68 / 115
改めまして1
しおりを挟む
「火の魔法なら火を。水の魔法なら、水を生み出すじゃろう?」
「そうですね」
「それが出来ぬという事じゃ」
「……」
八束が黙り込んでしまった。さらに追い打ちをかけるよう、おじいちゃんは言う。
「それだけではない。基本的にはあまり大規模なことは出来ないはずじゃ。火力の調整にしろ、家が焼けるくらい大きいものになると、手のつけようもないじゃろうて」
その言葉で完全にノックアウトされてしまった八束を横目に、声を上げる。
「あの、横からになるんですけど、いいですか?」
「いいぞい、いいぞい」
ニコニコしながら頷くおじいちゃん。なんだか可愛い。
おかげで申し訳ない気持ちはすっかり消え失せ、逆に良い事をしている気にさえなってきた。
「なんで生活魔法だと火はつけられないんですか?」
「ふむ。そもそも、属性が違うんじゃよ」
おじいちゃんがじっとこちらを見つめてくる。優しい目線だ。彼からは見えないのだろう。八束がちょっと期待した目でこっちを見ている所が……。キラキラを通り越して、ギラギラしている。ちょっと怖いんですけど……。
俺は、つうっと垂れてきそうになった冷や汗を拭う。
「生活魔法は、無属性に近い。基本的に魔力を使って、変化を加えることしかできぬ。それも小さい変化をの」
……なるほど?それだと確かに火をつけることは出来ないか。物質に摩擦熱を起こさせるとかすれば発火するかもだけど、多分、普通に火をつけた方が早いよね。
うん。弱そう。
八束の職業的に家事をするのに使う程度のものなんだろうな、と予想できるからなあ。
どこかの主人公みたいに、良い感じに裏をついて世界最強、とか、なくもないけど、そんな都合のいい話ないだろう。
そもそも、現時点では八束自体は弱いとは思えない。
魔法ができないだけで、身体能力は高そうだし、魔力もそっちに特化してるしで、強さで言ったら、かなりのものなんじゃない?比較対象がいないから分からないけど。
そんな彼がわざわざ時間と労力を割いて、魔法に固執するメリットがない。というか、絶対魔法なんかより、剣とか、格闘術で戦う方が格好いいでしょ。
でも落ち込んでるんだよなあ。落ち込んでると言うより、正確に表すならば、目にハイライトがない。絶望してる、って表現があってるのかもしれない。そこまで、悲壮感はないけども……、でも……うん。落ち込んでるわ。
「一回使ってみる、というのはどうでしょう?」
ゆっくりとだが、八束がこちらを向いた。どうやら興味があるらしい。
「それは良い、……」
ん?おじいちゃんが八束の顔を見て固まってしまった。何かあったんだろうか?生活魔法ごときに時間はさけない、とそんなこと思ってないよね……?いや、それだったら、褒めないよな。すぐに拒否すればいい話だし。
何か問題があった、というのがしっくりくるけど、問題が何かまでは分からない。見ればすぐにわかるだろうけど……いや、聞けばいい。聞いて答えてもらえなかったら……考えよう。話はそれからだ。
「どうしたんですか?」
俺が聞くと、おじいちゃんは照れ臭そうに笑った。
「いや、の、名前を聞いとらんかった、と思っての……」
あ。ほんとだ。
おじいちゃん、おじいちゃん、って呼んでたけど、おじいちゃんの名前聞いてないや。
初めがあんな出会い方だったせいで、自己紹介する機会を逃したのが原因だな。
「では改めまして、私の名前は柏岡孝輔。名前が孝輔です」
「ふむ、カシオカじゃな」
目を細めて言葉を反芻する。まるでこの工程を行うことで脳内に情報をインプットしているかのように、丁寧に。
しかし一向に、次がない。
横を見ると、八束がぼーっとしていたので、肩をたたいてやる。
「ん?ああ、俺は八束宇宙です。名前が宇宙ね」
まだ、いつもの調子じゃないのか、少し生返事気味である。
「なるほどのう。わしはラルゴ・プロフォンドじゃ。よろしくの」
「「よろしくお願いします」」
