、あの集団の中では日常茶飯事だ。いつ見ても爆発しているものだからもう見飽きてしまった。

「い、いえ、あちらはスキルがある方々の訓練でしょうし……」
「スキルがない方に混ざるにしても今更だしなあ……」

 転移しておおよそ二週間。
 されど二週間である。特にズブの素人なんて、二週間もあれば、相当な差を付けられてしまうだろう。
 赤ん坊の二年と老人の二年、みたいなものだ。
 そんな中にノコノコ入って行って、練習をする気は無い。

「では、私が訓練のお手伝いを致しましょうか?」

 妙案を思いついた、とでも言いたげに手を打つ。

 ……こいつが……?
 何を教えてくれると言うのだろうか?とてもじゃないが、あまり強そうには見えない。それに執事って戦えるのか?貴族上がりの執事なんて、弱そうなイメージしかないが……。

 かろうじて言うなら、魔法は使えそうだが、残念。私の方が魔法が使えない。おそらくどれだけ勉強しようとも、使えはしないのだろうな。と今なら思う。何せ、私の魔力は他に使い道があるのだからな。

 見た目に反して、とても強い、可能性が無くはないが……。

「いや、それは別に構わん」

 そもそも私は本さえ読めばいくらでもズルはできるのだから、まともに体を鍛える気は、無い。

「そうですか……」

 ものすごく残念そうな顔をながら、チラチラとこちらを見てくるが、そんな顔をしてもやらないものはやらない。

「それよりも、だ。料理がしたい」
「……は?」

 本日二度目の〝は?〟頂きました。まあ、そりゃ、そうなるわな。
 然し考えてもみてほしい。本を読めば、恐らくきっと多分、技術的なことは何とかなる……と思いたい。まあ、実験できない今は、なんともいえないのだが。

 ただ、彼からの好感度が上がるのを、何もせずに待っているのも馬鹿らしい。かと言って、何も労せずに手に入れられる可能性のある、戦闘能力を磨く、と言うのは効率が悪いだろう。
 無論、その場合でも全くの無駄になることはないと思うが。苦労した挙句、手に入れたものが、少し劣るけども、それなりの物なら、実は簡単に手に入りました。なんてことになったら……考えたくもない。

「料理だ。だから、厨房を案内してくれ」
「え、え、え、ちょ、ちょっと待ってください。何故料理なんですか?」
 立ち上がろうとする私を遮るように、慌てた声を発した。
 流石に、何の説明もせずとも、厨房へ案内してくれる……なんて都合のいいことにはならないか。

「冒険者になるには、料理くらい出来ないと駄目だろう?」

 と言い訳をしてみるも、それだけでは納得できない、とでもいいたそうな難しい顔をしている。無論こちらとしても、説明をそれだけで、終わらせるつもりはない。

「前提条件から話すが、そもそも我々は、この世界の住人とは違って、戦いとは無縁の世界に住んでいる……いや、いた。のだ。」
「ええ、その話は聞いております」
「つまりは、殺すと言う行為に抵抗がある」
「まあそりゃあ、人殺しは誰だって躊躇いますよ」

 フェデルは自分たちが、人殺しも厭わない、野蛮人だと思われている……とでも勘違いしたのか、心外そうな顔をしている。まあ、スラム街に住む悪党ならともかく、貴族だと、確かに、人殺しをすることはあれど、直接手を汚すことはないだろう。

 だから、私の言いたいことは、そういうことではない。
 私は静かに首を横に振る。
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