せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空

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視覚共有2

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「それもそうだな。分かった」

 予想よりも、あっさりと、八束はリモコンを渡してくれた。もっと抵抗すると思ってたのに。

 ただ、予想外ではあったけど、譲ってくれたなら譲ってくれたで、そうした理由もなんとなく想像はつく。多分同情しているからだ。分かりやすく言うと、泣いている赤ちゃんに玩具を渡して、慰めるのと同じ。その扱われ方はなんとなく、腑に落ちないが、リモコンを渡してくれるなら、好都合である。
 今一番する必要のある事は、『一刻も早く、猫を画面から消すこと』だからな。

 俺は、八束の手から、リモコンをひったくるように、奪った。そのあまりの強引さに、八束は驚いていたが、そんなこと、今はどうでもいい。
 はやく。画面を……。

 ……、何に変えればいいんだ?下手に適当な物を映して、八束に馬鹿にされるのはごめんだしなあ。
 うーん。

 ……あ。
 目に見えてるもの、そのまま映せばいいんじゃないか?
 悩んでいる暇はない。

 俺は、八束の方を見て、リモコンを強く握った。
 ちらり、とテレビの方を見ると、テレビの中にテレビが映って、その中のテレビにも……と、無限ループしている映像が、見えた。きちんと映ったことが確認できればいいので、慌てて、視線を八束に戻す。

「何がしたいんだ?画面には俺しか映ってないけど?」

 アンジェラさんも、不思議そうな顔をしている。そりゃ、今の映像を見たら、そんな反応になるだろうな。勿論、これだけで終わらせる気はない。
 俺は、八束のステータスが見たい。と思った。

「おお……!」

 画面を見ると、また、ややこしい事になりそうなので、見ないが、声だけで分かる。成功したのだと。

「私の見えてる景色はこんな感じです」

 アンジェラさんも、八束も、画面に見入っているのが分かる。
 俺は、二人をこちらの世界に、引き戻すために、いつもよりも、少し大きな声を出した。

「これで、視覚共有に、問題はなさそうだね」

 狙い通り、この言葉に、意識を取り戻されたようで、二人とも、ハッとする。

「確かに……って言うか、凄いな……これ。話には聞いてたけど、なんて言うか……、マジでゲームみたいだわ……」
「ゲームみたいなのか?」

 俺が首をかしげると、八束は大きく頷く。

「ああ、ゲームの設定画面みたいだな。ステータス画面その物、って感じ」

 そりゃあ、どちらにしろ、ステータスが見たい訳だから、見やすさを突き詰めたら、同じになるのは、何も可笑しなことではない。寧ろ自然なことだろう。

 ……とまあ、興奮している八束を、冷たい目で見られるのは、俺が、ゲームに詳しくないからなのは、間違いない。
『似てるー!』だけ言われても……ねえ?『ふーん。そうなんだ……』くらいにしか思えない。ゲームに少しでも造詣があれば、また違ったのかもしれないけど。

 ちらり、とアンジェラさんの方を見ると、じぃーっと画面を見つめていた。その表情に、先ほどの怒りはない。どうやら、俺の狙いは成功したらしい。誰にも気づかれないように、小さく息を吐いた。

「でもさ、その能力を持ってるのが、俺じゃなくて、良かったよ……本当」
「なんだよ。嫌味か?」

 俺は、覗き魔と言う言葉が、頭にちらつき、眉をしかめる。
 すると、俺の言葉が理解できなかったのか、一瞬、八束は固まった。しかし、すぐに頭が回ったのか、ブンブンと手を振る。

「いやいや、そうじゃねーよ?……ただ、無駄にゲームみたいだ、っていう先入観があると……やっぱし……良くないだろ?」

 む。それは、その通りだ。
 確かに、『この世界は、ゲームみたいだ』なんて思い込みは、ない方がいいだろう。そう思い込んでしまって、自分の命を粗末にしてしまったら、目も当てられない。それが原因で死んでしまいましたー。なんて、笑い話にもならないからね。それに、こんな、どこかも分からないような場所で、死ぬなんて嫌すぎるし。

「でも、俺だって非現実的な感じはしてるんだぞ?だってどう考えても、この世界は前の世界と違いすぎるし……まるで夢でも見てるか、小説でも読んでいるようだ」
「あー、なるほど。お前の場合はそうなるのね……」

 呆れたような、納得したような、声で頷く八束。
 むしろ、俺がそういった先入観、と言うか、思い込みをしない奴だ、と思われていたのだろうか?確かに、文章として把握している俺よりは、映像として把握している方が、『似た世界だ』と勘違いしやすい……のかもしれないが、うん。そうなのかもしれない。
 でも、実際に勘違いしそうになってしまった手前、『俺はそんなことない』……なんて、言えないのは、何だか悔しい。

「お前が苦労してるのは分かったわ。なんか、軽々しいこと言ってごめんな」

 そう言って、八束に、ポンと、肩を叩かれた。
 ……俺は、何を謝られているのだろう?理解できなかったので、じっと、八束の方を見る。

「いや、なんつーか、俺のさっきの言い方、まるでお前は頑張ってない、みたいな言い方だったろ?それが悪かったな。と思ってな」

 ん。いや、俺はそんな風には思わなかったけど、まあ、謝ってくれる分は、素直に受け取ろう。その方が、謝った側も、気が楽になるだろうしね。
 それに、自分では、頑張った。なーんて自覚、全くなかったけど、でも、言われてみれば、確かに。俺は、頑張っていたのかもしれない。思い込みや、先入観に負けないように。
 あくまで自分のために行ったことだけど、こんな風に人に認められると、なんだか嬉しいような、くすぐったいような、気持ちになった。

 照れ臭そうに、頬を掻く八束に、にっこりと笑いかける。すると彼は、より照れ臭くなったのか、とうとう、そっぽを向いてしまった。

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