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神父様の右手に赤い火が点る
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神父様の右手に集まった白い輝き。
あれを見た時、言葉では言い表せない気持ちになった。真っ先に感じたのは恐怖だった。でもそれ以外にも、他に何か、なにか感じるものがあった。それが何なのか……僕にはまだわからない。
僕はその原因を探るべく、神父様に声をかけることにした。
「あの、すいません……」
「なんでしょう?」
後ろから恐る恐る話しかけると、くるり、と振り返る神父様。その勢いでいつも来ているひらひらとした黒い服がふわりと舞った。
何故、こんなにもひらひらとした服を着ているのかは分からないけれど、神父様の神秘的な雰囲気にとてもよく似合っていると思う。僕が着たらきっと孤児院のみんなに笑われてしまうだろう。
「い、いえ、あの、魔法について知りたいなって……」
真正面から向けられた視線に思わず目を逸らす。
神父様の瞳の色は僕の怪我を治すときに使った魔法みたいな綺麗な青だ。とても綺麗なんだけど、いや、綺麗だからこそ、恐れ多いというか、僕なんかが見ていてはいけない気がして、神父様から目を逸らしてしまう。
だから、目を逸らす直前、神父様がピクリ、と反応していたように見えたのは僕の気の所為かもしれない。
「うーん、私も教えられるほど、詳しくないですよ」
視線を戻した時にはいつもの笑顔に戻っていたし。
「それでもいいです!教えてください!」
でもやっぱり、神父様の様子が気になった。気の所為かもしれないけど、もし気の所為じゃなかったら?何か魔法について思うところがあるかもしれない。本当は僕に魔法を教えたくないだけなのかもしれない。ここで引いたら、今後、のらりくらりと躱され魔法について教えてもらえないかもしれない。そう思うと勝手に声が出ていた。
「うーん、然るべきところで教わった方がいいんじゃないですか?」
「僕そんなお金も人脈もないです」
自分で言っておいてなんだけど、結構傷ついた。僕は働いてもいないし、ここに来たばかりで何も知らない。知り合いもいない。神父様に迷惑をかけてばかりだ……。
「そんなに落ち込まないでください。大丈夫です」
僕の肩をぽんぽんと叩いて励ましてくれる神父様。神父様は眉毛を八の字にしてこちらを見ているけど、そんなに僕、分かりやすいかな?
「でも、魔法は危険ですよ?」
「危険だからこそ知っておいた方がいいと思います!」
やっぱり神父様、魔法を教えるのは気が乗らないみたい。何故だろう?
うーーん。分からない。今度聞いてみよう。
「うーん」
神父様も僕と同じように唸り始めた。これはあともう一息のサインだ!
「みんなの役に立つ為にも魔法を教えて欲しいんです!お願いします!」
ぺこりとお辞儀をすると、神父様は大きなため息をつく。
「仕方が無いですね……」
こうして、僕は魔法を教わることになった。
✱
「いいですか?魔力は人によって性質が違います。1つとして同じ魔力は存在しない、とも言われています。つまり、性格と同じようなものなのです。
魔力は魔力だけでは何かを行うことはできません。ほかの力に変換する必要があります。
魔法学では、変換後の力の種類を5つに分けて考えられています。火、水、土、風、雷ですね」
神父様の右手に赤い炎が点る。かなり火との距離が近いけれど熱さは感じてなさそうだ。これも魔法の力なのかな?不思議だなあ。
「今の5つの属性はさらにそれぞれ闇属性、光属性、無属性にわけられます。ここまでは分かりますか?」
神父様はこちらをちらりとみる。
「えーと、無属性の火とかって想像するのが難しいです」
光属性の火はきっと神聖な炎なんだろうな、ってことは分かる。闇属性の火は禍々しい炎?かな……。多分。
「無属性はそうですねえ……。光属性は浄化効果があり、闇属性には汚染効果があります。
例えば聖水には呪いや病を治す効果があります。逆に穢火に触れると呪われてしまいます。
そのどちらでもないのが無属性、という訳です」
神父様はぽっと次は白い炎を手に生み出す。うわ、あれは多分光属性の炎だ。やっぱりなんとなく好きになれない。
うーん。なるほど。何となくわかったかもしれない。つまり料理なんかに使う火は無属性、ってことになるのかな?
