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エゴイスト2
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この世界は元の世界よりも物騒だ。その違いが今、俺達とアンジェラさんの意識の差となって顕著に表れていると感じた。
まあこればっかりはどうしようもないと思うけど。育ってきた環境が違うわけだし。
それに、正そう。とはあまり思わない。
確かにこの世界で生きていく上では、必要な適応なのかもしれない。
だけどこの世界に適応しても、元の世界に戻ったらどうなる?
きっとこの世界と元の世界とのギャップで苦しむことになるだろう。小さなことならまだいい。だけど大きな違いが現れたら?
気がついた時には、大量殺人を犯して捕まっていました。なんてこともあるかもしれない。
いや、すごい大袈裟な例えだけどね。
あーでも、元の世界の感覚のままだと平和ボケしすぎて死亡、なんてこともあるかもしれないのか。
……となると元の世界に戻った時になんの問題もない程度は変わらず、でも死なない程度にはこの世界に適応しなきゃいけない、ってこと?
……難しすぎでは?
ま、まあ、何とかなるだろう。多分。きっと。
「ま、まあ、その程度で済んで良かったです。しかし、たかだか眠りの呪文とはいえ勇者に攻撃を仕掛けるとは……」
アンジェラさんは表情をきゅっと引きしめ、難しい顔で考え込む。
「あ、あの、このことは報告しないようにして貰えますか?」
何となくアンジェラさんがあのおじいちゃんに罰を与えてしまいそうな気がして、思わず口を出す。
「何故ですか?」
アンジェラさんは驚いたような顔を見せた。
「いえ、あのおじいちゃんも進んで眠りの呪文をかけたわけじゃなくて、悩んでたので。だからそれで罰を受けるのは、少し可哀想じゃないですか」
そう言うとアンジェラさんは目を見開いた。
甘い、って思われてるんだろうな……。でもこれが俺の本心だ。おじいちゃんが苦しんでるのを見て、そのうえでさらに罰を与えよう、なんて思えない。
八束もきっと同じ思いのはずだ。そう思って彼の顔を見ると……八束も顔を顰めていた。
え?なんでだよ?お前もこっち側の人間じゃないのかよ……。
なんとなく裏切られたような気持ちになり、呆然としているとアンジェラさんがため息をついた。
「分かりました。私が言わなくてもほかの使用人から話は伝わると思いますが……その際にも彼の罰が軽くなるよう、お願いしてみましょう」
「ありがとうございます!アンジェラさん!」
俺は嬉しさのあまりに思わず、3回ぐらい頭を下げた。
するとアンジェラさんは手で俺が頭を下げるのを制し、困ったような表情を浮かべる。
「そんなに頭を下げないで下さい。私がカシオカ様に勝手に協力したくなっただけですので」
まあ、確かに……。
特に誰かを助けようとした訳でもなく、ただただ自分の為に行動していただけなのに、思わぬ相手から感謝をされると戸惑う気持ちは分かる。し、なんだか感謝されればされるほど、申し訳なくなってくる感じも分かる。
分かるけど、それでも感謝の気持ちは伝えたいんだよなあ。すごい自分勝手な話だけど。
感謝っていうのは言わなきゃ伝わらないし。
なんというか、人の事と、自分の事、この二つを上手く尊重させるって言うのはやっぱり難しい。
まあ、一度言ってみて、嫌そうな反応をされたらそれ以降は言わないことにしよう。うん、それがいい。
だから今回もこれでお礼は終わり。
しつこい男は嫌われるって言うしね。
「ところでなんでアンジェラさんは柏岡に協力したくなったんだ?
別に柏岡のことは嫌いじゃないってか、むしろ好きではあるんだが、そういう、なんつーの?甘いところだけはどうにも気になるからなあ。
そこに協力したいと思った理由が知りたい。アンジェラさんって、別に柏岡みたいにただただ甘い人間、って訳じゃないだろ?むしろ、冷血?って感じするし」
優しいでもなく、親切でもなく、甘いと表現するところがなんとも八束らしい。棘は感じるけど、それは多分、俺の甘さで俺自身が傷ついたことがあったからだと思う。
八束はその辺、上手く自分が傷つかないように、割りきれてるから、俺のことを見てるともどかしくなるのかもしれない。
そんなことを考えているとアンジェラさんがほうっと息を吐いた。
「そうですね。私が優しさと程遠い存在だということは、自覚しております」
「いや、そこまでは言ってないんだが……」
八束はさすがに言いすぎた。と思ったのか、バツの悪そうな顔をした。
まあこればっかりはどうしようもないと思うけど。育ってきた環境が違うわけだし。
それに、正そう。とはあまり思わない。
確かにこの世界で生きていく上では、必要な適応なのかもしれない。
だけどこの世界に適応しても、元の世界に戻ったらどうなる?
