せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空

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空間魔法1

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 それから、ようやく、下手すると、自分が死にかけていたんじゃないか?という事実に思い至り、ぶるり、と体を震わせる。

「あっ。ごめーん」

 超軽い感じで謝られた。
 いやいや、土下座するレベルの奴でしょ。え?いや、いやいや、確かに、確かにね。急に背後に立った俺も悪いよ。悪いけどさ。えっ。殴りかかるとか酷くない?
 しかもあれは、おふざけとかじゃなかった。本気で殺しにかかってきてたよ。それを、そんな軽い、感じで謝られても……。

 抗議したいのはやまやまだったが、驚きからなのか、恐怖からなのか、何なのか知らないが、声が出ない。仕方ないから、八束の足を、げしげしと、踏ませていただく。

「おい、何すんだよ」

 と、嫌そうな顔はするものの、全く痛そうではない。俺の攻撃力では、こいつに太刀打ちできない、とでもいうのか?!
 いやまあ、そりゃそうなんだけど。なんか悔しいな……。

 俺は、不服そうな八束を無視して、ラルゴさんの方を向く。彼は、何かを必死に書き込んでいた。……あれ、俺の呪文をメモ、してるんだよなあ……?多分。

「あの、すいません。何を書いてるんですか?」
「おお、お主の呪文を書いておるのじゃ。何かの手掛かりになれば、と思っての」

 話している間も、紙から目を離すことはない。
 やっぱりね。

「あんまり参考にはならないんじゃないでしょうか?」

 そのあまりにも必死な姿に、つい思っていたことが零れる。

「ふむ。どうしてそう思ったのかの?」

 純粋にただ疑問に思っただけなのだろう。その証拠に、彼の瞳にそれ以外の感情は映っていない。けれど、余計なことを言ってしまったような気がした。ここで今更撤回する訳にもいかず、しぶしぶ説明をする。

「いえ、大した理由じゃないんですが、私が思ったのは、呪文も個人個人で違うんじゃないかなあ、と。だから、他の人が、私の真似をしたところで上手くいくとは思えません」
「なるほどのう……」

 もさもさ、と髭を触りながら、唸った。
 何か可愛らしい気がする。こんな年上の人に、可愛いっていうのは失礼かもしれないけど……。マスコットキャラ的な可愛さがある。

「例え、個人個人で適する呪文が違うとしても、お主の成功した、呪文を書き留めるのは、無駄ではないぞい。将来的に、お主と似た人間が現れないとも、限らないし、こういう個人の事例が集まると、ある法則性が見えるかもしれんしのう。」

 それはもっともである。現代で言う、統計学、みたいなもんかな。未来のために、データを残して悪いことはないだろう。うん。

「すいません……差し出がましいことを言ってしまって……」
「いやいや、寧ろ言ってくれて嬉しいわい。お主らにはわしとは違う価値観がある。だからこそ、常識にとらわれない発想が出てくることもあるじゃろう。重圧には思ってほしくないんじゃが、そういう意味で、期待しておる。だから、今後も、思ったことがあったら、どんどん言ってくれると、わしとしても、嬉しいのう」

 ……なんだろ。凄い嬉しい。
 何にも知らないくせに、要らない口出しをしてしまった、と後悔していた時に、言われたから、尚更。もしかして、俺が思っていたことが、バレていたのかもしれない。
 何にせよ、凄い……うん。凄い人だなあと思う。

 だって、タイミングは、なしにしても、こんな若輩者の意見を取り入れられる人間なんて、そうそういない。若輩者、どころではないかもしれない。なんせ他の世界の住民。それも、来たてホヤホヤだもんなあ。数日たったとはいえ、まだ湯気は出てるはず。
 しかも、ラルゴさん、結構な重鎮?ぽいし。偉くなればなるほど、思考は凝り固まって、偉そうになっていく気がする。所謂、老害、と言うやつね。
 まーでも、本当に優秀な人は、ラルゴさんみたいな考えがあるだろうし、偉い人は、その、両極端になるのかもね。超優秀か、役立たずか。

「あ、じゃあ、空間魔法で、空間を切断!とかはできないんすか?」

 意見、と言うよりは、質問を八束はする。

「空間を切断……?歪ませることは出来るようじゃが」
「歪ませるとどうなるんすか?」
「そこにあるものが壊れるのう」
「何それ怖っ」

 ぶるり、と体を震わせるが、本当に怖がっている、と言うよりは、茶化している要素の方が多いと思う。
 それにしても空間を歪ませる、か。そんなこと出来るんだなあ。いや、前の世界とここでは物理法則とかが違うのかもしれない。それなら、空間が歪もうが、切断されようが納得できる。

「やってみてくれよ」

 不意に肩を、ぽん、と叩かれた。
 え?やるって空間を歪ませる、とかいうやつのこと?
 いやあ、それはちょっと……。ここでやるのは危険すぎやしないだろうか?
 その辺の判断を聞くために、俺はラルゴさんの方を見た。

「ふむ、そうじゃな。かなり危険な魔法じゃからのう……。カシオカがもう少し魔法に慣れてから、場所を変えて行うことにしようかの」
「ちぇ……」

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