禁断×禁忌!兄の罪は妹に注がれる

にゃんこマスター

文字の大きさ
上 下
1 / 7

第1話 兄と妹の思い

しおりを挟む
 俺は神も仏も信じていない。もし神様がいるとしても、それは他の人のところだ。俺のところに来たことはないし、気が狂うほど祈っても、俺の願いを一つだって叶えてはくれなかった…。
 
 願いを叶えてくれるならもう神様じゃなくてもかまわない、どんな代償があってもいい…。頼むから…俺から妹を奪わないでくれ…

 妹が入院している病室で俺がそんなことを考えていると、不意に妹から声をかけられた。

「なんで私だけ、こんな病気になっちゃったんだろうね? 遺伝性が強いんだってこの病気…」

 病室のベットの上で、妹の真波まなみが俺をじっと見て、そう呟く。

「遺伝じゃなくても、この病気になることもあるんだぞ」

 俺は妹の言葉に内心ギクリとしながら、今日も苦しい言い訳を繰り返す。

 黒目がちな大きな瞳に、背中まである長くサラサラな黒髪。今にも溶けて消えてしまいそうな雪のように白く透き通った肌。この儚げなほど美しい少女が、俺の妹の真波まなみだ。

 妹は俺と血が繋がっていないことを知らない。病気で亡くなった伯母の赤ちゃんを、俺の両親が引き取ったからだ。俺が3歳のときに1歳の妹を引き取ったので、俺は自分に妹が出来た日の感動をよく覚えている。仲の良い兄妹として育ち、妹は俺にべったりのブラコン美少女に成長した。

 だがある日、妹が発病した。伯母と同じ病気だった、治療法のない難病が遺伝したのだ。

 俺と両親は愕然とした。でも話合って「たまたま妹がその病気になってしまっただけ」それで押し通すことに決めた。自分だけが家族と他人だと知れば、妹が傷つく。それだけは絶対に避けたかった…。
 
 ところが利発な妹は、おかしい?と察っしているのだろう、たまにこんな風に聞いてくる。

「お兄ちゃん、週末は来れないんだよね?」
「ごめんな、大事な用事があるんだ。父さんと母さんは来るから、お兄ちゃんがいなくても泣くなよ」

 俺はそう言って、妹の頭をぐりぐりと撫で回す。

「泣かないよ!? いくつだと思ってんのバカ! 用事って、まさかデートじゃないよね?」

 嫉妬丸出しで、じとりとした疑いの目を向けてくる妹の真波まなみ

「そんなわけないだろ、彼女いないのに!?」
「そっか、そうだよね! お兄ちゃんは、彼女いない歴=年齢だもんね!」

 ホッとしたように、嬉しそうにぷークスクスと笑い出す妹。

「生まれ変わったら、お兄ちゃんの恋人になってあげるよ、さみしい兄の救済のために」

「何いってんだバカ、もうすぐ退院だろ。元気になったら、イケメン彼氏候補でも家に連れて来い、俺がダメ出ししてやるから全員!」

 妹の真波まなみはもうすぐ退院予定だ。だが病気が治っての退院ではない。「余命わずかなので、後はご自宅で」というやつだ。だが妹にはそのことは伝えていない…。
 そんな妹が『生まれ変わったら』…なんて口にするのを聞いて、俺の心臓は抉られるように痛んだ。

「なにそれ! 全員ダメ出しされたら、ずっと彼氏できないじゃん! バッカじゃ…」

 器用に怒りながら笑う妹の真波まなみ。だが突然ゴホゴホと咳き込む。

「大丈夫か真波まなみ!?」
「ゴホッ…お兄ちゃんがバカなこと言うからむせただけ。お詫びにジュース買ってきて!」

 俺は慌てて妹の背中をさする。
 難病というのは治す手術も薬も存在しない病気のことだ。あるのは病気の進行を抑える薬だけ。だが薬は副作用が強く、服用すると今度は副作用にも苦しむことになる…。
 なのに妹の真波まなみは、俺にも両親にも辛いとか苦しいとか泣き言を言わなかった。身体は元気ではないが、心はいつだって明るく笑顔を絶やしたことがない。