「今までの説明を聞いても、無属性の役割がよく分からない……というか、何だか種類としてなくてもいいような気がします……」
「うん、いい所に気がつきましたね」
今まで質問をする度に申し訳ない気持ちになっていた僕だけど、この言葉で申し訳ない気持ちはどこかに吹き飛んでしまった。
「実は、光属性と闇属性と無属性はそれ単体でも効果を表すことが出来ます。光と闇はまあ、分かるでしょう。無属性は、主に時間や空間に作用する属性と言われています」
「えっ、時間を操ることなんてできるんですか?!」
驚きのあまりつい声が出てしまった。だって時を操るって、過去に行ったり未来に行ったりできるってことでしょ?それは凄い!凄すぎる!!
「いえ、人間の中ではいないでしょう。空論の産物ですね」
やっぱり無理なんだ……。ちょっとガッカリ。あ、でも、別に時を操って何かがしたいわけじゃないからいっか。
「じゃあ、氷を生み出すのは無属性……?なんですか?」
僕は前、神父様が水を飲んでいた時のことを思い出す。あの時神父様は魔法で氷を生み出していたのだ。すごく便利そうだな、と思って見てたわけだけど。
「……まあ、昔はどの属性にも属さないものは全て無属性に入れてしまえ、と言う暴論も出ていたようですが、今は違います。
氷魔法なら、まず元となる水魔法。それから、火魔法を温度調節を行う魔法と見て考えると、水魔法と火魔法の複合技、ということになる、わけですが……。
それだけでは説明できない魔法も最近出てきました。例えば植物魔法。大地の養分を増加させる、という意味では土魔法に属すると考えられますが、その種子は一体何魔法になるか、と考えるとその答えは出ないわけです。なのでそもそも属性を8つだけにするのは無理があるのではないか?という説も浮上しています」
「ええと、それだと8属性だと思ってたら本当は違ったってことだから、属性は……あれれ?」
なんだかよく分からなくなってきた。
「あー、申し訳ないです。質問してもらえるのが嬉しくてつい、応用部分まで話してしまいました。まあ、基本は8属性だと思ってくれればいいですよ」
神父様は困ったような笑みを浮かべる。前、あんまり詳しくないって言ってたのに、とても魔法について詳しいような気がするのは僕の気の所為……?それともみんなこれぐらいは知ってる事なのかな?なんだか訳が分からなくなってきたので考えるのをやめる。神父様の言葉に甘えて、8属性ってことにしよう。うん。
「じゃあ神父様はどれだけの属性が使えるんですか?」
水と光属性を使っていたのは見たことがある。だから、2つ以上なのは確実だろう。あの神父様のことだ。全ての属性が使えたっておかしくない。……普通の人がどれぐらいの属性を使えるのか知らないけどね。
「ええと、6つ、ですかね?闇属性と無属性の魔法は使えません」
神父様は恥ずかしそうに、ぽりぽりと頬をかく。
無属性が使えないなのはさっき神父様も人間には使えないって言ってたし、カウントしなくていいと思う。
闇属性の魔法が使えないのもわかる気がする。神父様闇ってイメージないもんね。呪いをかける姿とか想像出来ない。神父様優しいし!
……ってことは実質全属性使えるってことになるんじゃない?凄い!さすが神父様だ!
「因みに普通の人はどれぐらいの属性が使えるんですか?」
「使えて1つ、の人が多いですね。魔力は誰にでも備わっているものなんですが、8属性の中には当てはまらない人も多いので、その人たちは属性無し、ということになります」
へぇ。……えっ。じゃあ、6属性使える神父様はなんなんだろう?僕は他の人も2属性ぐらい使えるのかと思っていたけど……。えっ?なんでこの人こんな辺鄙なところで神父なんてやってるんだろう……?
