せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空

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初めまして団長1

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 朝起きて、しばらく3人で雑談をしながら、暇を潰したあと、昨日訓練を行った場所に向かう。

 十分ぐらい前に着いた筈なんだけど、既に騎士団の人達がそこにいた。
 ……凄い早いなあ。やっぱり騎士団だから、時間には厳しいのかも?
 まあ仮にそうだったとしても、教えて貰う側なのに後に来てしまうのは大変申し訳ない。いや、申し訳ないって言うか、失礼なんじゃないかな?
 ……次からはもっと早く来ることにしよう。時間に余裕がなかった訳じゃないし。

 八束がチラチラとこちらを見てくるが、俺からは話しかけない。まだ始まってないとはいえ、私語をするのは失礼な気がしたからだ。
 まあ、騎士団の人たちはすごいガヤガヤしてるけどね。だからと言って俺達が話していいという理由にはならないだろう。
 そう思った俺は、その後、我慢の限界を迎えた八束が何度か話しかけてきたが、無視させてもらった。

 ごめんよ。八束。
 何度か無視するうちに八束も諦めたようで、二人で黙って棒立ちをしていた。
 客観的に見たらおかしな光景かもしれないが深く考えないことにする。

 そんな時を五分ほど過ごした所で、誰かが向かってきた。その影はだんだんこちらに近づいてきて……ああ、あれは影井だ。影井がやってきた。
 正直来ると思っていなかったので驚いた。
 凄いな。あんなに厳しい訓練だったのにまた参加したいと思えるとは……。すごい根性だ。
 ……というと自画自賛のようだけど、実は違う。
 俺には八束がいたから、嫌でも行かざるを得なかったし、生きるために何とかして力をつけなきゃ、という思いもあったからね。覚悟とか安心感とかが違う。
 それに俺は影井よりも体力はあるだろうから、感じた辛さも違うだろうし。

 いや、影井も相当な覚悟でここに来たのかも。否、来たに違いない。
 なにせ、あの厳しい訓練にまた来たのだ。
 しかも一人だけ無能力、って言われたんだもんな。その心情は推し量ることしか出来ないけど、相当ショックだったと思う。
 だからこそ少しでも自分の能力をあげようとしてここに来たんじゃないだろうか?
 うん。凄い。凄いやつだわ。影井。

 天職はその人に性質と似ている物になると、ミューさんは言っていた。
 確かに、こんな状況でも努力の続けられる影井は、イレギュラーと言う職業に相応しい人物なのかもしれない。
 俺なら諦めて、何もしないことを選ぶだろうね。
 だってクラスの他の奴らには特殊な能力があるのに、自分だけ無能力とか、無理でしょ。多少の逆境なら何とかしようという気になるけど、どうしようもないぐらいの逆境の中でも、頑張ろう。なんて、俺は思えない。

 そんな尊敬にも似た感情を抱いていたからだろうか?
 こちらに気づいた影井が「おはよう」と声をかけてきたので思わず、「おはよう」と返してしまった。

 ……いや、よくよく考えてみれば、挨拶ぐらいなら別にしてもいいんじゃないか?私語とは少し違うし。むしろ挨拶を返さないのは影井に対して失礼である。
 きっと騎士団だから彼らも挨拶にはうるさいはずだ。だからこの挨拶はセーフ。

 まあ、セーフも何も当の騎士団の方々は、私語しまくりなんですけどね……。いや、でもだからといって、俺が話していいということにはならない。

「柏岡君もこの訓練を受けに来たんだね!あれだけキツかったから誰も来ないかもしれないって少し不安だったんだ……。皆はわざわざ、ここで頑張らなくても、他に向いてることがあるんだろうし。
 ちょっと厳しすぎないかな、って思ったけど、でも能力がないわけだから能力のある人よりも倍以上努力しなきゃいけないのは当たり前だよね。
 ね?柏岡君」

 そのまま話していてくれればよかったのに、相槌のひとつも打たない俺に違和感を覚えたのか、影井がじっとこちらを見つめてきた。
 その瞳は俺と話せることが嬉しいのか、心なしか輝いているように見えた。
 そんな目で見つめられたって俺は話さないぞ……。今回の俺の決意は固いのだ。
 キラキラとしていた影井の目は時が経つにつれて、困惑の色が広がっていき……。雲が太陽を隠すかのように影りが現れはじめた。
 そ、そんな顔をしたって俺は、俺は話さ……。

「もしかして、怒ってる?なんか僕、悪いことしたかなぁ……?何したか自覚は無いんだけど、ほんとにごめんね。悪気があったわけじゃないんだ……ごめん……」
「い、いや!別に怒ってないよ!?ごめんごめん。ちょっとぼうっとしてたんだ!」

 俺は怒ってないことをアピールする為に、無理矢理テンションを上げた。そのせいか、声が裏返ってしまったが、少し影井が安心したような顔になったので良しとしよう。

「ほんとに?」

 疑うような目で見てくるけど、さっきの顔より全然マシだ。いや、本当にさっきの表情は、胸が締め付けられるというか、罪悪感がすごいというか、俺が悪いことしたみたいな気持ちになるって言うか、いや、俺が悪いことしてるのは間違いないんだけど……。
 とにかく見てるだけで、心が削られたようだった。
 これが八束だったらなんとも思わないんだけどなあ。影井は優しいしいい子だから、罪悪感が増すんだろう。八束が不貞腐れてても自業自得って感じするし。

 今度から影井には優しくすることを心がけることにする。俺の心の安寧のためにも。彼の為にも。

「うんうん、本当だよ、ゴメンな」

 と言うと、影井は、ぱっと顔を輝かせた。可愛いかよ。
 その後少しムスッとして、

「でも、僕の話は聞いてくれると嬉しいな」

 と控えめに言った。可愛いかよ。

 もう影井と話してしまったので、八束を無視する必要性は正直あんまりない。
 大袈裟な話、小声で一言話すのも、大声で騒ぎ立てるのも破ったことには変わりないのだ。
 五十歩百歩、みたいな?

 でもまあ八束と話すと、影井が嫌な顔をするのは容易に想像出来る。
 だから、こちらを恨みがましそうに見てくる八束のことは無視させてもらう。ごめんよ、八束。
 ……という念を送りながら八束の方を見たが伝わっているかは怪しいね。
 未だに八束は納得いかないというような顔をしてるし。

「さて、揃ったな?」

 と、俺たちの方に歩み寄ってきたのは気だるげな印象を持った男だ。
 黒目黒髪なのには大変親近感を持つが、片目は前髪で隠れているし、唯一見える方の目は死んだ魚のように思える。

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