上 下
365 / 392
番外編

新学園生活 5

しおりを挟む


「アトリクス君っ」

 その日の帰り道。

 廊下を抜けて庭園へと続く回廊を歩いてたら、後ろから急に呼び止められた。

「なんだ?」

 立ち止まって振り返ると、そこにはアケルナーとリゲルがいた。

 うわっ……、よりによってこの2人。
 なんか、ヤな予感がする。
 アケルナーは意気揚々と歩いて来てるのに、隣のリゲルはどっちかっていうと嫌そうな感じ。

「アトリクス君、あなたにお願いがあります。どうか僕を、大公家の騎士団に入団させて下さいっ!」
「………はあ?」

 アケルナーは至って真剣に話してるだけど、私は予想もしない発言に思わず疑問の声が漏れちゃったよ。

「おいっ、アケルナー! お前本気で言ってるのか?!」 

 一緒に着いてきたリゲルの方が意外と冷静で、アケルナーを止めてる感じだった。

「僕は本気です。アトリクス君の元でぜひ、魔力操作や剣技を学びたいんです。皇宮の魔法騎士団など、どうでもいいです!」
「お前なぁ、言葉に気を付けろよっ!」

 アケルナーの胸ぐらを掴んで説得してるけど、アケルナーは私の方をずっと見てて、ちょっと……いや、かなり怖い。

「お願いいたします、アトリクス君。僕の実力はあなたもご存知のはずです。入団しても、決して君を失望させるような真似はしません!」

 回廊の少し離れた場所でお互い話してるのに、なんだか熱気と圧がすごい。

 いやぁー……、無理。
 まず、怖いし。目がギラギラしてるし。アケルナーの貪欲な強さに対する姿勢が真剣過ぎて……やっぱりイヤだ。

「ハァ……、却下だな。俺は、欲しいヤツは自分で声をかけてる。お前に声がかからないってのは、そういうことだ」
「なっ……!」

 私はさ、もっとアットホームにしたいんだよ。
 ほんわかしながら、やる時はやる! みたいな感じでさ……
 アケルナーだとずっと気を張って、戦場の第一線で活躍してますっ! って感じ。
 その必死さが他の人の気まで張り詰めさせそうで嫌なんだよね。
 
「悪いが、諦めろ」
「なぜです!? 理由をお聞かせ下さいっ」

 アケルナーは拳を握りしめて、腕組んで断った私を睨むように見て、食ってかかってる。
 アケルナーからしたら、自分以上に実力の高い人間なんて、アカデミアにはいないって思ってるんだよね。自分の実力に対する自信が滲み出てるもん。
 
「まずお前は余裕がない。自分のことばかりで、周りを気遣うこともできてない。自分の強さしか求めていないやつに、誰かを救うことなんてできるか?」
「――っ!」
「騎士団てのは個人戦じゃないんだ。強さだけが全てじゃない。だったらまだ、リゲルの方がマシだ。お前はもう少し自分を見つめ直せ。それから出直して来い……」

 すっぱり諦めてほしいから、ズバッと言わせてもらった。変に期待持たせると絶対面倒になるからね。

 くるっと後ろ向いてまた正門へと向かおうとしたのに、ここで今度はリゲルが呼び止めてきた。
 
「おいっ、平民っ! あ、いや……、アトリクスっ!」
「あ? なんだ」

 珍しくリゲルが私のこと、名前で呼んでる。

「確かにアケルナーは強い奴にしか目がないし、単体行動するし、言っても全然聞かない時もあるけどっ!」

 え……? なんなの?
 それって肯定してるだけで、全くフォローになってないんだけど。
 
「こいつだってちゃんと俺のこと考えて、危ない時とかは突っ走らないで助けてくれるんだっ! こいつのこと何もわかってないクセに、わかったようなこと言うなっ!」

 うーん、リゲルって怪しいんだよね……
 男になってた私だからわかるけど、アケルナーに対して友情以上のものを感じてると思うんだ。私とアルファルドみたいにさ。

「へぇ……? そこまで言うなら、お前が一緒に志願しろよ。それができるなら考えてやってもいいぜ?」
「……はっ? な、なんで俺が!?」

 リゲルが口開けたまま驚きに固まってる。

「アケルナーのことはお前が一番良くわかってるんだろ? だったら、お前がこいつの面倒見ろよ。じゃなきゃ中途半端な覚悟で、いちいち他人のことに口出しするなっ」
「ぐっ……!」
「それにリゲル。お前が大公家に従うのなら、俺やアルファルドを主と認めなければならない。お前にそれができるとは思えないがな……」

 こんな美少女顔してるけど、リゲルは侯爵家の嫡男。跡取りなのはもちろんだけど、ここの侯爵家は皇室との繋がりも強い。ま、アケルナーの家門も皇室派だからね。
 皇室との確執があるドラコニス大公家の騎士団に入るなら、相応の覚悟をしないといけないよね。

 そんなリゲルが家門を取るか、アケルナーを取るか……
 さぁ、どっちかな? 意地悪いってわかってるけど、こっちとしては勘弁してほしいし。
 やっぱり私って悪役向きだよね。
 
「時間はまだある。よく考えろ」
「アトリクス君っ! リゲルが共に入団すれば、僕のことも――」
「勘違いするな。あくまで、考えるだけだ。お前らに選択権はない。決めるのは俺だ」

 腕組んだまま睨んで、冷淡な視線を2人に向けた。

「「――っ!」」
 
 冷や汗流しながら2人は私を見て動きを止めてる。

 牽制も込めて殺気も纏わせておいたから、これで諦めるかな?
 この2人ってミティスト本編だと、卒業後は皇室の魔法騎士団に入団するんだ。
 私がイレギュラーに、大公家の騎士団結成するなんて言っちゃったからいけないんだよね。
 
「…アトリクスっ! …どうした?」

 正門で待っててってアルファルドには言ってあったから。
 私が遅いのを心配して、わざわざ迎えに来てくれたみたい。

 リゲルとアケルナーを一瞥して、回廊を走って私の元に駆け寄って来てくれる。

「…何か、あったのか?」

 訝しそうに近づいて、すかさず私の肩を抱き寄せてくれた。
 そんな仕草にドキッとしちゃう。
 庇ってもらってるのが擽ったくて嬉しくて、初めの頃に比べたらアルファルドも成長したなぁ、って感心するよ。
 私をこんなふうに扱ってくれるのって、今はアルファルドしかいないから。

 私もアルファルドの体に抱きついて、安心させるようにニコッと笑った。

「いや、問題ない。帰ろうぜっ」
「…本当か?」
「うん!」

 立ち尽くしてる二人を後に、アルファルドと一緒に正門へと歩き出した。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

悪役令嬢を拾ったら、可愛すぎたので妹として溺愛します!

平山和人
恋愛
転生者のクロエは諸国を巡りながら冒険者として自由気ままな一人旅を楽しんでいた。 そんなある日、クエストの途中で、トラブルに巻き込まれた一行を発見。助けに入ったクロエが目にしたのは――驚くほど美しい少女だった。 「わたくし、婚約破棄された上に、身に覚えのない罪で王都を追放されたのです」 その言葉に驚くクロエ。しかし、さらに驚いたのは、その少女が前世の記憶に見覚えのある存在だったこと。しかも、話してみるととても良い子で……? 「そういえば、私……前世でこんな妹が欲しかったって思ってたっけ」 美少女との出会いが、クロエの旅と人生を大きく変えることに!?

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...