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対峙(退治)2
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ふむ。食いついた。
食いつき所がいまいち、よく分からんが、あちらも此方の意向を読み取って、歩み寄ってくれている……と思っていいのだろうか?
まあ丁度いい機会だ。私の呼び方を改めてもらおうかな。
「詳しくも何も、そのままの意味だ。どうも気に食わない」
「それはどちらも……ですか?」
「どっちもだな」
執事……フェデルは眉を顰めて黙りこくってしまった。
いや、今のは私が悪かったな。
とはいえ、相手に質問攻めでもされない限り、自分のことを語るのは苦手なのだ。苦手な理由もなんとなく分かっている。ただこればっかりはどうしようもない。
しかし、折角彼が歩み寄ってくれたのだ。ならばそれを無碍にするのも違うだろう。これはチャンスだ。私も精一杯がんばる……か。
「上の名前は響きが嫌いだ。濁音二つなんて汚いと思わないか?しかも二文字だ」
「え、まあ、言われてみれば、分からなくもないです。私はかっこいいと思いましたけど」
格好いい……?ダサいと思うんだけどな……。
まあこの辺の話は詳しくしても、分かり合えるか、合えないか、の二択で終わりそうだ。感じ方の問題だしな。
「下の名前はまあ、諸事情で好きではない」
「諸事情……?」
不思議そうにオウム返しをしてきたが、濁してる時点で察して欲しい。話す気がないのだ、と。
こちらの理由は、心の中で言葉にすることすらしたくない。ただぼんやりとした概念として、何となく思っているだけ、それで良いのだ。
こちらが黙っていると、さすがに察してくれたのか、それ以上追求しようとはしなかった。
「それでは、呼び方を変えた方が良いのでしょうか?」
なんとなく、と言うように呟いたフェデル。
そう、その提案を待っていたのだ!つい、その通り!と声を上げたくなるが、抑える。
飛びつくのは、よろしくない。何がよろしくないかと言うと、まず品がない。それと、まあこれはついでのようなものだが、飛びつくことによって、そんなにも名前で呼ぶのが嫌だったのか……と気にされても困る。
つまりあくまでも冷静に。あくまでも、ああ、言われてみればそうだな、と言うようなテンションで。
「それもそうだな……変えれるならその方がいい」
「しかし、なんて呼べばいいんでしょう?」
フェデルは、あごに手を添える。
考えるときの癖、だろうか?少し演技くさいが、顔立ちが整っている為、様になっている。と言う感想しか思い浮かばない。羨ましい限りだ。
「ふむ、変えろとは言ったものの、何がいいか?と聞かれるとそれはそれで困る」
思いつかないことはないのだが、自分から言うのは恥ずかしい。言わなかったら言わなかったで、主体性のない情けないやつになってしまうが、背に腹はかえられない。
それ程までに自分から口にするのが嫌だった、と言うことだ。
口にするだけならまだいい。この状況で自分から言い出すと、さも私がそう呼ばれるのを、望んでいるかのように思われそうで……。それだけは嫌だった。
「そういうことなら、私から提案しましょうか?」
気を利かせた彼は嫌な顔をするでもなく、言ってくれた。この提案はとても助かる。
きっと彼は私がこの世界に来るよりも前から執事をやっていたのだろう。私より年上……かはなんとも言えないけれども、一応私だって勇者なのだから、執事になりたての新人を専属にさせるとは思えない。
ならば、彼にも前のご主人がいて、その人をどう呼んでいるか……みたいな知識もあるはず。少なくとも私よりは。
その力を借りれるのはありがたい。
「じゃあ、お願いしようかな。とりあえず、思いついたものを適当に言ってくれ」
ブレインストーミング、と言うんだったっけ?まあ、それにしては人数は少ない……どころか、二人、いや、私がほぼほぼ意見を出さないことを考えると、一人しかいないが……、方針としては間違ってはいない……はずだ。多分。
さて、彼はどんな意見を出すのかと、期待を込め待ってみる。そして満を持して、彼が口にした言葉は……。
「では、お嬢s「却下だ」」
全部言う前に遮られたのが不服なのか、こちらを見てきたが、それだけはない。却下だ。
ブレインストーミング?そんなものは知らん。気に食わないものは、気に食わないのだ。却下して何が悪い。
「失礼ですが、理由をお聞きしても……?」
すぐさま却下されたのがよほど気に食わなかったのか、或いは結構自信があったのか、珍しく食い下がってくるな……。
「嫌だからだ」
私の端的な言葉に、またか、というように不服そうな顔を示した。
そんな顔をされても言いたくないものは言いたくないのだから仕方がない。
……しかし、まあ、折角提案してくれたのだし、無下にしすぎても良くない……か。
「というか、じゃあ聞くが、お嬢様。って感じ、するか?呼んでて違和感ないか?」
む、と紅茶を飲もうとしていたが、動きを止める。それから口も付けずに、机の上に戻した。
そして、顔を上に向ける。
「確かに……。今日話すまでは違和感はなかったですが、今日話してみて、お嬢様と言うよりは……」
ふむ、好感触だ。これで、いや!お嬢様ですよ!なんて言われたらどうしようかと。
まあ流石にないだろう、とは思ったが。世の中何があるか分からないからなあ。
「お嬢様と言うよりは女王様ですね」
「は?アホか」
そういう結論になるとは思いもしなかった。いやいや、女王様ってどこのSMプレイだよ、ってああ、違うわ。この世界には女王様が存在するのか……。いやいや、そういう問題ではない。
なぜそうなった。
……なぜそうなった。
偉そうな態度か?上から目線なところか?
