せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空

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意外と間違っていると思っていることの方が正しかったりする2

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千恵の教室を後にした二人は、職員室へ向かうことにした。

「失礼します」

 二人はそう言うと、辺りをキョロキョロしながら中へ入っていった。職員室に入って直ぐ側に各教員の座席表が貼ってあったので、さっそく秋山湊人という名前を探した。
 秋山先生の席は、入り口から若干遠かったが、奥まで行かなくても席が見えた。

「あいつか?」

「そのようだな」

 秋山先生と思われる人物はパソコンを打っている最中であった。三十代半ば程で、黒髪の真面目そうな感じの先生だ。席に座っている姿は背筋もピンとしていて、どこか堅苦しそうにも見えた。

「あの人が今日、本当に殺人なんか犯すのか?」

 伊吹の言う通り、秋山という男は人を殺すような人間には見えない。けれど、黒羽が指名したのはこの男だ。ここは黒羽を信じるべきなのか…それとも…

「取りあえず、あの先生の素性について他の生徒に聞いてみよう」

 二人は静かに職員室を出て行くと、ひとまず中学三年生の教室がある方へ向かった。というのも、三年生であったらこの先生についての情報もあると考えたからだ。

 中学三年生に知り合いの居ない二人は、仕方ないから、適当に廊下を歩いている生徒に話しかけた。

「あの、ちょっと良いかな?」

 蒼が話しかけたのは、ショートカットのさっぱりとした女子であった。いきなり話しかけられた彼女は、少し驚いた顔をした。

「何ですか?」

「あのさ、俺たち高等部二年なんだけど、君、秋山先生のことは知っているよね?」

 彼女は一切曇った表情をせずに、笑顔で答えた。

「秋山先生ですか!もちろん知っていますよ!」

「あの…秋山先生ってどんな先生なのか教えてくれる?」

 明るく答える彼女は、先ほどの千恵の様子と全く異なっていた。秋山先生はもしかしたらそんなに評判が悪い先生でもなさそうだ、と二人は思った。

「秋山先生は水泳部の顧問で担当は理科ですよ。三年二組の担任なんですけど正直、一組に来て欲しかったですよぉ…」

「え?秋山先生って、人気があるのか?」

 彼女の口調から、秋山先生は人気者のように聞こえてきた。

「もちろんですよ。まだ三十二歳だし、先生はとても優しいんです。あの真面目で紳士的な人はこの学校には秋山先生しかいませんよ」

「……、」

 二人とも想像を遥かに超えた秋山先生のイメージに言葉が出なかった。すると、後ろから三人組の女子がやって来た。

「亜紀?何やってんの?」

 亜紀と呼ばれた彼女は三人に笑顔でこう言った。

「丁度良かった。今秋山先生について色々聞かれているんだけどね」
 秋山先生、と聞いた彼女らは興味津々で蒼たちに近寄ってきた。

「えっ、何なにぃ?秋山先生がどうしたって?」

 きゃ、きゃ、と楽しそうに聞いてくる彼女らに蒼と伊吹は思わず三歩下がった。

「いや…秋山先生って、そんなに人気があるんだぁ…」

苦笑い気味で話す伊吹にその中でも髪の長い女子が、

「そうですよ!秋山先生は女子からも男子からも安定して人気があるんです!」

彼女に続いて、そうだ、そうだ、と周りも頷き始めた。

「…秋山先生って、独身なのか?」

しかし、何となく蒼がそう聞くと、彼女たちは一斉に表情を曇らせた。

「秋山先生はとっくに結婚していますよ。確か、今年で三年目だとか何とか…」

驚く程低い声で亜紀は答えた。

「へぇ…」

「でも、先生は素晴らしい人ですっ」

そう言うと、再び彼女らは笑顔で騒ぎ出した。

 その後も、何人かの生徒に秋山先生について聞いたが、やはり誰もが彼を賞賛していた。一人も秋山先生を悪く言う者は居なく、理想の教師というイメージが二人の頭に植えつけられた。
秋山湊人、真面目そうな外見をしていて、生徒達からの人気も高い。そんな彼が今日中に殺人者?そんな有り得ない話があるというのか…

 二人は自分たちの教室に戻ると、蒼の席の前でコソコソと話し始めた。

「どういうことだよ、あんなに人気な先生だったなんて…」

 蒼は頭を抱えて、大きくため息をついた。

「やっぱりあの鴉、嘘つきなんじゃねぇか?大体、怪しいのはあっちだろ?きっと変な魔法か何か使って、俺たちの記憶を操作したんじゃね?」

 伊吹はそう言うが、蒼はその点に関しては、黒羽は嘘をついていないような気がした。
 昨日見せられた記憶の数々、その全ては確かに自分が歩んできた道のりであった。自分の中にある記憶がふっと蘇った…それは真実。ただ、浄罪師の使徒をしていた頃の記憶が戻らないのは、気になる点ではある。

「それは無いと思う。伊吹だって、昨日見ただろ?あの記憶…間違えなく自分の記憶だった」

「……、確かにそうだけどよ」

「それに、真雛っていう浄罪師…あの人間離れした容姿、あれが偽物だって言うのか?」

 伊吹は下を向いて、ゆっくりと首を横に振った。

「そうだな…あれは偽物とは思えない。でも、秋山先生はみんなの人気者らしいし、殺人なんて…」

「人気者だとしても、それは表面上の顔なのかもしれないだろ?」

 表面上の顔、偽装されたイメージ、作られた性格…本当の自分をそのまま外に曝け出す者なんて果たしているのか?人間は動物と違って理性がある。一目を気にして、本当の自分、醜い自分は隠す習性があるのだ。
 蒼は窓から外を見渡した。伊吹もそれを真似て窓際に近寄る。
 外はしきりに雨が降っている。まだ十二時半過ぎだというのに、外は薄暗くなっていた。

「放課後…」

蒼は窓を睨みつけて、口を開いた。

「放課後が勝負だな」

「ああ」

 伊吹は低い声で答えると、教室側へ向き直って蒼の席に座った。

「お~い、蒼ィ~、お客様がいらっしゃっていますよ~ぉ?」

と、その時。クラスメートの青島という男子から声を掛けられた。ふざけた声で呼ばれた蒼は何事かと、青島に尋ねる。

「どうしたんだよ、青島?」

「姫様がお呼びですぞぉ?あ、お、い、ど、の!」

 日頃からふざけた奴だが、さすがに今回は様子がおかしかった。とうとう頭のネジが全て吹っ飛んだか?と蒼は哀れみの目で青島を見つめる。
 青島は蒼の背中を押して廊下へ連れていった。蒼は訳が分からず、呆れ顔で仕方なくそのまま廊下へ向かった。

 伊吹は蒼の席から、そんな二人の背中を口を開けながらポカンと見ていた。
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