せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空

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サボリ魔2

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 いた。
 影井を抱えたままきょろきょろと辺りを見渡しているネーロさんが。
 ……。

 影井の部屋が分からないのだろうか?

 八束がそのまま歩いて行ってしまうので、慌ててついていくと、ネーロさんもこちらに気が付いたようで、近づいてきた。

「丁度良い所にいた。お前ら、影井の部屋知ってるか?」

 正解だったらしい。

「え、知らないすけど」

 そう答えながら、八束はこちらを見てくる。彼と親しくしている俺なら、部屋を知っていてもおかしくないと思ったのだろう。残念ながら知らないのだが。

「私も知りませんね……他に人とは出会わなかったのですか?」

 使用人なら、例え、違う人の専属だったとしても、覚えていそうだ。アンジェラさん程ではないにしろ、皆、優秀だろうし。

「残念ながら、お前らが一番最初だ」

 それはどうしようもない。
 書類を一緒に運んだ後、俺の部屋のほうが手前にあったから、そこで別れたんだよなあ。つまり、影井は俺の部屋を知っているが、俺は影井の部屋を知らない、という状況なわけで……。

 それって友達としてどうなんだ?
 やっぱあの時、影井の後について行って、部屋を知っておくべきだったか……?いやいや、それはおかしいだろう。不自然にもほどがある。
 またこういう事態に陥っても困るし、今度、部屋がどこか聞いておくか……。

「ふむ、他の人か。そうだな。……他の奴が来るまで待つか」

 やれやれ、と肩を竦めるネーロさん。

「うわー、大変そうっすね。なんなら、部屋寄ってってもいいっすよ」

 八束は全く大変だと思ってなさそうな口調で言った後、俺の肩を抱き寄せた。

「こいつの、ね」

 にやにやとしながら、「ねー」と同意を求めてくる奴を、努めて見ない振りをする。

 ネーロさんはそんな俺たちを見て、何故、言い出しっぺの八束の部屋ではないのか?とでも言いたげな顔をしていたが、口には出さなかった。
 代わりに、眉をピクリ、と動かす。

「あほか。部屋の中にいたら、人が来てもわからないだろうが」
「それもそーだ」

 怒っている、というよりは呆れた声に、八束はけらけらと笑って応えた。

 ……ん?
 待てよ。これ、普通に部屋に戻ってアンジェラさんに聞けばいい案件なのでは?

 これから、いつ来るかも分からない通行人を待ち続けることを想像して、憂鬱な気持ちになったのだろう、ネーロさんは渋い顔をしている。

 そんな彼から注意を引けるように、「あの」と声をかけた。
 ネーロさんがこちらに目を向けたのを確認してから、続ける。

「良かったら、私の部屋に来ませんかね?」

 またか……というような顔をするネーロさんが何かを言う前に、それを遮る。

「部屋にいるメイドさんに聞けば、影井の部屋も分かるかもしれません」
「あー、なるほど、その手があったか」

 八束はぽん、と手を叩く。
 ネーロさんの表情には納得と少しの申し訳なさが現れていた。

「なるほど、そういえば勇者には専属使用人がいるんだったな……すっかり忘れていた。……そうだな。案内してもらえるとありがたい」
「分かりました。ではこちらへ」

 そういって何故か八束が前へ出てくる。
 ネーロさんに不思議そうな表情で見られる。その様はさも俺に説明を求めているかのように見えた。いや、そんな目で見られても……。俺だって不思議なくらいだから、説明なんてできるはずもない。寧ろ、俺が説明を聞きたいくらいだ。

 んん?……ああ。
 八束曰く、
 〝せっかく執事になったんだし、それらしいこともしないとな〟
 だそうだ。

 本当は、執事だから……っていうのは気にしてほしくないんだけど、まあ、案内を買って出るくらい別にいいか。俺が案内したい、ってわけでもないし。逆にあまり出しゃばるのは得意じゃないから、ありがたくはあるし。

 だから、特に注意をするでもなく、八束の後を追いかけた。
 不思議そうな顔をするネーロさんは無視する形になってしまったけど、本来なら、八束の思っていることなんて分からなかったのだから、説明しなくても、許されるだろう。

 少し経つと、ネーロさんは諦めたのか、後ろから足音が続いた。
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