心当たりはある。確かに、中学時代に、お前は女王か、と言われたことはある……。あるが……、いやあれは冗談半分だろうし……。
女王様……て。
再度文句を言ってやろうと、フェデルを見ると、固まっていた。こやつ、驚きすぎでは?
「あ、アホ……と……」
ようやく、フリーズから開放されたのか、ボソリ、と呟く。
あー、なるほど。
お偉いさん方にとっては、刺激が強すぎる言葉だったのかもしれない。
私は口が悪いので、普通に、アホやら、馬鹿やら、間抜けやら、おたんこなすやら、言ってしまう。
そんな様も、現代日本では口が悪いな、と思われる程度で、そこまでショックを受けられることは無い。
関西人のアホは挨拶と思え、と言うし。
そんな日本と比べるとここは、いや、ここは、じゃないか。この世界でも平民ならば普通に罵倒言葉も使うだろうから。
やはり、執事とはいえ、勇者に仕える者だから、と貴族の出のものを採用したのかもしれないな。
少なくとも、この反応を見ればフェデルが貴族の出なのは明らかである。
「あー、っと」
このまま放置するのもダメだろう、と口を開いたものの、何を言うべきか、分からず、言葉は彷徨う。
結果、意味の無い音だけが空虚に響いた。
「ごほん」
気持ちを切り替える意味で、態とらしく咳払いをすると、フェデルはこちらを向いた。
意図せず、急に向けられた視線に、少し、気まずくなる。
「その、悪かった、というかまあ、気にしないでくれ……これは、……そう、口癖のようなものだから」
頭を掻きながら、目をそむける。
話す度に、彼の目線から逃げるものだから、最終的には真横を向いてしまっていた。
私の癖だらけの髪の毛は、かなり流されやすい。つまり、頭を掻いた現在、かなり酷い髪型になっていることだろう。まあ、その辺はどうでも良いのだが。
問題は彼の反応、だ。
「口癖……ですか?」
信じられない、とでも言いたげな顔でこちらを見てくる。
そんな顔をされても、こちらは嘘はついていない。
「ほら、私はその、前の世界でも別に身分が高かった訳じゃないからな……そう、この世界で言うなれば平民のようなものだ」
「平民……?」
あれ、これもしかして墓穴を掘ってる?話せば話すほど状況悪化してないよね……?
もしかして、平民が勇者であることや、その平民に仕えるのは嫌だったのだろうか?
そんな考えがふと過ぎる。
「貴方が平民というのは信じられないですが……ですがまあ、言いたいことはわかりました。軽い気持ちで言った、ということです……よね?」
どうやら杞憂だったようだ。
平民……?と聞き返したのは、私が平民に見えないかららしい。それはそれで意味が分からないが、まあ、さっきの考えが当たっているよりはマシだろう。
確かに、この世界の平民と、前の世界での私の立ち位置は、厳密に言うと違う。前の世界はこの世界ほど身分に厳しくないし……いや、そもそもが身分による上下関係なんてほとんど存在しない。
そんなものを設定したら、人権の侵害やら何やらで瞬く間に抗議されるだろう。そんな時代だ。
だからこそ、この世界の彼が私を〝平民〟に見れないのは自然なことなのかもしれない。
そう結論を出した私は黙って頷く。
「因みに女王様は何故、嫌なんですか……?」
食いつき所がいまいち、よく分からんが、あちらも此方の意向を読み取って、歩み寄ってくれている……と思っていいのだろうか?
