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メイドたちの懸念1

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「分かりました。では私が彼をベッドに運びますので」

 これで満足でしょう?というかのように、アンジェラさんはメイドのほうを目だけで見た。メイドの方はと言うと、るんるん、と効果音が付きそうなほど、ご機嫌そうな顔をして、「ありがとうございます」と頭を下げた。
 素直に礼を言われたのが嬉しかったのか、アンジェラさんは何も言わなかったが、その表情は少し和らいでいるに見えた。

 アンジェラさんは、ネーロさんから影井を受け取ると、流石と言うべきか、案の定というべきか、危なげなくベッドの上に乗せた。
 その様を、メイドは尊敬の眼差しで。ネーロさんは何とも言えない表情で眺めていた。運んでいる本人は、と言うと無表情である。
 まあ、もっと重いものも平気で運べそうだしな。寧ろ、重たそうに物を持っている所を想像できない。

 運ばれている影井は、と言うと、幸せそうな顔で気絶している。あまりにも幸せそうなものだから、俺も気絶なり、倒れるなりしたら、アンジェラさんに運んでもらえるのでは……?と想像してしまった。
 その後、すぐに、八束が出しゃばってきて、俺を運び始めたけれど。まあそれが自然だよな。

 アンジェラさんは丁寧に、布団をかけ終えると、こちらを振り返る。

「ほかに用事はないですよね」
「そうだね。ありがとう」

 明らかに俺のほうを見ていたので、半ば反射的に答える。

「では帰りましょうか」

 この言葉をきっかけに八束とアンジェラさんが部屋を出る。

「じゃあ、俺も戻るわ」

 ネーロさんは軽く片手を上げながら、退出した。
 俺も三人の後を追うように部屋を出る。なんとなく、振り返ると、深々とお辞儀をしているメイドが見えた。見えはしないだろうけど、一応、軽く頭を下げておく。

「おーい、なにしてんだー?」

 八束だ。
 早く来い。という事だろう。慌てて、彼らの後を追いかける。

 思い込みは激しかったけど、悪い子ではなさそうだった。あんなに警戒しているのも、影井のことを思っているから、なんだよな。そう思うと、あまり否定的にもなれない。

 初めに、ミケの差し金なんじゃないか~と思ったのが恥ずかしいくらいだ。
 影井にも、いいメイドさんが付いて良かった。
 ……そういえば彼女の名前、聞いてなかったな。今度会ったときにでも、聞いてみよう。


 ・


「お、ついたな」

 ネーロさんは俺たちの部屋を覚えていたようで、立ち止まる。

「あーっと」

 と、何かを言おうとして、黙り込む。

「……なあ」
「なんですか?」

 ネーロさんの声に八束が反応する。

「今思い出したんだが、さっき俺たち、いい感じで別れたよな?」
「分かれましたね」
「その後、すぐ会ったよな?」
「会いましたね」
「なんか俺ダサくない?」
「ダサいっすね」

「……」

 ネーロさんの表情が能面のようになってしまった。
 だ、大丈夫だろうか?八束もそこまではっきり言わなくていいだろうに……。確かに恥ずかしくはあったけども。

 はじめ、触れられなかったから、忘れているものだと思って、安心しきってたんだけどなあ。言われるまで思い出せなかったくらいだし。そのまま、触れないで別れていれば、みんな幸せになれた気がする。なんで掘り返してしまったのか……。まあ、対応するのは俺じゃないから、いいんだけど。
 一番恥ずかしいのは、言った本人だろうしね。

「そもそも、お前らが、部屋戻るんで、同じ方向ですよ、とか言ってくれりゃ済んだ話なんじゃないのか?」

 わ。八つ当たりだ。八つ当たりだけど、一理あるっちゃ、あるんだよな……。

「影井を運びに行く、なんて知らなかったんだから、仕方がないじゃないですか!」
「倒れてんだから、運ぶに決まってんだろ。それくらい考えりゃ分かるんじゃねえか?それともなんだ?俺がシュンをそのまま放置するとでも思ったのか?」
「運ぶのは分かっても、どこに運ぶかなんてわかりませんよ。医務室みたいなところに運ぶ可能性もありましたしね」
「む……」


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