気になるけれど、直接聞く訳にもいかず、神父様をじっと見つめた。いつも通りニコニコ笑っている。うーん。何を考えているか分からないなぁ。
「では、理論の部分はこの辺にして、次は実技を行ってみましょう」
まあきっと、神父様にも神父様の事情があるんだろう。まだ分からないことだらけだけど、いつか神父様のことをもっと知ることが出来たら嬉しいな。
まずは、魔法を使えるようにならなくちゃね。……属性無しかもしれないけど。
ふと湧いた悲観的な考えを追い払うために、僕は大きな返事をした。
あれを見た時、言葉では言い表せない気持ちになった。真っ先に感じたのは恐怖だった。でもそれ以外にも、他に何か、なにか感じるものがあった。それが何なのか……僕にはまだわからない。
僕はその原因を探るべく、神父様に声をかけることにした。
「あの、すいません……」
「なんでしょう?」
後ろから恐る恐る話しかけると、くるり、と振り返る神父様。その勢いでいつも来ているひらひらとした黒い服がふわりと舞った。
何故、こんなにもひらひらとした服を着ているのかは分からないけれど、神父様の神秘的な雰囲気にとてもよく似合っていると思う。僕が着たらきっと孤児院のみんなに笑われてしまうだろう。
「い、いえ、あの、魔法について知りたいなって……」
真正面から向けられた視線に思わず目を逸らす。
神父様の瞳の色は僕の怪我を治すときに使った魔法みたいな綺麗な青だ。とても綺麗なんだけど、いや、綺麗だからこそ、恐れ多いというか、僕なんかが見ていてはいけない気がして、神父様から目を逸らしてしまう。
だから、目を逸らす直前、神父様がピクリ、と反応していたように見えたのは僕の気の所為かもしれない。
「うーん、私も教えられるほど、詳しくないですよ」
視線を戻した時にはいつもの笑顔に戻っていたし。
「それでもいいです!教えてください!」
でもやっぱり、神父様の様子が気になった。気の所為かもしれないけど、もし気の所為じゃなかったら?何か魔法について思うところがあるかもしれない。本当は僕に魔法を教えたくないだけなのかもしれない。ここで引いたら、今後、のらりくらりと躱され魔法について教えてもらえないかもしれない。そう思うと勝手に声が出ていた。
「うーん、然るべきところで教わった方がいいんじゃないですか?」
「僕そんなお金も人脈もないです」
自分で言っておいてなんだけど、結構傷ついた。僕は働いてもいないし、ここに来たばかりで何も知らない。知り合いもいない。神父様に迷惑をかけてばかりだ……。
「そんなに落ち込まないでください。大丈夫です」
僕の肩をぽんぽんと叩いて励ましてくれる神父様。神父様は眉毛を八の字にしてこちらを見ているけど、そんなに僕、分かりやすいかな?
「でも、魔法は危険ですよ?」
「危険だからこそ知っておいた方がいいと思います!」
やっぱり神父様、魔法を教えるのは気が乗らないみたい。何故だろう?
うーーん。分からない。今度聞いてみよう。
「うーん」
神父様も僕と同じように唸り始めた。これはあともう一息のサインだ!
「みんなの役に立つ為にも魔法を教えて欲しいんです!お願いします!」
ぺこりとお辞儀をすると、神父様は大きなため息をつく。
「仕方が無いですね……」
こうして、僕は魔法を教わることになった。
✱
「いいですか?魔力は人によって性質が違います。1つとして同じ魔力は存在しない、とも言われています。つまり、性格と同じようなものなのです。
魔力は魔力だけでは何かを行うことはできません。ほかの力に変換する必要があります。
魔法学では、変換後の力の種類を5つに分けて考えられています。火、水、土、風、雷ですね」
神父様の右手に赤い炎が点る。かなり火との距離が近いけれど熱さは感じてなさそうだ。これも魔法の力なのかな?不思議だなあ。
「今の5つの属性はさらにそれぞれ闇属性、光属性、無属性にわけられます。ここまでは分かりますか?」
神父様はこちらをちらりとみる。
「えーと、無属性の火とかって想像するのが難しいです」
光属性の火はきっと神聖な炎なんだろうな、ってことは分かる。闇属性の火は禍々しい炎?かな……。多分。
「無属性はそうですねえ……。光属性は浄化効果があり、闇属性には汚染効果があります。
例えば聖水には呪いや病を治す効果があります。逆に穢火に触れると呪われてしまいます。
そのどちらでもないのが無属性、という訳です」
神父様はぽっと次は白い炎を手に生み出す。うわ、あれは多分光属性の炎だ。やっぱりなんとなく好きになれない。
うーん。なるほど。何となくわかったかもしれない。つまり料理なんかに使う火は無属性、ってことになるのかな?