声を出すのも、お辞儀をしたのも、同時だったので、つい笑いそうになってしまう。油断すると、動き出しそうになる口角。このまま、顔を上げる訳にもいかないので、少し長めに頭を下げることにした。
ちらりと隣を見ると、八束も頭を下げっぱなしで、しかもこっちをちらっと見てきているのが分かる。これには耐えきれず、笑ってしまった。流石に声は殺したけど。
見てはいけない、と思いながらも、隣がついつい気になってしまう。誘惑に耐え切れず、八束のほうを見てしまうと……あっちもあっちで同じ事やってるから、余計に笑えてくる。だからなかなか、顔があげられない。
そのうち、流石に頭を下げすぎだろう、と思ったのか、おじいちゃんが、
「もう、顔を上げてもよいのじゃぞ?」
と困惑気味に言ってきた。
もう少し待ってほしかったな……。
いや、これ以上下げてても、返って笑えてくるだけか。ここは覚悟を決めて……。
俺は頭を上げた。八束も上げたような雰囲気を感じる。見ない。見ない。
「それで、えっと、八束に何か言いたいことがあるんじゃないでしょうか?」
今の俺の顔は不必要にきりっとしていることだろう。全校の前で話しているときの生徒会長よりきりっとしているかもしれない。いや、分かんないけど。
「そうですね」
「それが出来ぬという事じゃ」
「……」
八束が黙り込んでしまった。さらに追い打ちをかけるよう、おじいちゃんは言う。
「それだけではない。基本的にはあまり大規模なことは出来ないはずじゃ。火力の調整にしろ、家が焼けるくらい大きいものになると、手のつけようもないじゃろうて」
その言葉で完全にノックアウトされてしまった八束を横目に、声を上げる。
「あの、横からになるんですけど、いいですか?」
「いいぞい、いいぞい」
ニコニコしながら頷くおじいちゃん。なんだか可愛い。
おかげで申し訳ない気持ちはすっかり消え失せ、逆に良い事をしている気にさえなってきた。
「なんで生活魔法だと火はつけられないんですか?」
「ふむ。そもそも、属性が違うんじゃよ」
おじいちゃんがじっとこちらを見つめてくる。優しい目線だ。彼からは見えないのだろう。八束がちょっと期待した目でこっちを見ている所が……。キラキラを通り越して、ギラギラしている。ちょっと怖いんですけど……。
俺は、つうっと垂れてきそうになった冷や汗を拭う。
「生活魔法は、無属性に近い。基本的に魔力を使って、変化を加えることしかできぬ。それも小さい変化をの」
……なるほど?それだと確かに火をつけることは出来ないか。物質に摩擦熱を起こさせるとかすれば発火するかもだけど、多分、普通に火をつけた方が早いよね。
うん。弱そう。
八束の職業的に家事をするのに使う程度のものなんだろうな、と予想できるからなあ。
どこかの主人公みたいに、良い感じに裏をついて世界最強、とか、なくもないけど、そんな都合のいい話ないだろう。
そもそも、現時点では八束自体は弱いとは思えない。
魔法ができないだけで、身体能力は高そうだし、魔力もそっちに特化してるしで、強さで言ったら、かなりのものなんじゃない?比較対象がいないから分からないけど。
そんな彼がわざわざ時間と労力を割いて、魔法に固執するメリットがない。というか、絶対魔法なんかより、剣とか、格闘術で戦う方が格好いいでしょ。
でも落ち込んでるんだよなあ。落ち込んでると言うより、正確に表すならば、目にハイライトがない。絶望してる、って表現があってるのかもしれない。そこまで、悲壮感はないけども……、でも……うん。落ち込んでるわ。
「一回使ってみる、というのはどうでしょう?」
ゆっくりとだが、八束がこちらを向いた。どうやら興味があるらしい。
「それは良い、……」
ん?おじいちゃんが八束の顔を見て固まってしまった。何かあったんだろうか?生活魔法ごときに時間はさけない、とそんなこと思ってないよね……?いや、それだったら、褒めないよな。すぐに拒否すればいい話だし。
