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アルファルド編

アルファルド視点 14(終末を終えて)

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 至急公爵家に戻り、ミラを部屋に寝かせた。

 顔色も悪くない…呼吸も穏やかだが…、何度呼びかけても目を覚まさない…。
 
 念の為、もう一本ハイポーションを飲ませた。

『旦那様、化け物はどうなったんだい!?』
『先程の方は…』
 
 リタとベッテルにもある程度、事情を説明した。 
 あまりの驚きに、二人とも困惑していた。

『どういう事だい?!し、シリウス様が、アートだって…』
『そ…、それはっ…一体……』

 ひとまず、このままシリウス卿を療養させると言って、俺はすぐ部屋へ戻った。
 
 一時でもミラから離れたくなかった。

 
 ベッドに横たわるミラを確認し、ほっとする。

 先程より、さらに穏やかな顔になった。
 
 汗で張り付いた亜麻色の髪を撫でた。
 シリウス卿の黒衣も、ボロボロで…あの天使と戦った時にやられたのか、切られた箇所が数えきれない程あった…。

 ミラ…、お前は、こんなに…、傷ついてまでッ……。
 こんな世界なんて、どうでもいいっ…!お前が無事で…、本当に…良かったッ…!

 ミラの手を取り、両手で握り締めた。込み上げてきた涙が、シーツを濡らす。

 俺はしばらく…、ミラから離れられなかった。



 気持ちが、落ち着きを取り戻した頃には、随分時間が経っていた。
 汗に濡れた黒衣を脱がせ、マントに包み、抱き抱えながら共に湯に浸かった。

 体に傷は…ない。ポーションのおかげか…だが、まだ目を覚まさない…。

 お前の笑顔が見たい…、俺に向かって、嬉しそうに笑いかける、ミラの顔が見たい…。
 早く目覚めて…、その瞳に、俺を映してくれッ…!
 
 湯に浸かったまま、ミラの体を抱きしめた。
 
 湯浴みを終え、女物の着替えもないから、ミラに自分のシャツを着せた。
 
 部屋に寝かせ、じっと静かに眠るミラを眺めていた。

 ベッテルやリタが部屋を訪ねてきたが…、俺が出ることはなかった。
 
 食事も取らないまま、夜を迎え…ミラを抱きしめたまま、同じベッドで横になった。
 
 呼吸はしている、心臓も動いてる…、温かい…。
 だが、意識が戻らない…。
 不安が、押し寄せる。
 
 いや…、明日には、目を覚ますはずだ…。

 俺はミラの温もりを感じながら、眠りについた。




 次の日。
 まだ…ミラは目覚めなかった。
 
 穏やかな寝顔に、すぐにでも目覚めそうだが…。
 また、ハイポーションを口移して飲ませた。
 
 この日も俺は部屋から出なかった。
 リタもベッテルも、何度も部屋に来たが…、俺はミラの側から離れなかった。
 
 いつ目を覚ますかもわからないミラの隣で、ずっと手を握っていた。


 そしてまた、目覚めないまま…、夜を迎えた。

 湯浴みを終えると、部屋の前に食事が置いてあった。他の使用人は、立ち入りを禁じていたから、おそらくベッテルが運んでくれたのだろう…。
 
 ありがたいが…、とても、食べる気になれない…。

 そのまま、ミラと共に部屋へと戻った。

 ベッドへ横たえ…、意識の戻らないミラを見て…、俺は、言い知れない不安に襲われてきた。

 このまま…ずっと、ミラの意識が戻らなかったら…? 
 ずっと眠ったままで、二度と目を覚ます事が、なかったら……。

 瞳を閉じたまま、眠っているミラを眺め…、あまりの恐怖にゾッとした。
  
 俺に向けられる熱い視線も…、俺を好きだと囁く声も…、俺だけに見せる嬉しそうなあの笑顔も……。
 もう、二度と…見れなくなってしまったら……。

 サァー…と血の気が引き、体中の力が抜けた。呼吸が荒くなり、胸元を抑え、どうにか気を沈めた……。

 幼い頃、感じた以上の恐怖と絶望が襲ってくる。
 漠然とした恐怖に、急いでベッドに捲り、ミラの体を抱きしめた。

「…ミラ…、ミラッ……、頼むから…早く…、目を…覚ましてくれっ!……頼むっ…、お願いだっ……」
 
 何度呼んでもやはり返答は無く…、部屋に俺の声だけが、虚しく響いた…。
 
 
 

 
 次の日。

 俺は、怖くて…ほとんど寝れなかった…。
 もしかしたら、このまま、ミラが死んでしまうのではないか、と…。

 ハイポーションも、何度も飲ませているのに、今だに目を覚まさない。
 寝ている間に、容態が急変したらと思うと、怖くなり…寝ることが出来なかった。

 部屋の外から、ノックや、食事を置いていく音がするが…、全て無視した。


 
 そしてまた…夜が、やってきた…。
 
 湯浴みを終え、部屋へと戻り…、ミラをベッドへ寝かせた。
 しばらく側にいた後、少しの間、自分の部屋へ戻っていた。

 戻ると、ベッドにいるはずのミラがいない。

 ミラっ!?先ほどまで確かにいたのに…、一体どこへ行ったっ!!
 
 部屋を見渡すと、窓際のカーテンが風に揺られていた。
 
 窓が…開いてる?
 俺は、開けてない…。まさか、外に…出たのか?いや、もしや…、誰かに攫われてしまったのかッ!?
 
 不安と焦りが一気に襲う。
 すぐにカーテンを潜り、ベランダへ続く窓の外へと出た。



 そこには、月明かりに照らされた、ミラの姿があった。




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