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番外編
決着 6
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馬車の中でアルファルドにレグルス様との話を聞こうとしたけど……頑として話そうとしてくれなかった。
私もしつこく聞くのは嫌だから、まぁアルファルドの中で解決? したのならいいのかなぁ、って自分に言い聞かせてる。
てっきり殴り合いみたいな展開になるのかと思ってたけど、意外なほど呆気ない感じで終わったみたいだね。
「…それより、これから先どうするつもりだ?」
「んー? 何が?」
馬車に乗って大公家に帰る途中、アルファルドが私の対面で話を切り出してきた。
「…大公国が認められたとしても、元々の大公領は過疎化が進み、整備しなければならない箇所が多すぎる」
「うん」
「…悪いが、ポーション販売を停止してる今、大公領にそこまでの税収はないぞ。人口も増えてはいるが……、とにかく足りないものが多すぎる」
「そうだね」
「…ミラっ!」
アルファルドはよっぽど不安なのか、腰掛けたまま本当に大丈夫なのかって疑うような表情をして私を見てる。
「その辺も考えてるからさ。アルファルドが不安になるのも分かるけど、私を信じてほしいな」
「…もちろん、信じているが……」
「でも、不安?」
「…正直な話、金銭面に関して、俺は全く自信がない。これからは領主ではなく、王族として国政を動かしていかなければならない。それにはさらに金が掛かる。…お前が商団のトップだったとしても、持ち金を使い切った今、どうやって国政を担うのか……」
「ん……? う~ん……」
「…領地民ではなく、今後は国民を率いていかなくてはいけないんだ。…国の頂点に立つ公王が貧窮し、国庫がひっ迫しているなど……あってはならないことだ」
ホントにさ、アルファルドってすごく偉い。
自分が国のトップに立ったから喜ぶとかじゃなくて、ちゃんと他の人のこと考えてくれてる。
元々のドラコニス公爵領だった頃も、アルファルドは老人ばかりだった領民から、無理やり税を徴収することはしなかった。
自分達の食べるものでさえ困ってたのに……
「アルファルド」
「…なんだ?」
「やっぱり俺、お前が好きだ」
「――どう、した? 急に……」
ニコっと笑ってアルファルドに素直な気持ちを伝えた。アルファルドは突然の事に、何がなんだか分からない顔してる。
「一つ言っておくけど、私の私財はあんな金額じゃ無くならないから。正確な数字までは覚えてないけど、あれはごく一部って事だけ言っとく」
「…あの、金額が……一部?」
「そう。加えて、私にはアウリガルに領地も金鉱山も持ってる。それに、シリウスとして活躍してた時の報酬は別の場所にあって、全く手を付けてないからね」
「なっ……!!」
揺れる馬車の中、席を立って驚いた顔してるアルファルドの膝の上に腰を下ろした。
アルファルドの首に両手を回して、またニコっと微笑んだ。
「お前を幸せにするって約束しただろ。俺がこんな中途半端な事で、お前を煩わすとでも思っているのか? お前を悩ますものは全部、無くしてやるって言ったはずだ。それは何においてもって意味だから」
「……ッ」
「俺の全てを投げ出しても、お前を幸せにしてみせる! だから余計な心配なんてするな。俺に任せろっ」
間近にあるアルファルドの頬に両手を添えて、綺麗なオッドアイを見つめてた。
「…アトリクス……」
アルファルドの表情も少し和らいで、私の腰に腕を回して抱き寄せてくれる。
「…だが俺は、お前ばかりに頼り過ぎて、何もできていない。…寧ろ、お前がトップに立ち、国を導くべきでは……」
「んー……私はさ、そういうのじゃないんだ」
「……そういうの、とは?」
アルファルドはさらに何がなんだかわからない顔してる。その様子が可愛くて思わず笑っちゃった。
「ねぇ、アルファルド。私ができないことって何か知ってる?」
「…お前が、できないこと? …そんなもの、ないだろ?」
「それがさぁ、結構あるんだよ。――まず私ってさぁ、ダンスがまったく踊れないんだ」
「…は?」
「小さい頃忙しすぎてダンスの授業サボって、剣術の練習とか商品開発ばっかしてたからさ。それに料理は壊滅的にできないし、お淑やかにするのも女らしくするのも苦手。裁縫も指に針刺しちゃうし……、淑女って点では、誰よりも劣ってる」
「…そう、なのか?」
アルファルドは意外そうな感じで目を見張って、すぐ側の私の顔を見てた。
「うん。……でも私は、それを悪い事だと思ってない」
「……」
「私はさ、人にはそれぞれの役割があるって思ってる。私が他の貴族のご令嬢と同じくしてたら、誰からも声は掛からなかったと思うよ?」
「…そんな事はない! お前は誰よりもすごい奴だ!」
「ハハッ、ありがとう! アルファルドはそう言ってくれるけど、きっと他の人は違うよね? 貴族の子女としては外れすぎてるからさ」
貴族のご令嬢なんてむしろそれが当たり前だから。私みたいに真逆な女は、普通に考えたら相手にもされないよね。
「だから私は、私が一番輝ける分野で活躍できるように努力した。本意じゃなかったけど、女でも帝国の全師団のトップに立って、今じゃ大陸で私を知らない人はいないくらい有名になった」
「――あぁ。お前の言う通りだ」
「まだ、わかんない? アルファルドにも同じことが言えるんだよ?」
「……俺に? ……どういうことだ??」
