せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空

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初めまして団長2

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 ……って言うか、これで全員なのか?!
 影井の後に新たに人が来た記憶が無い。考え事をしていたせいで見逃した可能性もあるかも、と思い辺りを見渡すが、何回見ても、場にいたのは俺たち三人だけだった。
 いや、確かにきつかったけど、あと五人ぐらいは来るんじゃないかな、って思ってたわ……。

 ここまで来ないと教会側の狙い通りなようで悔しい。あ、いや、別に狙い通りではないか。一番の目的である影井は訓練受ける気満々だし。これはちょっと胸がすくかも。グッジョブ!影井!

「お前らはとりあえずいつも通り、適当に訓練してろ」
「了解です!」

 男の気だるげな声とは正反対の、ハキハキとした声を後ろの騎士達が発する。
 その声を聞いて、まるでうるさいという気持ちを表すかのように、目を細めながら耳を塞いだ。

 この男が騎士団の団長なのだろうか……?
 この男が……?

 見た目で判断するのは良くないことだと分かっているけれど、どうしてもそんな疑問が抜けない。
 騎士団長ってもっと精悍な感じなんじゃないの?いや、この人が弱そうに見えるという訳じゃないんだ。

 完全に見た目だけで判断させてもらうと、権力を持ってなさそうなんだよな……。いや、見た目だけで判断っていうか、本当に偏見なんだけど、自分の信念を押し通して、上司に嫌われてそう。結構強いのに、出世に興味がないから下に埋もれてる……みたいな。
 敵目線で言うと、何故お前のような男がこんなところにいるのだ……がくっ。的な。
 でもみんなに指示してるから団長、もしくはそこそこ権力のある人なんだろうなあ。やっぱり、そうは見えないけど。

「お前ら異世界から来た勇者なんだって?温室育ちの勇者なんて俺達の訓練に耐えられっこねえって思ってたわ。それがまさか、三人も残るとはなあ……」

 男は、やはりやる気がなさそうに、頬をかいている。

「まあこれぐらいで逃げる勇者に何かを教えようって気にはならんわな」

 一瞬、ほんの一瞬、男の目付きが鋭くなった気がする。
 しかし、次に見た時には、いつも通りのやる気のなさそうな顔に戻っていた。
 ……あれは、気のせいだったのだろうか?

「まー教えるっつっても、何をどうすればいいのやら。お前らが何したいかによるんだよなあ。別に騎士になりたい訳じゃないんだろ?」

 俺はこくり、と頷いた。隣の二人も同様に頷いた気配を感じる。

「えーと、じゃあそこの……」

 男は影井を顎で示した後、なんと呼べばいいか迷ったのか、肩をくすめた。
 影井はその様子を見て、ただただ困惑しているだけで名乗ろうとはしない。まあ、影井は少し空気を読むのが苦手だからね。仕方がない。

「あー、俺の名前はネーロ・オスクリタだ。一応団長ってことになってる」

 そう名乗られたことで漸く気付いたのか、影井は慌てた。

「ええと、僕の名前は影井俊です」

 ついでに、と思ったので俺も口を開く。

「私の名前は、柏岡孝輔です」
「俺は八束宇宙です」
「シュンにコウスケにウチュウね」

 名前を呼びながら確認するように俺達を見る。

「……よし、覚えたぞ」

 聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな囁きが聞こえた。
 意外だ。いや凄い失礼なこと言うと、人の名前なんて覚えるの面倒くさがるタイプに見えてたんだよね。
 いや俺は、そういうタイプに見えるって言えるほど、ネーロさんのことを知らない。だから、やっぱりこれもただの偏見なんだけど。

 でも、団長にもなると、きっと、覚えなければならない人も沢山いるのだろう。権力がある分、人間関係は複雑そうだし。しかも俺たちは、勇者とはいえ、他所の世界からやってきた、しかも武術に向いたスキルを持っていない人間だ。
 魔術のスキルがあるなら、こんな厳しい訓練は受けず、魔術の訓練を受けた方が楽だろう。人間だれしも楽な方に流れがちだ。
 よってここにいる時点で、他にやることがない魔術スキルを持っていない、非戦闘員である可能性は高い。
 実際、俺と影井はそうだし。八束は八束で武術スキルがあるのを偽ってるだけなので、魔術が出来る、ってのとは少し違うし。

 そう言った非戦闘員は戦いにおいて足手まといになってしまうだろう。そうなると、足手まとい本人も戦場にはいきたくなくなるだろうし、周りにも迷惑が掛かってしまう可能性が出てくる。

 真に恐れるべきは有能な敵ではなく無能な味方である。

 とナポレオンも言ってるからね。

 つまり能力のない俺達は戦場に行かない……かも、しれないのだ。
 いうなれば、城の世話になるだけなって、何もしない……ただ飯食らい?それともニート?お城警備員?
 それは、この国の人たちが望んでいた〝勇者〟とは遠くかけ離れた存在だろう。
 そんな俺たちの名前を覚えるメリットはあるのか?
 否、そんなものはない。

 だからこそ、俺達の名前を覚える、と言う行為がネーロさんの人柄を表しているようで、素直に好感が持てた。

「ではシュンはどうなるのが目標で、この訓練を続けようと思ったんだ?」

 ネーロさんは、影井の方を向いた。影井はネーロさんに見られ、少し緊張しているのか、手を足の横に置き、ピンッと背筋を伸ばして、上ずった声を発した。

「ぼ、僕は、強くなりたいです!」

 大きな声にネーロさんは困ったように頬をかく。

「あーっと、具体的にはどんなふうに強くなりたいか?、ってあるか?」
「敵が一撃で倒せるぐらい!」

 目をキラキラと輝かせる影井。うんうん。ワンパンは男の夢だよな。でも影井……。ネーロさんはそういうことが聞きたい訳じゃないと思うぞ。ほら、彼を見てみろ。やっぱり、困った顔をしている。

「あー」

 ネーロさんは遠い目をして何かを考え始めてしまった。いや、多分どう伝えればいいのか、考えあぐねてるんだと思うけど。

「すいません、一ついいですか?」
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