何か問題があった、というのがしっくりくるけど、問題が何かまでは分からない。見ればすぐにわかるだろうけど……いや、聞けばいい。聞いて答えてもらえなかったら……考えよう。話はそれからだ。
「どうしたんですか?」
俺が聞くと、おじいちゃんは照れ臭そうに笑った。
「いや、の、名前を聞いとらんかった、と思っての……」
あ。ほんとだ。
おじいちゃん、おじいちゃん、って呼んでたけど、おじいちゃんの名前聞いてないや。
初めがあんな出会い方だったせいで、自己紹介する機会を逃したのが原因だな。
「では改めまして、私の名前は柏岡孝輔。名前が孝輔です」
「ふむ、カシオカじゃな」
目を細めて言葉を反芻する。まるでこの工程を行うことで脳内に情報をインプットしているかのように、丁寧に。
しかし一向に、次がない。
横を見ると、八束がぼーっとしていたので、肩をたたいてやる。
「ん?ああ、俺は八束宇宙です。名前が宇宙ね」
まだ、いつもの調子じゃないのか、少し生返事気味である。
「なるほどのう。わしはラルゴ・プロフォンドじゃ。よろしくの」
「「よろしくお願いします」」
声を出すのも、お辞儀をしたのも、同時だったので、つい笑いそうになってしまう。油断すると、動き出しそうになる口角。このまま、顔を上げる訳にもいかないので、少し長めに頭を下げることにした。
ちらりと隣を見ると、八束も頭を下げっぱなしで、しかもこっちをちらっと見てきているのが分かる。これには耐えきれず、笑ってしまった。流石に声は殺したけど。
見てはいけない、と思いながらも、隣がついつい気になってしまう。誘惑に耐え切れず、八束のほうを見てしまうと……あっちもあっちで同じ事やってるから、余計に笑えてくる。だからなかなか、顔があげられない。
そのうち、流石に頭を下げすぎだろう、と思ったのか、おじいちゃんが、
「もう、顔を上げてもよいのじゃぞ?」
と困惑気味に言ってきた。
もう少し待ってほしかったな……。
いや、これ以上下げてても、返って笑えてくるだけか。ここは覚悟を決めて……。
俺は頭を上げた。八束も上げたような雰囲気を感じる。見ない。見ない。
「それで、えっと、八束に何か言いたいことがあるんじゃないでしょうか?」
今の俺の顔は不必要にきりっとしていることだろう。全校の前で話しているときの生徒会長よりきりっとしているかもしれない。いや、分かんないけど。
7
お気に入りに追加
734
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい
兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない
兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
不登校が久しぶりに登校したらクラス転移に巻き込まれました。
ちょす氏
ファンタジー
あ~めんどくせぇ〜⋯⋯⋯⋯。
不登校生徒である神門創一17歳。高校生である彼だが、ずっと学校へ行くことは決してなかった。
しかし今日、彼は鞄を肩に引っ掛けて今──長い廊下の一つの扉である教室の扉の前に立っている。
「はぁ⋯⋯ん?」
溜息を吐きながら扉を開けたその先は、何やら黄金色に輝いていた。
「どういう事なんだ?」
すると気付けば真っ白な謎の空間へと移動していた。
「神門創一さん──私は神様のアルテミスと申します」
'え?神様?マジで?'
「本来呼ばれるはずでは無かったですが、貴方は教室の半分近く体を入れていて巻き込まれてしまいました」
⋯⋯え?
つまり──てことは俺、そんなくだらない事で死んだのか?流石にキツくないか?
「そんな貴方に──私の星であるレイアースに転移させますね!」
⋯⋯まじかよ。
これは巻き込まれてしまった高校17歳の男がのんびり(嘘)と過ごす話です。
語彙力や文章力が足りていない人が書いている作品の為優しい目で読んでいただけると有り難いです。
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる