せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空

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改めまして1

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「火の魔法なら火を。水の魔法なら、水を生み出すじゃろう?」
「そうですね」
「それが出来ぬという事じゃ」
「……」

 八束が黙り込んでしまった。さらに追い打ちをかけるよう、おじいちゃんは言う。

「それだけではない。基本的にはあまり大規模なことは出来ないはずじゃ。火力の調整にしろ、家が焼けるくらい大きいものになると、手のつけようもないじゃろうて」

 その言葉で完全にノックアウトされてしまった八束を横目に、声を上げる。

「あの、横からになるんですけど、いいですか?」
「いいぞい、いいぞい」

 ニコニコしながら頷くおじいちゃん。なんだか可愛い。
 おかげで申し訳ない気持ちはすっかり消え失せ、逆に良い事をしている気にさえなってきた。

「なんで生活魔法だと火はつけられないんですか?」
「ふむ。そもそも、属性が違うんじゃよ」

 おじいちゃんがじっとこちらを見つめてくる。優しい目線だ。彼からは見えないのだろう。八束がちょっと期待した目でこっちを見ている所が……。キラキラを通り越して、ギラギラしている。ちょっと怖いんですけど……。

 俺は、つうっと垂れてきそうになった冷や汗を拭う。

「生活魔法は、無属性に近い。基本的に魔力を使って、変化を加えることしかできぬ。それも小さい変化をの」

 ……なるほど?それだと確かに火をつけることは出来ないか。物質に摩擦熱を起こさせるとかすれば発火するかもだけど、多分、普通に火をつけた方が早いよね。

 うん。弱そう。
 八束の職業的に家事をするのに使う程度のものなんだろうな、と予想できるからなあ。
 どこかの主人公みたいに、良い感じに裏をついて世界最強、とか、なくもないけど、そんな都合のいい話ないだろう。

 そもそも、現時点では八束自体は弱いとは思えない。
 魔法ができないだけで、身体能力は高そうだし、魔力もそっちに特化してるしで、強さで言ったら、かなりのものなんじゃない?比較対象がいないから分からないけど。

 そんな彼がわざわざ時間と労力を割いて、魔法に固執するメリットがない。というか、絶対魔法なんかより、剣とか、格闘術で戦う方が格好いいでしょ。

 でも落ち込んでるんだよなあ。落ち込んでると言うより、正確に表すならば、目にハイライトがない。絶望してる、って表現があってるのかもしれない。そこまで、悲壮感はないけども……、でも……うん。落ち込んでるわ。

「一回使ってみる、というのはどうでしょう?」

 ゆっくりとだが、八束がこちらを向いた。どうやら興味があるらしい。

「それは良い、……」


 ん?おじいちゃんが八束の顔を見て固まってしまった。何かあったんだろうか?生活魔法ごときに時間はさけない、とそんなこと思ってないよね……?いや、それだったら、褒めないよな。すぐに拒否すればいい話だし。
 何か問題があった、というのがしっくりくるけど、問題が何かまでは分からない。見ればすぐにわかるだろうけど……いや、聞けばいい。聞いて答えてもらえなかったら……考えよう。話はそれからだ。

「どうしたんですか?」

 俺が聞くと、おじいちゃんは照れ臭そうに笑った。

「いや、の、名前を聞いとらんかった、と思っての……」

 あ。ほんとだ。
 おじいちゃん、おじいちゃん、って呼んでたけど、おじいちゃんの名前聞いてないや。
 初めがあんな出会い方だったせいで、自己紹介する機会を逃したのが原因だな。

「では改めまして、私の名前は柏岡孝輔。名前が孝輔です」
「ふむ、カシオカじゃな」

 目を細めて言葉を反芻する。まるでこの工程を行うことで脳内に情報をインプットしているかのように、丁寧に。
 しかし一向に、次がない。
 横を見ると、八束がぼーっとしていたので、肩をたたいてやる。

「ん?ああ、俺は八束宇宙です。名前が宇宙ね」

 まだ、いつもの調子じゃないのか、少し生返事気味である。

「なるほどのう。わしはラルゴ・プロフォンドじゃ。よろしくの」
「「よろしくお願いします」」

 声を出すのも、お辞儀をしたのも、同時だったので、つい笑いそうになってしまう。油断すると、動き出しそうになる口角。このまま、顔を上げる訳にもいかないので、少し長めに頭を下げることにした。
 ちらりと隣を見ると、八束も頭を下げっぱなしで、しかもこっちをちらっと見てきているのが分かる。これには耐えきれず、笑ってしまった。流石に声は殺したけど。

 見てはいけない、と思いながらも、隣がついつい気になってしまう。誘惑に耐え切れず、八束のほうを見てしまうと……あっちもあっちで同じ事やってるから、余計に笑えてくる。だからなかなか、顔があげられない。

 そのうち、流石に頭を下げすぎだろう、と思ったのか、おじいちゃんが、
「もう、顔を上げてもよいのじゃぞ?」
 と困惑気味に言ってきた。

 もう少し待ってほしかったな……。
 いや、これ以上下げてても、返って笑えてくるだけか。ここは覚悟を決めて……。
 俺は頭を上げた。八束も上げたような雰囲気を感じる。見ない。見ない。

「それで、えっと、八束に何か言いたいことがあるんじゃないでしょうか?」

 今の俺の顔は不必要にきりっとしていることだろう。全校の前で話しているときの生徒会長よりきりっとしているかもしれない。いや、分かんないけど。
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