「わかった、わかったから…もう喋らずに寝てろ!」

 背中にクッションを当てベットに上半身を起こしていた妹。俺は妹をベットに寝かせると、病院の売店に行こうと病室の入り口のほうへと歩き出す。すると俺の後ろ姿に、妹が声をかけた。

「迷惑かけてごめんね…毎日お見舞いにこなくても大丈夫だよ、受験生なんだから…」
「フッ、妹よ、俺にかかれば高校受験など余裕だ!」

 俺は中二病を患った男子のような口調で、ポーズをキメながら返答する。実際は大学共通テストの模試の結果も悪かったが、そんなことは今はどうでもいい。
 すると、それを見た妹の真波まなみが可笑しそうに破顔した。そのままでも可愛いが、妹は笑うとさらに可愛い。不意打ちの笑顔に、俺の心臓がトクンとねた。

 ほんのりと染まる頬を見られないように、妹に背を向け病室のドアに手をかけた時。

「大好き…、お兄ちゃん」

 ふいに漏れた妹の言葉が耳に響いて、ドキンとして俺の足が止まる。

「ハイハイ、真波まなみは俺の大好きな妹だよ(棒読み)」

 俺は照れ隠しに、振り返らずに手だけ振って棒読みで答えた。
 ほんのりどころか顔が真っ赤になってしまい、振り返ることが出来なかったのだ。いつもの他愛のないやり取りのはずなのに。なぜか『大好き…』って言葉がいつまでも耳から離れない。

「もう~お兄ちゃん、心がこもってない~! 罰としてプリンも追加ね!」

 俺の背中に向けて、ムキ~!と怒った声で注文を増やす妹の真波まなみ

「ハイハイわかったよ、近くのコンビニまで行ってくるよ」

 俺はそう言って足早に病室を出る。
 
 振り返らなくても妹が今どんな表情をしているのかわかる。唇を突き出して不満そうにアヒル口をしている妹の顔が浮かんで、思わず口元が綻ぶ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人形撃

雪水
ホラー
人形って怖いよね。 珈琲の匂いのする思い出が最近行き詰まり気味なので息抜きで書きます

The Last Night

泉 沙羅
ホラー
モントリオールの夜に生きる孤独な少女と、美しい吸血鬼の物語。 15歳の少女・サマンサは、家庭にも学校にも居場所を持てず、ただひとり孤独を抱えて生きていた。 そんな彼女が出会ったのは、金髪碧眼の美少年・ネル。 彼はどこか時代錯誤な振る舞いをしながらも、サマンサに優しく接し、二人は次第に心を通わせていく。 交換日記を交わしながら、ネルはサマンサの苦しみを知り、サマンサはネルの秘密に気づいていく。 しかし、ネルには決して覆せない宿命があった。 吸血鬼は、恋をすると、その者の血でしか生きられなくなる――。 この恋は、救いか、それとも破滅か。 美しくも切ない、吸血鬼と少女のラブストーリー。 ※以前"Let Me In"として公開した作品を大幅リニューアルしたものです。 ※「吸血鬼は恋をするとその者の血液でしか生きられなくなる」という設定はX(旧Twitter)アカウント、「創作のネタ提供(雑学多め)さん@sousakubott」からお借りしました。 ※AI(chatgpt)アシストあり

サヨナラが終わらない彼女の手紙

ネコート
ホラー
付き合っていた彼女に別れを切り出した俺。彼女は優しくそれを受け入れてくれた。 なのに… 連日届く手紙。混乱深まる日々。 果たして彼女の真意は? そして、その手紙自体が実は何なのか? episode.5で全てが明かされる… かもしれない ミステリ風恋愛ホラー短編小説です。 怪奇現象は起きません。 ※表紙はピュアニスタと言うアプリで作成した物です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