私の言ってる言葉の意味が分からないみたいで、アルファルドは首を傾げて私を見てる。
馬車の中でアルファルドにレグルス様との話を聞こうとしたけど……頑として話そうとしてくれなかった。
私もしつこく聞くのは嫌だから、まぁアルファルドの中で解決? したのならいいのかなぁ、って自分に言い聞かせてる。
てっきり殴り合いみたいな展開になるのかと思ってたけど、意外なほど呆気ない感じで終わったみたいだね。
「…それより、これから先どうするつもりだ?」
「んー? 何が?」
馬車に乗って大公家に帰る途中、アルファルドが私の対面で話を切り出してきた。
「…大公国が認められたとしても、元々の大公領は過疎化が進み、整備しなければならない箇所が多すぎる」
「うん」
「…悪いが、ポーション販売を停止してる今、大公領にそこまでの税収はないぞ。人口も増えてはいるが……、とにかく足りないものが多すぎる」
「そうだね」
「…ミラっ!」
アルファルドはよっぽど不安なのか、腰掛けたまま本当に大丈夫なのかって疑うような表情をして私を見てる。
「その辺も考えてるからさ。アルファルドが不安になるのも分かるけど、私を信じてほしいな」
「…もちろん、信じているが……」
「でも、不安?」
「…正直な話、金銭面に関して、俺は全く自信がない。これからは領主ではなく、王族として国政を動かしていかなければならない。それにはさらに金が掛かる。…お前が商団のトップだったとしても、持ち金を使い切った今、どうやって国政を担うのか……」
「ん……? う~ん……」
「…領地民ではなく、今後は国民を率いていかなくてはいけないんだ。…国の頂点に立つ公王が貧窮し、国庫がひっ迫しているなど……あってはならないことだ」
ホントにさ、アルファルドってすごく偉い。
自分が国のトップに立ったから喜ぶとかじゃなくて、ちゃんと他の人のこと考えてくれてる。
元々のドラコニス公爵領だった頃も、アルファルドは老人ばかりだった領民から、無理やり税を徴収することはしなかった。
自分達の食べるものでさえ困ってたのに……
「アルファルド」
「…なんだ?」
「やっぱり俺、お前が好きだ」
「――どう、した? 急に……」
ニコっと笑ってアルファルドに素直な気持ちを伝えた。アルファルドは突然の事に、何がなんだか分からない顔してる。
「一つ言っておくけど、私の私財はあんな金額じゃ無くならないから。正確な数字までは覚えてないけど、あれはごく一部って事だけ言っとく」
「…あの、金額が……一部?」
「そう。加えて、私にはアウリガルに領地も金鉱山も持ってる。それに、シリウスとして活躍してた時の報酬は別の場所にあって、全く手を付けてないからね」
「なっ……!!」
揺れる馬車の中、席を立って驚いた顔してるアルファルドの膝の上に腰を下ろした。
アルファルドの首に両手を回して、またニコっと微笑んだ。
「お前を幸せにするって約束しただろ。俺がこんな中途半端な事で、お前を煩わすとでも思っているのか? お前を悩ますものは全部、無くしてやるって言ったはずだ。それは何においてもって意味だから」
「……ッ」
「俺の全てを投げ出しても、お前を幸せにしてみせる! だから余計な心配なんてするな。俺に任せろっ」
間近にあるアルファルドの頬に両手を添えて、綺麗なオッドアイを見つめてた。
「…アトリクス……」
アルファルドの表情も少し和らいで、私の腰に腕を回して抱き寄せてくれる。
「…だが俺は、お前ばかりに頼り過ぎて、何もできていない。…寧ろ、お前がトップに立ち、国を導くべきでは……」
「んー……私はさ、そういうのじゃないんだ」
「……そういうの、とは?」
アルファルドはさらに何がなんだかわからない顔してる。その様子が可愛くて思わず笑っちゃった。
「ねぇ、アルファルド。私ができないことって何か知ってる?」
「…お前が、できないこと? …そんなもの、ないだろ?」
「それがさぁ、結構あるんだよ。――まず私ってさぁ、ダンスがまったく踊れないんだ」
「…は?」
「小さい頃忙しすぎてダンスの授業サボって、剣術の練習とか商品開発ばっかしてたからさ。それに料理は壊滅的にできないし、お淑やかにするのも女らしくするのも苦手。裁縫も指に針刺しちゃうし……、淑女って点では、誰よりも劣ってる」
「…そう、なのか?」
アルファルドは意外そうな感じで目を見張って、すぐ側の私の顔を見てた。
「うん。……でも私は、それを悪い事だと思ってない」
「……」
「私はさ、人にはそれぞれの役割があるって思ってる。私が他の貴族のご令嬢と同じくしてたら、誰からも声は掛からなかったと思うよ?」
「…そんな事はない! お前は誰よりもすごい奴だ!」
「ハハッ、ありがとう! アルファルドはそう言ってくれるけど、きっと他の人は違うよね? 貴族の子女としては外れすぎてるからさ」
貴族のご令嬢なんてむしろそれが当たり前だから。私みたいに真逆な女は、普通に考えたら相手にもされないよね。
「だから私は、私が一番輝ける分野で活躍できるように努力した。本意じゃなかったけど、女でも帝国の全師団のトップに立って、今じゃ大陸で私を知らない人はいないくらい有名になった」
「――あぁ。お前の言う通りだ」
「まだ、わかんない? アルファルドにも同じことが言えるんだよ?」
「……俺に? ……どういうことだ??」
私の言ってる言葉の意味が分からないみたいで、アルファルドは首を傾げて私を見てる。
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