まあ丁度いい機会だ。私の呼び方を改めてもらおうかな。
「詳しくも何も、そのままの意味だ。どうも気に食わない」
「それはどちらも……ですか?」
「どっちもだな」
執事……フェデルは眉を顰めて黙りこくってしまった。
いや、今のは私が悪かったな。
とはいえ、相手に質問攻めでもされない限り、自分のことを語るのは苦手なのだ。苦手な理由もなんとなく分かっている。ただこればっかりはどうしようもない。
しかし、折角彼が歩み寄ってくれたのだ。ならばそれを無碍にするのも違うだろう。これはチャンスだ。私も精一杯がんばる……か。
「上の名前は響きが嫌いだ。濁音二つなんて汚いと思わないか?しかも二文字だ」
「え、まあ、言われてみれば、分からなくもないです。私はかっこいいと思いましたけど」
格好いい……?ダサいと思うんだけどな……。
まあこの辺の話は詳しくしても、分かり合えるか、合えないか、の二択で終わりそうだ。感じ方の問題だしな。
「下の名前はまあ、諸事情で好きではない」
「諸事情……?」
不思議そうにオウム返しをしてきたが、濁してる時点で察して欲しい。話す気がないのだ、と。
こちらの理由は、心の中で言葉にすることすらしたくない。ただぼんやりとした概念として、何となく思っているだけ、それで良いのだ。
こちらが黙っていると、さすがに察してくれたのか、それ以上追求しようとはしなかった。
「それでは、呼び方を変えた方が良いのでしょうか?」
なんとなく、と言うように呟いたフェデル。
そう、その提案を待っていたのだ!つい、その通り!と声を上げたくなるが、抑える。
飛びつくのは、よろしくない。何がよろしくないかと言うと、まず品がない。それと、まあこれはついでのようなものだが、飛びつくことによって、そんなにも名前で呼ぶのが嫌だったのか……と気にされても困る。
つまりあくまでも冷静に。あくまでも、ああ、言われてみればそうだな、と言うようなテンションで。
「それもそうだな……変えれるならその方がいい」
「しかし、なんて呼べばいいんでしょう?」
フェデルは、あごに手を添える。
考えるときの癖、だろうか?少し演技くさいが、顔立ちが整っている為、様になっている。と言う感想しか思い浮かばない。羨ましい限りだ。
「ふむ、変えろとは言ったものの、何がいいか?と聞かれるとそれはそれで困る」
思いつかないことはないのだが、自分から言うのは恥ずかしい。言わなかったら言わなかったで、主体性のない情けないやつになってしまうが、背に腹はかえられない。
それ程までに自分から口にするのが嫌だった、と言うことだ。
口にするだけならまだいい。この状況で自分から言い出すと、さも私がそう呼ばれるのを、望んでいるかのように思われそうで……。それだけは嫌だった。
「そういうことなら、私から提案しましょうか?」
気を利かせた彼は嫌な顔をするでもなく、言ってくれた。この提案はとても助かる。
きっと彼は私がこの世界に来るよりも前から執事をやっていたのだろう。私より年上……かはなんとも言えないけれども、一応私だって勇者なのだから、執事になりたての新人を専属にさせるとは思えない。
ならば、彼にも前のご主人がいて、その人をどう呼んでいるか……みたいな知識もあるはず。少なくとも私よりは。
その力を借りれるのはありがたい。
「じゃあ、お願いしようかな。とりあえず、思いついたものを適当に言ってくれ」
ブレインストーミング、と言うんだったっけ?まあ、それにしては人数は少ない……どころか、二人、いや、私がほぼほぼ意見を出さないことを考えると、一人しかいないが……、方針としては間違ってはいない……はずだ。多分。
さて、彼はどんな意見を出すのかと、期待を込め待ってみる。そして満を持して、彼が口にした言葉は……。
「では、お嬢s「却下だ」」
全部言う前に遮られたのが不服なのか、こちらを見てきたが、それだけはない。却下だ。
ブレインストーミング?そんなものは知らん。気に食わないものは、気に食わないのだ。却下して何が悪い。
「失礼ですが、理由をお聞きしても……?」
すぐさま却下されたのがよほど気に食わなかったのか、或いは結構自信があったのか、珍しく食い下がってくるな……。
「嫌だからだ」
私の端的な言葉に、またか、というように不服そうな顔を示した。
そんな顔をされても言いたくないものは言いたくないのだから仕方がない。
……しかし、まあ、折角提案してくれたのだし、無下にしすぎても良くない……か。
「というか、じゃあ聞くが、お嬢様。って感じ、するか?呼んでて違和感ないか?」
む、と紅茶を飲もうとしていたが、動きを止める。それから口も付けずに、机の上に戻した。
そして、顔を上に向ける。
「確かに……。今日話すまでは違和感はなかったですが、今日話してみて、お嬢様と言うよりは……」
ふむ、好感触だ。これで、いや!お嬢様ですよ!なんて言われたらどうしようかと。
まあ流石にないだろう、とは思ったが。世の中何があるか分からないからなあ。
「お嬢様と言うよりは女王様ですね」
「は?アホか」
そういう結論になるとは思いもしなかった。いやいや、女王様ってどこのSMプレイだよ、ってああ、違うわ。この世界には女王様が存在するのか……。いやいや、そういう問題ではない。
なぜそうなった。
……なぜそうなった。
偉そうな態度か?上から目線なところか?