逢魔ヶ刻の迷い子3

naomikoryo
ホラー
——それは、閉ざされた異世界からのSOS。 夏休みのある夜、中学3年生になった陽介・隼人・大輝・美咲・紗奈・由香の6人は、受験勉強のために訪れた図書館で再び“恐怖”に巻き込まれる。 「図書館に大事な物を忘れたから取りに行ってくる。」 陽介の何気ないメッセージから始まった異変。 深夜の図書館に響く正体不明の足音、消えていくメッセージ、そして—— 「ここから出られない」と助けを求める陽介の声。 彼は、次元の違う同じ場所にいる。 現実世界と並行して存在する“もう一つの図書館”。 六人は、陽介を救うためにその謎を解き明かしていくが、やがてこの場所が“異世界と繋がる境界”であることに気付く。 七不思議の夜を乗り越えた彼らが挑む、シリーズ第3作目。 恐怖と謎が交錯する、戦慄のホラー・ミステリー。 「境界が開かれた時、もう戻れない——。」

神を信じぬ司祭の語り

蒼あかり
ホラー
辺境地の領主の子として産まれたエリザベート。 ある日突然姿が見えなくなるが、しばらくすると「魔物の森」の入り口で見つかる。 母は娘が悪魔に魂を乗っ取られたと疑うが、周りの者は誰も信じてはくれない。 エリザベートが成長するうちに、彼女の奇怪な行動を母が目にするようになる。 母は次第に娘を恐れ、命を狙われると訴えるが・・・ ※他サイトでも掲載しています。

不労の家

千年砂漠
ホラー
高校を卒業したばかりの隆志は母を急な病で亡くした数日後、訳も分からず母に連れられて夜逃げして以来八年間全く会わなかった父も亡くし、父の実家の世久家を継ぐことになった。  世久家はかなりの資産家で、古くから続く名家だったが、当主には絶対守らなければならない奇妙なしきたりがあった。  それは「一生働かないこと」。  世久の家には富をもたらす神が住んでおり、その神との約束で代々の世久家の当主は働かずに暮らしていた。  初めは戸惑っていた隆志も裕福に暮らせる楽しさを覚え、昔一年だけこの土地に住んでいたときの同級生と遊び回っていたが、やがて恐ろしい出来事が隆志の周りで起こり始める。  経済的に豊かであっても、心まで満たされるとは限らない。  望んでもいないのに生まれたときから背負わされた宿命に、流されるか。抗うか。  彼の最後の選択を見て欲しい。

一ノ瀬一二三の怪奇譚

田熊
ホラー
一ノ瀬一二三(いちのせ ひふみ)はフリーのライターだ。 取材対象は怪談、都市伝説、奇妙な事件。どんなに不可解な話でも、彼にとっては「興味深いネタ」にすぎない。 彼にはひとつ、不思議な力がある。 ――写真の中に入ることができるのだ。 しかし、それがどういう理屈で起こるのか、なぜ自分だけに起こるのか、一二三自身にもわからない。 写真の中の世界は静かで、時に歪んでいる。 本来いるはずのない者たちが蠢いていることもある。 そして時折、そこに足を踏み入れたことで現実の世界に「何か」を持ち帰ってしまうことも……。 だが、一二三は考える。 「どれだけ異常な現象でも、理屈を突き詰めれば理解できるはずだ」と。 「この世に説明のつかないものなんて、きっとない」と。 そうして彼は今日も取材に向かう。 影のない女、消せない落書き、異能の子、透明な魚、8番目の曜日――。 それらの裏に隠された真実を、カメラのレンズ越しに探るために。 だが彼の知らぬところで、世界の歪みは広がっている。 写真の中で見たものは、果たして現実と無関係なのか? 彼が足を踏み入れることで、何かが目覚めてしまったのではないか? 怪異に魅入られた者の末路を、彼はまだ知らない。

処理中です...