「今までの説明を聞いても、無属性の役割がよく分からない……というか、何だか種類としてなくてもいいような気がします……」
「うん、いい所に気がつきましたね」
今まで質問をする度に申し訳ない気持ちになっていた僕だけど、この言葉で申し訳ない気持ちはどこかに吹き飛んでしまった。
「実は、光属性と闇属性と無属性はそれ単体でも効果を表すことが出来ます。光と闇はまあ、分かるでしょう。無属性は、主に時間や空間に作用する属性と言われています」
「えっ、時間を操ることなんてできるんですか?!」
驚きのあまりつい声が出てしまった。だって時を操るって、過去に行ったり未来に行ったりできるってことでしょ?それは凄い!凄すぎる!!
「いえ、人間の中ではいないでしょう。空論の産物ですね」
やっぱり無理なんだ……。ちょっとガッカリ。あ、でも、別に時を操って何かがしたいわけじゃないからいっか。
「じゃあ、氷を生み出すのは無属性……?なんですか?」
僕は前、神父様が水を飲んでいた時のことを思い出す。あの時神父様は魔法で氷を生み出していたのだ。すごく便利そうだな、と思って見てたわけだけど。
「……まあ、昔はどの属性にも属さないものは全て無属性に入れてしまえ、と言う暴論も出ていたようですが、今は違います。
氷魔法なら、まず元となる水魔法。それから、火魔法を温度調節を行う魔法と見て考えると、水魔法と火魔法の複合技、ということになる、わけですが……。
それだけでは説明できない魔法も最近出てきました。例えば植物魔法。大地の養分を増加させる、という意味では土魔法に属すると考えられますが、その種子は一体何魔法になるか、と考えるとその答えは出ないわけです。なのでそもそも属性を8つだけにするのは無理があるのではないか?という説も浮上しています」
「ええと、それだと8属性だと思ってたら本当は違ったってことだから、属性は……あれれ?」
なんだかよく分からなくなってきた。
「あー、申し訳ないです。質問してもらえるのが嬉しくてつい、応用部分まで話してしまいました。まあ、基本は8属性だと思ってくれればいいですよ」
神父様は困ったような笑みを浮かべる。前、あんまり詳しくないって言ってたのに、とても魔法について詳しいような気がするのは僕の気の所為……?それともみんなこれぐらいは知ってる事なのかな?なんだか訳が分からなくなってきたので考えるのをやめる。神父様の言葉に甘えて、8属性ってことにしよう。うん。
「じゃあ神父様はどれだけの属性が使えるんですか?」
水と光属性を使っていたのは見たことがある。だから、2つ以上なのは確実だろう。あの神父様のことだ。全ての属性が使えたっておかしくない。……普通の人がどれぐらいの属性を使えるのか知らないけどね。
「ええと、6つ、ですかね?闇属性と無属性の魔法は使えません」
神父様は恥ずかしそうに、ぽりぽりと頬をかく。
無属性が使えないなのはさっき神父様も人間には使えないって言ってたし、カウントしなくていいと思う。
闇属性の魔法が使えないのもわかる気がする。神父様闇ってイメージないもんね。呪いをかける姿とか想像出来ない。神父様優しいし!
……ってことは実質全属性使えるってことになるんじゃない?凄い!さすが神父様だ!
「因みに普通の人はどれぐらいの属性が使えるんですか?」
「使えて1つ、の人が多いですね。魔力は誰にでも備わっているものなんですが、8属性の中には当てはまらない人も多いので、その人たちは属性無し、ということになります」
へぇ。……えっ。じゃあ、6属性使える神父様はなんなんだろう?僕は他の人も2属性ぐらい使えるのかと思っていたけど……。えっ?なんでこの人こんな辺鄙なところで神父なんてやってるんだろう……?
気になるけれど、直接聞く訳にもいかず、神父様をじっと見つめた。いつも通りニコニコ笑っている。うーん。何を考えているか分からないなぁ。
「では、理論の部分はこの辺にして、次は実技を行ってみましょう」
まあきっと、神父様にも神父様の事情があるんだろう。まだ分からないことだらけだけど、いつか神父様のことをもっと知ることが出来たら嬉しいな。
まずは、魔法を使えるようにならなくちゃね。……属性無しかもしれないけど。
ふと湧いた悲観的な考えを追い払うために、僕は大きな返事をした。
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