きっとこの世界と元の世界とのギャップで苦しむことになるだろう。小さなことならまだいい。だけど大きな違いが現れたら?
気がついた時には、大量殺人を犯して捕まっていました。なんてこともあるかもしれない。
いや、すごい大袈裟な例えだけどね。
あーでも、元の世界の感覚のままだと平和ボケしすぎて死亡、なんてこともあるかもしれないのか。
……となると元の世界に戻った時になんの問題もない程度は変わらず、でも死なない程度にはこの世界に適応しなきゃいけない、ってこと?
……難しすぎでは?
ま、まあ、何とかなるだろう。多分。きっと。
「ま、まあ、その程度で済んで良かったです。しかし、たかだか眠りの呪文とはいえ勇者に攻撃を仕掛けるとは……」
アンジェラさんは表情をきゅっと引きしめ、難しい顔で考え込む。
「あ、あの、このことは報告しないようにして貰えますか?」
何となくアンジェラさんがあのおじいちゃんに罰を与えてしまいそうな気がして、思わず口を出す。
「何故ですか?」
アンジェラさんは驚いたような顔を見せた。
「いえ、あのおじいちゃんも進んで眠りの呪文をかけたわけじゃなくて、悩んでたので。だからそれで罰を受けるのは、少し可哀想じゃないですか」
そう言うとアンジェラさんは目を見開いた。
甘い、って思われてるんだろうな……。でもこれが俺の本心だ。おじいちゃんが苦しんでるのを見て、そのうえでさらに罰を与えよう、なんて思えない。
八束もきっと同じ思いのはずだ。そう思って彼の顔を見ると……八束も顔を顰めていた。
え?なんでだよ?お前もこっち側の人間じゃないのかよ……。
なんとなく裏切られたような気持ちになり、呆然としているとアンジェラさんがため息をついた。
「分かりました。私が言わなくてもほかの使用人から話は伝わると思いますが……その際にも彼の罰が軽くなるよう、お願いしてみましょう」
「ありがとうございます!アンジェラさん!」
俺は嬉しさのあまりに思わず、3回ぐらい頭を下げた。
するとアンジェラさんは手で俺が頭を下げるのを制し、困ったような表情を浮かべる。
「そんなに頭を下げないで下さい。私がカシオカ様に勝手に協力したくなっただけですので」
まあ、確かに……。
特に誰かを助けようとした訳でもなく、ただただ自分の為に行動していただけなのに、思わぬ相手から感謝をされると戸惑う気持ちは分かる。し、なんだか感謝されればされるほど、申し訳なくなってくる感じも分かる。
分かるけど、それでも感謝の気持ちは伝えたいんだよなあ。すごい自分勝手な話だけど。
感謝っていうのは言わなきゃ伝わらないし。
なんというか、人の事と、自分の事、この二つを上手く尊重させるって言うのはやっぱり難しい。
まあ、一度言ってみて、嫌そうな反応をされたらそれ以降は言わないことにしよう。うん、それがいい。
だから今回もこれでお礼は終わり。
しつこい男は嫌われるって言うしね。
「ところでなんでアンジェラさんは柏岡に協力したくなったんだ?
別に柏岡のことは嫌いじゃないってか、むしろ好きではあるんだが、そういう、なんつーの?甘いところだけはどうにも気になるからなあ。
そこに協力したいと思った理由が知りたい。アンジェラさんって、別に柏岡みたいにただただ甘い人間、って訳じゃないだろ?むしろ、冷血?って感じするし」
優しいでもなく、親切でもなく、甘いと表現するところがなんとも八束らしい。棘は感じるけど、それは多分、俺の甘さで俺自身が傷ついたことがあったからだと思う。
八束はその辺、上手く自分が傷つかないように、割りきれてるから、俺のことを見てるともどかしくなるのかもしれない。
そんなことを考えているとアンジェラさんがほうっと息を吐いた。
「そうですね。私が優しさと程遠い存在だということは、自覚しております」
「いや、そこまでは言ってないんだが……」
八束はさすがに言いすぎた。と思ったのか、バツの悪そうな顔をした。
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