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番外編

断罪 5

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「いや、待て! 待つのだシリウスっ!! 早まるなッ! わかった、余の権限でレグルスを謹慎処分にしてもいいっ」
「え、えぇ。これは明らかにやり過ぎです。ロイヤルマスターであるシリウス帝督に、ここまでの事を仕出かしたのですからっ!」
 
 レグルス様ってポルックス公爵にしては身内だし、未来の皇帝になる立場の人間だから大々的に裁けないんだろうね。

「謹慎処分? そんな生温い刑で、俺の気が済むとでもお思いか……?」
「ッ」
「では……、どんな……」

 私は机の前で腕組みながら仁王立ちしてて、二人の前に片手を上げて指を二本出す。

「俺から提案する選択肢は二つしかない。皇太子の廃嫡か……、もしくは大公領を帝国から分断し、一つの国として認めるかだ」

 私の言った提案にポルックス公爵と宰相さんは目を見開いてる。
 
「皇太子の廃嫡っ?! そんなことは不可能だ! それだけはできんぞっ!」
「大公家の分断とは……、帝国から離脱して、別の国家を作るということですか?!」

 ま、予想通りの驚きようだね。
 こんな反応は初めからわかってたし。

「その通り。大公家の領土を新たに国として建国し、大公国とすることだ」
「た、大公国っ……?!」

 実は前、アルファルドに言われた時からずっと考えてた。どうしたらアルファルドがこれ以上こんな馬鹿な目に合わなくて済むのかって。

「お待ち下さいっ! 今ある領地を新たに国として登録するには、人口の確保や様々な条件を満たすことはもちろん、さらに帝国の許可を経て全ての領土を買い取る事になります! それには想像もできないくらい莫大な資金が必要になるのですよ?! たとえシリウス帝督がSSS級冒険者で稼いでいたとしても、大公家がポーション事業で資産家になっていても……、あれだけの規模の土地を買い取るにはとても足りません!!」

 宰相さんはポルックス公爵の傍らで焦ったように話してる。

「問題ない。金なら掃いて捨てるほどある」

 しれっと答えた私の言葉を全く信じていないのか、すごい剣幕で返してきてる。

「しかしッ! ざっと見積もっただけでも……十億Gは軽く超えますっ!」
「…じゅ、十億Gっ!? …待て、アトリクスっ! そんな金額はさすがに無理だっ!! なにも、ここことまでしなくとも……、俺は気にしない」

 想像もできないくらいの大金を言われて、アルファルドがめちゃくちゃ動揺してる。
 十億Gなんて帝国の国家予算の三、四年分だよね。
 普通の貴族でも、皇族でさえもここまでの資産を持ってる人なんていないよ。

「慌てるな、アルファルド。大丈夫だ」
「…だ、だがッ! そんな途方もない金額……借金したとしても返せないぞっ!」

 借金ていう言葉にアルファルドは恐怖を感じるのか、焦ったように私の肩をぎゅっと掴んで迫ってきてる。

「俺を誰だと思ってる。アルファルドの為ならなんだってやるぞ?」
「…しかし……」
「それにお前が気にしなくても、俺が嫌なんだ。お前がこう言ったことをなんでも諦めて黙認するのは悪い癖だ」
「…っ! だが、俺には……そうすることしか、できなかった……」
「わかってるさ。だからこそお前を脅かすものは何であっても許せない。アルファルドが心配する必要なんて何もない。俺に任せろっ!」
「…アトリクス……」

 力強く肩を掴まれたままニコッと笑うと、アルファルドも少しは落ち着いたのか掴んでた手を離した。
 
「ま、俺としては、皇太子の廃嫡を望むところだが……、不可能なのか?」

 またポルックス公爵の方を向いて、返事を待つけど……ポルックス公爵は座ったまま険しい顔をしてる。
 これはただの建前。
 皇太子の廃嫡なんて無理に決まってる。でもあえて確認してる。

「それは……、前皇帝である兄上の意志だ……。所詮、予は即席の皇帝にすぎん。正式な皇帝の座はレグルスへと託される」
「ハァ……、あの皇太子が皇位に就いたら、この帝国も終わりだな。言っとくが俺がロイヤルマスターとして役目を受けたのは、他でもないカストル皇帝陛下……貴方だからだ」
「っ! シリウス、それは真にありがたいが……」
「皇太子が皇帝に即位した瞬間、俺はこの任を即座に放棄し、それと同時に皇室への反旗を翻す。それを回避したいのであれば後者の選択をお勧めする」

 私としてはこんなことしないで、黙って計画を進めても良かったんだけど……
 手の内明かすのは好きじゃないし。
 けど、アルファルドは叔父さんのポルックス公爵には割と好意的だし、ポルックス公爵も私やアルファルドに対して色々と譲歩してくれてる。
 だからこそわざわざ皇宮までやって来て、こうして交渉させてもらってるんだ。

「くッ……! どうにかならんのかっ、シリウスッ!!」

 バンっと机をから立ち上がって、ポルックス公爵が私に問い詰めるけど、私の心はもう決まってるから。

「俺の意志は変わらない。元より、アルファルドを幼い頃からずっと虐げてきた皇室が俺は何より許せない。それを更にここまでされ、これ以上黙認する事などできるわけがないっ! 平和的解決を望むのなら、選択肢はもう決まっている……」

 ズバッと指摘して腕組んで仁王立ちしてる私に、ポルックス公爵も宰相さんも気まずそうに俯いてる。

「――……、それに、関しては……返す言葉もない……」
「シリウス帝督。少し……、お時間を頂けますか……? レグルス皇太子殿下にも確認が必要ですし、もしもの手続きにも時間が掛かります……」

 これが宰相さんの時間稼ぎだってわかってるけど、ここはあえて乗らせてもらう。

「あぁ、もちろん俺もそのつもりだ。先にも言ったはずだ、確認しに来たと。今すぐの返答は求めていない。だが、どちらを選択するか……帝国の未来の為にも、お二人にご一考願おう」

 アルファルドの腕掴んでさっさと退室した。
 扉が閉まる寸前に二人の呟きが耳に入った。

「なんと言うことだ……」
「ふぅ……。これは、大変な事になりそうですね……」
 
 その言葉の後、パタンッと扉が閉まった。
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