心当たりはある。確かに、中学時代に、お前は女王か、と言われたことはある……。あるが……、いやあれは冗談半分だろうし……。
女王様……て。
再度文句を言ってやろうと、フェデルを見ると、固まっていた。こやつ、驚きすぎでは?
「あ、アホ……と……」
ようやく、フリーズから開放されたのか、ボソリ、と呟く。
あー、なるほど。
お偉いさん方にとっては、刺激が強すぎる言葉だったのかもしれない。
私は口が悪いので、普通に、アホやら、馬鹿やら、間抜けやら、おたんこなすやら、言ってしまう。
そんな様も、現代日本では口が悪いな、と思われる程度で、そこまでショックを受けられることは無い。
関西人のアホは挨拶と思え、と言うし。
そんな日本と比べるとここは、いや、ここは、じゃないか。この世界でも平民ならば普通に罵倒言葉も使うだろうから。
やはり、執事とはいえ、勇者に仕える者だから、と貴族の出のものを採用したのかもしれないな。
少なくとも、この反応を見ればフェデルが貴族の出なのは明らかである。
「あー、っと」
このまま放置するのもダメだろう、と口を開いたものの、何を言うべきか、分からず、言葉は彷徨う。
結果、意味の無い音だけが空虚に響いた。
「ごほん」
気持ちを切り替える意味で、態とらしく咳払いをすると、フェデルはこちらを向いた。
意図せず、急に向けられた視線に、少し、気まずくなる。
「その、悪かった、というかまあ、気にしないでくれ……これは、……そう、口癖のようなものだから」
頭を掻きながら、目をそむける。
話す度に、彼の目線から逃げるものだから、最終的には真横を向いてしまっていた。
私の癖だらけの髪の毛は、かなり流されやすい。つまり、頭を掻いた現在、かなり酷い髪型になっていることだろう。まあ、その辺はどうでも良いのだが。
問題は彼の反応、だ。
「口癖……ですか?」
信じられない、とでも言いたげな顔でこちらを見てくる。
そんな顔をされても、こちらは嘘はついていない。
「ほら、私はその、前の世界でも別に身分が高かった訳じゃないからな……そう、この世界で言うなれば平民のようなものだ」
「平民……?」
あれ、これもしかして墓穴を掘ってる?話せば話すほど状況悪化してないよね……?
もしかして、平民が勇者であることや、その平民に仕えるのは嫌だったのだろうか?
そんな考えがふと過ぎる。
「貴方が平民というのは信じられないですが……ですがまあ、言いたいことはわかりました。軽い気持ちで言った、ということです……よね?」
どうやら杞憂だったようだ。
平民……?と聞き返したのは、私が平民に見えないかららしい。それはそれで意味が分からないが、まあ、さっきの考えが当たっているよりはマシだろう。
確かに、この世界の平民と、前の世界での私の立ち位置は、厳密に言うと違う。前の世界はこの世界ほど身分に厳しくないし……いや、そもそもが身分による上下関係なんてほとんど存在しない。
そんなものを設定したら、人権の侵害やら何やらで瞬く間に抗議されるだろう。そんな時代だ。
だからこそ、この世界の彼が私を〝平民〟に見れないのは自然なことなのかもしれない。
そう結論を出した私は黙って頷く。
「因みに女王様は何故、嫌なんですか……?」
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